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キミとふたり、ときはの恋。【第二話】
立葵に、想いをのせて【6.5−10】side奏人
しおりを挟む書店を出た後、涼香の家まで送る途中、公園で少し休憩することにした。
別に疲れてはいなかったが、少しでいいから彼女とゆっくり話す時間を持ちたかったから。
入り口に止まっていた移動販売のカフェで店員に勧められたほうじ茶ラテに目を輝かせる涼香はとても可愛らしく。当然それをお揃いで買って、ベンチに陣取った。
もうすぐ夏至に向かうこの季節。日没時間が遅いとはいえ、そろそろ夕飯の時刻ということもあり、公園内の人影はまばらになっていた。
そのため、おとなしく俺に肩を抱かれていた涼香だったんだが、突然思い切ったように顔を上げ、カップを胸の前で握りしめながら真剣な表情で目前に迫ってきた。
「あのっ! かっ、奏人っ。ちょっと質問いいですかっ?」
「ん? いいよ、何?」
質問、と言う表情が思いつめたようなのが気になったが、今は内容を聞くほうが先決だろう。
「えとえと、先週ね、TRICOLORに学校のお友だちが来てたって聞いたんだけど。えーとっ……その人、誰ですかっ?」
……なぜ、それを知ってる? 当人の俺ですら忘れてたことを、なぜ、君が?
「え? 『誰』って……マネージャーだけど? 部活の」
「え……」
涼香がなぜかマネージャーたちのことを知っていたのかは疑問だったが、別に隠すことでもない。普通に答えた。
が、それに対する反応が、俺を最も驚かせた。
どうした? どうして、そんな風に顔を強ばらせてるんだ?
「涼香? どうしたの?」
強張った頬にそっと手を添え、つとめて優しく尋ねた。
「かな……」
見上げてくる瞳が、頼りなく揺れている。
本当に、どうしたんだ?
「マネージャーさんって……都築さん?」
「うん。都築だけじゃないけどね、来たのは。監督がさ、一緒に連れてきたんだよ。有馬キャプテンとマネージャーたちを」
涼香の声に元気がないのが気になるが、取りあえず彼女からの問いかけに答えを返すことを優先しよう。
青司さんが監督の元教え子だということを説明し、その時に先輩のマネージャーがうるさく絡んできて、かなり迷惑だったことなどを付け加えた。
「……っ、それ! それよ! 女子がベタベタ触ってたって聞いたから! それで私っ……あっ」
何だ?
突然、前のめりで勢い込んだかと思えば、最後の『あ』の後、そのままの口の形で固まった相手。あまりの勢いに目を見張った俺と目線が合ったまま、そっと身体を引き、手にしたカップをベンチに置くそぶりが見てとれた。
もしかして、席を立つつもりか?
「涼香」
カップを置いたその手を、すかさず捕らえた。
どうして逃げようとするのかは不明だが、俺から離れようとする動きを見逃すわけないだろう?
掴んだその手を引き、薄い肩も捕まえた。
「『それで私』の続きは、何?」
顔を近づけて、淡々と尋ねる。
「女子マネが店に来たこと、誰に聞いたの?」
俺、君に言ってないよ? そのこと。
それどころか、言ってないことすら忘れていたと、今気づいたくらいだ。
正直、『誰から聞いたか』なんてことには、たいして興味はない。
が、俺の知らないうちに、その相手がどんな風に君の耳に入れたかを知りたいだけなんだ。
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