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キミとふたり、ときはの恋。【第二話】
立葵に、想いをのせて【6−2】
しおりを挟む「ビビらせたか? 悪い」
ポンと、頭に手が乗った。
「大丈夫か? あの時と同じじゃないな?」
そのまま顔がスライドして、耳元で尋ねられた。ごくごく小さな声で。たぶん、私にしか聞こえていない。
聞かれた内容も、聞き方も、私のことを考えてくれたものだとわかるけど、今は色々いっぱいいっぱいで、うんうんと頷き返すだけで精いっぱい。
「なら、いい」
私の頭に乗せていた手を、もう一度ポンと動かしてから、煌先輩は体育館を出て行った。
最後のポン、ちょっと乱暴で痛かった。でも、この乱暴さが煌先輩の優しさなのかな?
なんて思いながら、その後ろ姿を見ていた私に、また声が飛んできた。
「あなた、何しに来たの? 本当に迷惑な人ね」
「あの、見学を……」
「『何しに来た』って、練習の見学に決まってるじゃないですか。そんな、ひと目見ればわかることを何でいちいち聞くんですか?」
迷惑、という言葉に強張った顔をどうにも出来ないまま説明を返しかけた私の声に、萌々ちゃんの声がかぶった。
「それに、『迷惑』って何ですか? 涼香ちゃんは、目立たないように端っこでおとなしくしてるじゃないですか」
あの、萌々ちゃん。ここは私が……。
「あなた、花宮先輩の妹さんね。悪いけど、ちょっと黙っててくれる? ――白藤さん」
「は、はい」
私を庇うように前に出てくれた萌々ちゃんの肩越しに、都築さんの視線が突き刺さってきた。
「練習の見学は自由よ。けど『目立たないように』って、どこが? あなた、思いっきり悪目立ちしてるわ。迷惑だから、迷惑って言ったの。じゃ、もう迷惑かけないでよ。――誰にも」
くるりと向けられた背中。すぐに小さくなっていくそれを見ながら、最後に強調するように言われた『誰にも』が頭を駆け巡る。
「何なんですか、あの女子マネさん。今のは、呼んでもないのに煌兄ちゃんが勝手に来ただけですけどっ」
都築さんの後ろ姿に、萌々ちゃんの憤慨した声が飛んだ。
「萌々ちゃん……えと、色々ありがと」
その肩に手をかけて御礼を言いながら、都築さんの言った『誰にも』が『奏人に』に変換されていく。
あれ? どうしよう……胸、痛い。私、迷惑かな? 帰ったほうがいいのかな? でも、ほんとは帰りたくない。
「涼香ちゃん、帰ったりしませんよね? 誰にも迷惑なんてかけてないんだから、ここにいてください。私、涼香ちゃんと一緒がいいです」
萌々ちゃんが真剣な表情で伝えてくれた言葉は、迷っていた私の胸に真っ直ぐに届いてきた。
「うん、帰らない。ここにいる。ありがと」
ここに『何しに来た』のか、ちゃんと覚えてるもの。
「良かった。それで、私と一緒に武田くんを応援してくださいね。涼香ちゃんの声援があったら、武田くん、大喜びで張り切って、さらにカッコよくなりますよ。これは私得ですから、何の問題もありません」
「え、見学なのに声援なんてしていいの?」
「ほんとは駄目です。女子マネさんたちが睨みに来ます」
「それ、駄目じゃん! もう萌々ちゃんてば!」
二人揃って、吹き出した。
手を繋いで、顔を寄せ合う。強張っていた顔が、いつの間にかほぐれて笑顔になっていた。
「涼香」
「奏人……」
聞き間違えようのない大好きな声が、背後から飛んできた。駆け寄ってきてくれる奏人を笑顔で迎えることが出来たのは萌々ちゃんのおかげだ。
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