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キミとふたり、ときはの恋。【第二話】
立葵に、想いをのせて【8−8】
しおりを挟む「奏人? どうして、そんなこと……」
聞くの? 『何か』って、何? 相手は煌先輩なのに。
そ、それに、ささっ、触っ……。
「こんなこと聞いてごめん。けど、我慢できないんだ」
あ、これ、さっきと同じだ。さっきも『他の人』って言い方で、こんな苦しげな声を出してた。
——ナンパされた君を助けただけにしては、あまりに親密な雰囲気だったから……だから、我慢できなかった。
この時は、私からその表情を隠すように横を向いてしまったけれど、今の奏人は、真っ直ぐ私を見てくれてる。
眼鏡の奥の綺麗な黒瞳は、揺らぐことなく、私にその煌めきを向けていた。
「涼香」
声色が、また変わった。苦しげなものから、いつもの声色へ。
けれど、いつもよりは少し低くて、色めいた声。
「この手、伸ばしてたよね? あの人に」
「あ……」
繋いでた左手が上げられて、手の甲に口づけられた。
キスしながら、食みながら、絡め合った指先まで、奏人の唇が滑っていく。小指、薬指。一本ずつ丹念に。
順に奏人の熱が落ちていくのを、肌と視覚で感じて、ふるりと身が震えた。
「俺、あの人に手を差し出してた時の君の笑顔に、とんでもなく妬けたよ」
ドクンッと、心臓が跳ね上がった。射抜くような、奏人の目線の強さに。
はっきりと『妬いた』と言われて、誤解させてることを説明しなきゃと思うのに。
『違う。ただ、ネイルを見てもらおうとしてただけ』
そう言えばいいだけなのに、何故か言葉が出てこない。
だって唇が……五本の指全てに這わされる奏人の唇が、すごく熱くて。その動きが、とっても愛しげで。
それで、組み合わせた関節の上に唇を乗せて見つめてくる黒瞳が、とても綺麗で、熱くて。その光が、『好きだ』と言ってくれてるのが、しっかりと伝わってきたから。
狂おしいほどの熱さで、その瞳と唇が伝えてくれてるから。だから、その熱に浸りたい。
何より先に、このひとに好かれてることの嬉しさを、触れてくれる熱で実感するほうを、私の本能が優先していた。
「ねぇ。俺があそこで声をかけなかったら、あの人、ここに触れてた? それとも、既にどこか、触られてた?」
「……ひゃんっ」
依然、手は放してはもらえず。『ココ?』と聞きながら、指先がはむっと食まれて、変な声があがった。
「さっ、触ってない!」
否定しながらブンブンと首を振り、赤くなった顔を俯いて隠す。
うわぁーん、恥ずかしい! 『ひゃんっ』とか、言っちゃった! しかも声、裏返ってたし!
思わずあがったとはいえ、こんな変な声を聞かれて恥ずかしいっ。
それでも、この流れなら誤解だって説明できるかな?
そう考えながら顔を上げて、正直に言葉を続けていく。
「ほんとよ? 手は、絶対に繋いでないもん」
その瞬間、奏人の口元が綺麗な弧を描いた。
「あぁ、こっちか。ふーん、『手は、絶対に繋いでない』ね……どっちにしろ、ムカつくな」
「え、何? なんて言ったの?」
低めた艶声が、何かたくさん呟いたけど、『あぁ、こっちか』の後が聞き取れなかった。というか『こっち』って、どっち?
「ん? 涼香が正直者で可愛いって言ったんだよ。目線で、はっきりと教えてくれたからね。――ねぇ、涼香? 質問に答えて?」
薄く笑った後。手首に唇を移動させた奏人がそこを軽く食み、色気たっぷりの流し目で私を射抜いてきた。
「噛み痕とキスマーク、どっちがいい?」
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