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キミとふたり、ときはの恋。【第二話】
立葵に、想いをのせて【7−1】
しおりを挟む「あ、良かったぁ。晴れてきたっ」
「涼ちゃん、じっとしてて」
「あ、ごめん。でも晴れてきたよっ、おばあちゃん」
リビングに再び射し込んできた陽射しに、声が弾む。
窓際の定位置で真っ白な体躯を丸めてたエビゾウが、それに合わせたように高く鳴いて、今度はソファーに飛び乗った。
ああぁ、ほんと良かったぁ。天気予報では晴れの予報だったのに、さっきいきなり曇ってきたんだもの。
これからお祭りに行くのに、雨が降るのかと思ってドキドキしちゃったわ。
「そうねぇ。涼ちゃんの今日に賭ける気合いと意気込みと怨念が、意地悪な曇り空にも効いたんじゃない?」
「え? そ、そうかな。確かに気合いなら充分だけど」
「あら、恋する乙女にはジョークは通じないってこと忘れてたわ。ふふっ」
ん? ジョーク?
「あーっ! おばあちゃん、最後に『怨念』って付け加えてたーっ! ひどい!」
「うふふっ。今、気づいたの? オトボケさんねぇ。――はい、出来たわよ」
「わぁ、可愛い! ありがとう、おばあちゃんっ」
うわぁ、うわぁ! 可愛いっ! 私じゃないみたい!
おばあちゃんのヘアアレンジはいつも可愛いけど、今日の仕上がりは本当に素敵!
渡された手鏡で後ろ側もバッチリ確認して、 サイドにつけてくれた髪飾りのオレンジ色のポンポンをふるふると揺らしてみた。
浴衣の画像を見せたら、チカちゃんが『これが良いよ』って選んでくれた髪飾り。私の髪色にも合うって言ってくれたけど、本当だった。さすがチカちゃんだわ。
……奏人、どう思うかな? 可愛いって、思ってくれるかな?
「えーっと、ここを持ってこうするのよね?」
「そうそう。それで、おはしょりを整えてから腰紐をここで結ぶのよ」
髪はおばあちゃんにやってもらったけど、浴衣の着付けは自分で頑張るんだぁ。
「――涼ちゃん、そんなに前に座ってて疲れへんの?」
「えー? だって、シートにもたれたら帯が崩れちゃうもん」
「それはそうやけど……ふふっ、恋する乙女は必死やねぇ」
むむむ! お母さんてば、ひどい。最後に『ぶふっ』って笑い声が聞こえてきたわよ?
そりゃあ、今の私の姿勢はおかしいけども!
帯が崩れるのが嫌で、助手席のシートに後ろ側から抱きつくみたいにしがみついて座ってるけども!
それもこれも、無事にバッチリ綺麗に着付けられた浴衣と帯を綺麗な状態のまま、車から降りたいってだけなんだもの!
「恋するお客さん、もうすぐ目的地に着きまっせー。お代は、奏人くんのあんまぁい笑顔で結構ですわ」
やだもう、またお母さんの悪ノリが始まったわ。
でも、いつもこんな風にからかってくるけど、わざわざ車で神社まで送ってくれる、優しいお母さんだ。だから――。
「へぇ、おおきに。けど、奏人の笑顔はオンリーワンですから、もったいのうて運転手はんには見せられまへんわ」
ノリにはノリで、返すのよっ。
「わぁ! もう、こんなにたくさんの人が集まってるの?」
「この神社、敷地が結構広くて、このお祭りも大掛かりなことで有名らしいわよ?」
「へぇ、そうなんだー。うん、確かにすごい活気ねぇ」
すごいわ。まだ明るいのに、人がどんどん集まってきてるんだもの。
浴衣姿のカップルや、子どもを抱いた親子連れ。女子や男子同士のグループが、ニコニコお喋りしながら階段を上がり、大鳥居をくぐっていくのが見える。
その向こうに続いてるだろう参道に、たくさんの提灯が飾られてるのも見えてるから、私のテンションも上がっていく。
「ところで涼ちゃん、どうする? 待ち合わせ時間には少し早いから、この辺りをもう1周回ってもええわよ?」
「あー、うん。どうしよっかなー?」
お母さんからの提案に、スマホで時間を確認しながら頭を巡らせた。
神社の駐車場が満車で、車を長くとめてられないから、こう言ってくれてるんだよね?
「お母さん、このままここで降ろして? まだ全然明るいし、待ち合わせ時間まで三十分もないし、大丈夫だから!」
奏人を待つ時間は、それだけで、とっても特別なひと時。その〝特別〟を、今、堪能したいの。
大鳥居をくぐり、石畳の参道に足を踏み入れると、そこには左右に大きな池が広がっている。
この池を二分するように造られた中堤が参道になっているの。
中堤からは池に水上橋が伸びていて、その端に六角形の屋根がかかってる浮見堂があるんだけど、そこが奏人との待ち合わせ場所。
水上橋に向かうために、手前にある石造りの太鼓橋のスロープを履き慣れない下駄で一歩一歩のぼっていた時、奏人からのメッセージを受信した。
『ごめん。二十分ほど遅れるから、まだ車の中にいて。また連絡する』
……ありゃ。うーん。でも、もう車から降りちゃったもんねー。仕方ないよね。
だから、『大丈夫。気をつけて来てね』とだけ返信した。
浮見堂は、ちょっとした休憩スペースになっていて、池に隣接してる植物ゾーンのお花たちを眺めることが出来た。
「わぁ、この神社にも立葵が咲いてるのねぇ」
花菖蒲の綺麗な紫色や白色の向こうに、凛と伸びる立葵のピンクを見つけて、思わず声があがった。
まだ日暮れには早いけど、もうライトアップがされてて、バックの木々から浮かび上がるように見えるお花たちに見惚れてしまう。
奏人が来たら、近くまで見にいってみようかしら。
ライトアップしてるくらいだから行けるよね? えーと、あそこに行くには……。
「なぁ、君、一人で来たの? ならさ、俺らと一緒に回んない?」
もたれてた柱から身を乗り出した時、男の人の二人連れに声をかけられた。
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