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キミとふたり、ときはの恋。【第二話】

立葵に、想いをのせて【6−5】

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 もちろん、部活終わりの奏人がお家に帰って着替えることも考えて、時間短縮のつもりもあるんだけど。これくらいの我が儘なら、大丈夫、だよね?
 なんて思って見上げてみた奏人は、すうっと笑顔が消えて無言に。そして、見る見るうちに眉間に深ーいしわがクッキリと刻まれていくっ。
「あの、奏……」
「駄目」
 不安になって声をかけてる途中、とーっても低い声が返ってきた。
「えーっ、どおしてぇ?」
「逆に質問するけど、涼香は当日どんな服装で来るの?」
「え? あの、その……ふ、ふつーに……」
「そんなわけないよね。夏祭りでしょ? この前、秋田たちと髪飾りを買いに行く話をしてたよね? 誤魔化しても駄目だよ。夏祭りなんて男だけで来るヤツらも多いところで、しかも日が落ちてから可愛く着飾った涼香をひとりで来させることを俺が許可するわけない。駄目だよ。絶対に駄目。却下!」
 奏人が、めっちゃ喋ってる。ものすごい早口で。しかも無表情のまんま、熱く。
 並んで歩いてたはずが、いつの間にか真正面から向き合わされてて、一気に喋った後、最後にバッサリ切られた。
 うぅ、そこまで否定しなくてもいいのに。ちょっとだけドキドキしながら奏人を待ちたいと思っただけなのに。
 でも奏人、心配性だもんね。仕方ないのかな? 仕方ないんだよね?
 うわーん! 例えばだけど。『もちろん、いいよ。大勢の女の子の中から、涼香だけをすぐに見つけてあげる』なんて、爽やかに返してくれるわけなかった! でもでもっ。
「そんなに、駄目なことなの?」
 やっぱり諦めきれないわ。

「奏人が心配性なのはわかってるから、当日お母さんに車で送ってもらうつもりなのよ?」
 お願い、わかって?
 だって、ひさしぶりのデートなんだもん。願いを込めて、奏人を見上げた。
「ほんのちょっとだけ、ドキドキしながら奏人を待ちたいだけなの。それ、駄目?」
 これで駄目なら仕方ない。そう思って、最後に両手を合わせて懇願。
「お願いっ」
 視線が、絡む。お互い無言のまま、息苦しいような時が、流れていく。
「仕方ないね。ほんの少しだけ、だよ?」
 少しして、私を見つめてた奏人が小さな溜め息を吐いて、その手がそっと頭に乗せられた。
「えっ、いいの?」
「但し、待ち合わせ時間の直前まで車の中にいること。それから、手にはスマホを持って、いつでも俺に連絡出来るようにしといて。いい?」
 わあ、ここで心配性発言きた。でも、オッケーもらえたよ?
「うん、わかった! ありがとう、奏人。嬉しい!」
 やっぱり奏人は優しい。頭を撫でてくれてる手の向こうに見える笑みに、全開の笑顔を返した。
「ん。でも、俺のほうが先に待ってたらごめんね?」
「え……」
「俺も、ひさびさのデートでテンション上がってるから、涼香よりも先に神社に着いちゃうかもね」
「えぇっ! それ、やだ。私が奏人を待ちたいのにっ」
 やだやだっ。
 頭を撫でてくれてる手を掴んで、「待って。それだけは、やめて」とお願いした。
「ん? 駄目?」
 途端に、甘く変わった声色。奏人の手を掴んだはずの手は反転させられて、くっと指が絡んだ。
「参道を歩く大勢の女の子の中から、涼香だけをすぐに見つけ出せるのに? 駄目なのか。それは残念」
 あぁ、ずるいなぁ。今ここで、そんなこと言うなんて。こんな風に笑うなんて。
 この人は、本当にずるいひとだ。
 ――でも、大好き。


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