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キミとふたり、ときはの恋。【第二話】
立葵に、想いをのせて【6−1】
しおりを挟む「涼香ちゃん、早く早く! あ、あそこに行きましょう。涼香ちゃんの希望通り、端っこが空いてますよ」
「あ、うんっ」
小さな身体で器用に人波をすり抜けていく萌々ちゃんに遅れないよう、小走りでその後ろに続く。
「はい、バッチリ端っこを確保できましたよ。ここなら気楽に見学できますね」
「うん。ここなら大丈夫よね?」
ぐるりと周囲を見回して、自分が今いる場所があんまり目立たないことを確認してから、にっこり笑いかけてくれた萌々ちゃんに笑い返した。
「でも、ごめんね。私のせいで、ちょっと見えにくいかも」
「別に構いませんよー、どこでも。それに、今日は私が強引に誘ったんですからね。いつも、ぼっち見学だから、涼香ちゃんが一緒に来てくれて嬉しいです」
「萌々ちゃん……ううん。私こそ、誘ってくれてありがと。私、萌々ちゃんに誘ってもらえたから、来る勇気が出たんだと思うの。えーと、でもね? 今ものすごくドキドキしてきちゃって……どうしよう?」
「もう! 何、言ってるんですか!」
正直にドキドキを伝えたら、肩をパシンとはたかれた。
「練習が始まったら、もっともっとドキドキしますよ。心臓がヤバいことになっちゃうんですからね!」
えぇっ、そんなに? 昨日観た試合よりも、もっとなの? 心臓、どうしようっ?
今日、萌々ちゃんに誘われて、高校バスケ部の練習を初めて見学しに来た。
目立たないように、端っこでこっそりと見るつもりだけど。奏人、気づいてくれるかな?
「あ、練習の準備が始まりましたよ」
「ほんとだ。やっぱり一年生が準備するのねぇ」
常陸くん、高階くんに武田くん。知ってる部員さんたちが雑談しながら用具室に向かっていく。奏人は、どこかしら? 姿が見えない。
「あれ、白藤さん? 珍しいね、見学に来るなんて。てゆうか初めてなんじゃない?」
「おっ、白藤ちゃんじゃーん。何、何? 俺様の勇姿を拝みにきてくれたんかぁ? 慎ちゃん、めっちゃ張り切っちゃう!」
「えぇっ?」
奏人の姿を探してたら、用具室からボールを出してきた高階くんと武田くんが立ち止まって声をかけてきた。
え? え? なんでわかったの? 私、萌々ちゃんの後ろに隠れてるのに。というか、武田くんの声が大きすぎ……。
「武田くん、私もいますよ。スルーしないでください」
「お、おう。花宮ちゃんもよろしくな」
良かった。萌々ちゃんのおかげで武田くんが静かになってくれたわ。ところで、奏人は……。
「あ、土岐を探してるんでしょ? まだ来てないよ。部室で着替えてる時に、都築さんが呼びにきてさ。一緒に監督のところに行ったんだよ」
「あ……そう、なんだ」
「基矢とキャプテンも呼ばれたから練習メニューの打ち合わせかなぁ。たぶんだけど」
高階くんの声に、奏人を探すためにちょっと背伸びしてた踵が、ぱたんと床におりた。
私、おかしい。一色くんも一緒だって聞いたはずなのに、胸の奥で、チクリとトゲが動いた気がした。
「まぁ、すぐに戻ってくると思うし。ゆっくり見学してって」
「うん、ありがとう」
片手を上げて準備に戻った高階くんに笑い返したけど、心から笑えてないって自覚してる。
こんなんじゃ駄目だわ。気持ちを切り替えなくちゃ。取りあえず、顔のマッサージを……。
「何、それ?」
「……っ、きゃあっ!」
「うるせぇ」
こっそり口角マッサージをしようと壁に顔を向けたら、すぐ真後ろに煌先輩が壁に片手をついて立ってたの。
ほんとに、すぐ真後ろ。煌先輩の肘に、横を向いた時に前髪が擦れたんだから、びっくりして叫んじゃっても仕方ないと思う。
「煌兄ちゃんっ?」
「萌々。コイツ、何?」
「あの、け、見学……」
煌先輩は萌々ちゃんに尋ねたけど、『コイツ』って指差された私が答えなくちゃと思って、ここにいる理由を伝えた。見てわからないはずないのにな、と思いながら。
「違う。お前、今、泣きそうな……」
目の前にあった腕が、首の後ろに回った。周囲がざわめいたような気がしたけど、私は今、それどころじゃない。だって、煌先輩の瞳が、近……。
「――何、してるの?」
そこに飛んできた、鋭い声。固まっていた身体が、さらに硬直した。
「ここで、何してるの? 白藤さん」
横から飛んできた鋭い声は、都築さんのもの。それはちゃんとわかってるけど、そっちが見られない。振り向けない。
「花宮先輩、橘先生がお呼びです。指導室までお願いします」
私へのものと同じトーンで、煌先輩にも都築さんが声をかける。
「……チッ」
それに対して聞こえてきた舌打ちに、ぴくりと肩が動いた。煌先輩、至近距離でそのお顔、こ、怖いですぅ。
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