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キミとふたり、ときはの恋。【第二話】
立葵に、想いをのせて【7−8】
しおりを挟む「怪我って……女子マネって……」
あれ? 私、何を確認しようとしてるの?
「あの、その人……つづ……」
尋ねながら、すぅっと身体が冷えたのが分かった。指先が冷たい。
「怪我した人って、都築、さ……」
なのに、勝手に口だけが動いちゃうのよ。顔は強張ってるのに、口は動くの。
「怪我したヤツか? 一年の女子マネだったけど」
「そ、そう、ですか……あの、その人の怪我の具合は?」
「知らね。体育館の用具室の整理してて脚立から落ちたらしいけど、現場見てねぇし。俺が見たのは、床にうずくまってるマネを武田が運ぼうとしてるとこで。でもマネが土岐の名前を呼んで、アイツが運んでった」
「名前……名前って、下の名前?」
私の馬鹿。そんなこと確認して、どうするの?
でも、止められない。
「お前、どうした? なんで、そんなこと聞く? 確かに、土岐のほうに手ぇ伸ばして『かーくん』っつってたけど」
カサッと、小さな音がした。
手に持ってた巾着バッグが足元に落ちたんだとわかったけど、動けない。
喉の奥が、熱くて。
「……痛……」
胸が、痛い。
胸に刺さったまんまだったトゲが、その周囲をぐるりと抉って、奥深くまで突き刺さってきたような気がした。
「おい、落ちたぞ」
落ちたバッグに気づいて屈んでくれた煌先輩の目の位置が、私のそれと同じ高さになった。
「お前、泣いて……」
ちょうどその時。つぅっと、片方の頬を流れるモノの存在を肌で感じたけれど、驚いた表情で見つめてくる先輩の瞳を黙って見返すのが精いっぱい。
だって今、頭の中はぐちゃぐちゃに混乱中なんだもの。
「おい……何か、あるのか? あの女子マネと」
ない! そんなの、何にもない!
ふたりの間に、私とは違う強い絆が存在してるのは気づいてる。
その絆に、深い意味なんてないって思いたいだけだってこともわかってるけど。それでも、どうしてもちゃんと否定したくて、必死で首を振った。
「あぁ、わかった。わかったから、そんなに激しく振るな。せっかく綺麗な髪なのに崩れちまうぞ」
俯いて何度も首を振る私の顎先に、つと、先輩の指が触れた。
そろりと見上げれば、苦笑気味の口元が目に入り、優しく緩んだ視線とぶつかる。
いつもの鋭い眼光はなりを潜めて、気遣いと慈しみだけが感じられた。
「――土岐が、好きか?」
その表情のまま落とされた問いは、初めて耳にする優しい声音。密やかに低く。それでいて、心の奥のひだを震わせてくるような、少しのせつなさを含んでる。
先輩が、こんな優しい声でそんなことを尋ねてくる真意がわからなくて。ただ、その場に立ち尽くし、その瞳を見つめ返すしか出来ない。
どうしよう……ちょっと、息苦しい、かも……。
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