46 / 85
キミとふたり、ときはの恋。【第二話】
立葵に、想いをのせて【6.5−10】side奏人
しおりを挟む書店を出た後、涼香の家まで送る途中、公園で少し休憩することにした。
別に疲れてはいなかったが、少しでいいから彼女とゆっくり話す時間を持ちたかったから。
入り口に止まっていた移動販売のカフェで店員に勧められたほうじ茶ラテに目を輝かせる涼香はとても可愛らしく。当然それをお揃いで買って、ベンチに陣取った。
もうすぐ夏至に向かうこの季節。日没時間が遅いとはいえ、そろそろ夕飯の時刻ということもあり、公園内の人影はまばらになっていた。
そのため、おとなしく俺に肩を抱かれていた涼香だったんだが、突然思い切ったように顔を上げ、カップを胸の前で握りしめながら真剣な表情で目前に迫ってきた。
「あのっ! かっ、奏人っ。ちょっと質問いいですかっ?」
「ん? いいよ、何?」
質問、と言う表情が思いつめたようなのが気になったが、今は内容を聞くほうが先決だろう。
「えとえと、先週ね、TRICOLORに学校のお友だちが来てたって聞いたんだけど。えーとっ……その人、誰ですかっ?」
……なぜ、それを知ってる? 当人の俺ですら忘れてたことを、なぜ、君が?
「え? 『誰』って……マネージャーだけど? 部活の」
「え……」
涼香がなぜかマネージャーたちのことを知っていたのかは疑問だったが、別に隠すことでもない。普通に答えた。
が、それに対する反応が、俺を最も驚かせた。
どうした? どうして、そんな風に顔を強ばらせてるんだ?
「涼香? どうしたの?」
強張った頬にそっと手を添え、つとめて優しく尋ねた。
「かな……」
見上げてくる瞳が、頼りなく揺れている。
本当に、どうしたんだ?
「マネージャーさんって……都築さん?」
「うん。都築だけじゃないけどね、来たのは。監督がさ、一緒に連れてきたんだよ。有馬キャプテンとマネージャーたちを」
涼香の声に元気がないのが気になるが、取りあえず彼女からの問いかけに答えを返すことを優先しよう。
青司さんが監督の元教え子だということを説明し、その時に先輩のマネージャーがうるさく絡んできて、かなり迷惑だったことなどを付け加えた。
「……っ、それ! それよ! 女子がベタベタ触ってたって聞いたから! それで私っ……あっ」
何だ?
突然、前のめりで勢い込んだかと思えば、最後の『あ』の後、そのままの口の形で固まった相手。あまりの勢いに目を見張った俺と目線が合ったまま、そっと身体を引き、手にしたカップをベンチに置くそぶりが見てとれた。
もしかして、席を立つつもりか?
「涼香」
カップを置いたその手を、すかさず捕らえた。
どうして逃げようとするのかは不明だが、俺から離れようとする動きを見逃すわけないだろう?
掴んだその手を引き、薄い肩も捕まえた。
「『それで私』の続きは、何?」
顔を近づけて、淡々と尋ねる。
「女子マネが店に来たこと、誰に聞いたの?」
俺、君に言ってないよ? そのこと。
それどころか、言ってないことすら忘れていたと、今気づいたくらいだ。
正直、『誰から聞いたか』なんてことには、たいして興味はない。
が、俺の知らないうちに、その相手がどんな風に君の耳に入れたかを知りたいだけなんだ。
10
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
花霞にたゆたう君に
冴月希衣@商業BL販売中
青春
【自己評価がとことん低い無表情眼鏡男子の初恋物語】
◆春まだき朝、ひとめ惚れした少女、白藤涼香を一途に想い続ける土岐奏人。もどかしくも熱い恋心の軌跡をお届けします。◆
風に舞う一片の花びら。魅せられて、追い求めて、焦げるほどに渇望する。
願うは、ただひとつ。君をこの手に閉じこめたい。
表紙絵:香咲まりさん
◆本文、画像の無断転載禁止◆
No reproduction or republication without written permission
【続編公開しました!『キミとふたり、ときはの恋。』高校生編です】
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【6/5完結】バンドマンと学園クイーンはいつまでもジレジレしてないでさっさとくっつけばいいと思うよ
星加のん
青春
モブキャラ気取ってるくせにバンドをやってる時は輝いてる楠木君。そんな彼と仲良くなりたいと何かと絡んでくる学園一の美少女羽深さんは、知れば知るほど残念感が漂う女の子。楠木君は羽深さんのことが大好きなのにそこはプロのDT力のなせるワザ。二人の仲をそうそう簡単には進展させてくれません。チョロいくせに卑屈で自信のないプロのDT楠木君と、スクールカーストのトップに君臨するクイーンなのにどこか残念感漂う羽深さん。そんな二人のじれったい恋路を描く青春ラブコメ、ここに爆誕!?
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
キミの生まれ変わり
りょう改
青春
「私たちは2回生まれる」
人間は思春期を迎え、その後に生まれ変わりを経験するようになった遠い未来。生まれ変わりを経験した少年少女は全くの別人として生きていくようになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる