65 / 85
キミとふたり、ときはの恋。【第二話】
立葵に、想いをのせて【8−6】
しおりを挟む奏人は悪くない。悪いのは、私だ。だけど私が謝れば、奏人だって謝る。
そしたら、お互いにずっとその繰り返しになっちゃう。そんなの、駄目。
だから、『大好き』だけを伝えるの。
「えと、これで終わりだけど。最後に、もうひとつ言わせてね。あの……今日の奏人、すごくかっこいい」
きゃーっ! 言っちゃったぁ!
「その浴衣、とっても素敵だし、すごく良く似合ってるわよ? 黒と紺の縦縞に薄ーくピンクのラインが入ってるなんて、着る人を選ぶオシャレなお仕立てなのに、それを難なく着こなしちゃってるとこも、かっこいい。わ、私ねっ。浮見堂で会ってから、実はずーっとドキドキしててっ。それからっ……っ、きゃっ!」
「涼香? ここで、それは反則だって。全く、どこまで煽る気?」
えぇっ? 『反則』って、何? というか、それよりこの体勢!
私、奏人の手を握って話してたはずなのに。なのに、露台に腰掛けてたはずの身体が、今、宙に浮いてるの。
つまり、奏人が片手だけで私を抱き上げて。それに慌てた私が放したほうの手で、今度は腰もしっかりと抱え直されて。ギューッて! ギューッて、されてますっ!
「はぁぁ……ほんと君って、俺をどうしたいわけ?」
どうもしません! というか、どうにかされてるのは私のほう! なんですけどっ?
「あのっ、奏人? お、おろしてっ? 重いから! 私、重いからっ」
「無理。今は、無理。離せないよ……可愛すぎて、無理」
「やっ、あの、でもっ……」
可愛い、なんて嬉しいけども! でも、でもっ、こんな体勢っ……ひっ、人目が気になるのよっ。
「涼香」
あ、ちょっとだけ『ギューッ』が緩んだよ? おろしてくれるのかな?
「涼香のこと好きすぎて、離せない。だから、無理。――ねぇ、嫌がらないで?」
もおぉっ! そんな色っぽいお顔と声で囁かれて、私のほうが色々と『無理』ですぅ。
「奏人、ずるい。私が嫌がって言ってるわけじゃないって知ってるでしょう? なのに、そんな言い方するなんて……」
「涼香が、先にめいっぱい煽ったんでしょ?
あ、そうだ。せっかくだから、さっきの続きを聞かせてもらおうかな。俺にずーっとドキドキしてて、の後、『それから』の続きは、何?」
最後の問いかけ。その部分だけが特に甘い声に変わった。
ほら、やっぱりずるい。
「あ、あのね。えと……そんな素敵な奏人だから、私がつり合えてない気がして、ものすごく不安になっちゃいました。でもでも! つり合えてなくても、隣にいたいんですっ」
だって、こんなこと私に言わせるんだもの。自分から、ぎゅっとしがみつかせたりするんだもの。
「大好きだからっ!」
「ふっ。何で、いきなり敬語? けど、涼香から抱きついてくれるなんて嬉しいな。ありがとう」
軽く笑った奏人が、抱きしめる力をまた強めた。
こうして、ぎゅっと出来ること。正直、私も嬉しい。
「え? 嘘っ」
けど、奏人の肩越しに見えてしまったものに声があがる。
「あ、ねぇ、奏人。人っ、人が居る。あそこ!」
月を浮かべた池にかかる、綺麗なアーチ型の石橋。その上に人影が見えた。何人も。
「ん、そうだね。今夜は夏祭りだからね。しかも、こんな絶景スポットなんだから、人が居ないわけないよ。でも気にしなくていいよ。見たところ子ども連れは居ないから」
うわぁ、しれっとした綺麗な笑顔キタ! じゃなくて!
「しっ、知ってたの? 人が居るって気づいてて、こんなことっ」
「んー? そりゃ、気づいてたけど。でも、あちらさんも俺たちと目的は同じなんだから、大丈夫。涼香が気にするほど、こっちのことは気にされてないよ」
ええぇ! あちらがよくても、私が気にするんですぅ。
だって、あちらの皆さんと私たちじゃ、密着度が全然違ってるんだもの。は、恥ずかしっ。
「それより、俺に集中して? 俺は、涼香だけを見てるんだから」
あぁ、やっぱり、ずるいひとだ。
吐息が零れるような、密やかな囁き。これひとつで、私の抵抗を難なく奪ってしまう。
その唇が、しっとりと吸いつくような感触を両の頬に落としてくるのを、じっと待ってしまう。
「可愛い。――大好きだよ」
10
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
花霞にたゆたう君に
冴月希衣@商業BL販売中
青春
【自己評価がとことん低い無表情眼鏡男子の初恋物語】
◆春まだき朝、ひとめ惚れした少女、白藤涼香を一途に想い続ける土岐奏人。もどかしくも熱い恋心の軌跡をお届けします。◆
風に舞う一片の花びら。魅せられて、追い求めて、焦げるほどに渇望する。
願うは、ただひとつ。君をこの手に閉じこめたい。
表紙絵:香咲まりさん
◆本文、画像の無断転載禁止◆
No reproduction or republication without written permission
【続編公開しました!『キミとふたり、ときはの恋。』高校生編です】
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【6/5完結】バンドマンと学園クイーンはいつまでもジレジレしてないでさっさとくっつけばいいと思うよ
星加のん
青春
モブキャラ気取ってるくせにバンドをやってる時は輝いてる楠木君。そんな彼と仲良くなりたいと何かと絡んでくる学園一の美少女羽深さんは、知れば知るほど残念感が漂う女の子。楠木君は羽深さんのことが大好きなのにそこはプロのDT力のなせるワザ。二人の仲をそうそう簡単には進展させてくれません。チョロいくせに卑屈で自信のないプロのDT楠木君と、スクールカーストのトップに君臨するクイーンなのにどこか残念感漂う羽深さん。そんな二人のじれったい恋路を描く青春ラブコメ、ここに爆誕!?
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
キミの生まれ変わり
りょう改
青春
「私たちは2回生まれる」
人間は思春期を迎え、その後に生まれ変わりを経験するようになった遠い未来。生まれ変わりを経験した少年少女は全くの別人として生きていくようになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる