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キミとふたり、ときはの恋。【第二話】
立葵に、想いをのせて【6.5−9】side奏人
しおりを挟む翌日。
「あ、それに決めたの?」
「ん、つき合ってくれてありがとう。行こうか」
「うん。いいのが見つかって良かったねっ」
俺のバイト先で食事を楽しみ、大満足してくれた涼香を連れての帰途。立ち寄った書店で、数学の問題集を選ぶのにつき合ってくれた彼女が、また可愛かった。
俺が問題集を手に取る度、くっと背伸びして横から同じようにページを覗き込んできては、「これ、良さそう? キープする?」と小首を傾げて見上げてくる。
問題の傾向を確認するためのチラ見だったから、『単なる確認だから、ちょっと待ってね』と声をかけると、次からは真横から俺の顔をじいっと見つめてくるんだ。
こんな地味な顔を見ていても仕方ないだろうと思って「涼香も問題集見る?」と声をかけてみるが、「ううん、いい」と即座に首が振られる。
そして、また俺を見つめてくるんだが、その口元が次第にほころんでいくさまに、気づけば問題集をめくる手が止まり、満足げに艶めく薄桃色の唇に視線が縫い止められてしまう。
そうして、ぷっくりとした唇からごくごく小さな呟きがこぼれ出て、空気に乗ったその言葉が俺の息を止めた。
「いいの。私、奏人を見てるから」
涼香本人は、声に出した自覚は皆無なんだろう。
驚いた俺が顔を見つめ返すと、『どうしたの? 問題集見ないの?』と怪訝そうな表情が向けられてきたから。
こんなに可愛い彼女に脇目も振らずに見つめてもらえる男に、自分が本当になれているのか。甚だ疑問だが、こんな風に言われて嬉しくないわけがない。
俺に嬉しい言葉と自信を与えてくれるこの子のためにも、どんなに時間が足りなくても学業も手を抜かず努力しなければ。そう、強く思った。
父親から、バイトを許可する代わりに中一からずっと守っている数学の学年首位を続けること、という交換条件を出されたこともあり、元々やる気は満ちていたんだが、これで思いを新たにすることが出来たな。
そして、気合いを入れ直したそのついでにだが。ノースリーブの肩から見える彼女の白い腕や、ミニ丈のワンピースから覗くほっそりとした脚に視線を伸ばしてくる男どもを睨みつけておくことも忘れずにしておいた。
涼香を連れて問題集をレジに持っていく、その間の、ほんのついでに。いつも剣道の試合の際に、ついほとばしってしまう殺気と同じものを、睨みつける目線に込めておいた。
俺のための艶姿を、お前らがじろじろ見るな。
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