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キミとふたり、ときはの恋。【第二話】
立葵に、想いをのせて【6.5−2】side奏人
しおりを挟む「あっ、かなっ……やめっ……」
無理。やめられない。この感触を、ずっと待ちかねてたんだ。
「それっ……やっ」
「んー? 何?」
だから、聞こえないフリするよ。ごめん。
『やめて』は聞かない。
「やあっ」
そんな風に、悩ましく身を捩らせてもね。
「奏人ぉ」
目が、合った。艶っぽくかすれた声が、同時に耳に届く。首を捻って俺を見た涼香の瞳は、涙で潤んでいた。
「ごめん。嫌だった?」
「違っ」
頬に手を添えて顔を覗き込めば、即座に首が振られた。
けれど、涼香はそれきり言葉を発することはなく。何か言いたげに、かすかに唇を震わせたり、思いとどまったように下唇を少し噛みしめたり。そうしたのち、潤んだ瞳が雄弁に俺を見つめてくる。
ねぇ、気づいてる? その仕草全てが、俺を誘ってるって。羞恥で染まった薄桃色の肌が、どれほど悩ましいか。
「うん、わかってる。恥ずかしいんだよね。でもごめん。涼香のその表情が好きだから、わかっててもやめられないよ?」
涙が滲んだ目尻に唇を這わせて、『俺を誘う君が悪い』と、笑顔に込めてみた。
その表情、ほんと堪んない。
俺の発言に、口を『あ』の形に開けたまま固まった女の子。可愛いな。可愛い。
「おおおっ、お手柔らかにっ」
おまけに、やっと口を開いたかと思ったら、この返しだ。
真っ赤に染めた顔で、でもちゃんと俺を見ながら、俺が言ったことに『嫌じゃない』と伝えてくれてる。
ふふっ、なんて可愛いんだろう。
だけどね? 君の『そういう顔が好き』だから、やめられないって言ったんだよ?
だから、それは逆効果。こう言うしかない。後れ毛を弄る指は止めずに。
「うーん。それは、どうかなぁ。善処するけど、手加減できない時があったら、ごめんね」
煽られた俺が、こんな風にさらに追い込みたくなるんだってこと、いつになったらわかるんだろうね。君は。
まぁ、俺からは教えてあげないけどね。
「そっ、そこは加減してくだっ、くださささいっ!」
噛んだ! めちゃめちゃ噛んでる!
「ふはっ! そうだね。涼香が慌てて舌を噛んだりしたらいけないから、自重するようにするよ。ふふっ」
お、表情がパァッと明るくなった。これはもしかして、俺が自重するなら時々噛んでみても良い、って思ったのかもしれない。
こういう時の涼香はわかりやすくて、本当に可愛い。だから、さらに追い詰めたくなるんだが。
「あれ? もしかして涼香、その顔は良からぬこと考えてない? あ、そうだ。次、カミカミになった時のためにリハビリしとこうか?」
怪訝な表情を見せた頬をするりと撫でて、斜めに覗き込んだ。
「はっきり発声出来るように、今からその可愛い舌を思いっきり吸い上げて、刺激してあげる。ほら、出してごらん?」
「ええっ、遠慮しときますぅっ!」
「あははっ!」
いつの間にか、苛つきなんて霧散していた。
両手で顔を覆って俯いてしまった涼香の肩を引き寄せて「冗談だよ」と謝罪したが、ここが中庭じゃなければ実行していたかもしれない。
そういう顔が好き、と言ったが、こうして朱に染まったうなじを見てるだけでも、ゾクゾクしてくるんだから。
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