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キミとふたり、ときはの恋。【第二話】

立葵に、想いをのせて【5−2】

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「――それでは、実際に患者役と救護者役に分かれて実施してみましょう」
 消防署の最上階。応急手当研修センターでの救命講習会。講師の方の呼びかけで、それぞれのペアで実技に入ることになった。
 私は、明石さんとペアで救護者役。今、教わったこと、ちゃんと出来るかしら?
「えーと、まずは安全確認をして……」
「おい、いい加減にしろよ。お前、ふざけてんのか?」
 え? 煌先輩?
「あー、すんません。つい」
「『つい』じゃねぇよ。んだよ、やってらんねぇわ」
「あっ、花宮くん、落ち着いて」
 真後ろであがった声にすぐに振り向いてみれば、煌先輩が救護者役の山田くんと揉めてるのを佐伯先生がなだめていた。
「あっ、もしかして、またヤッちゃったのかも。山田のヤツ」
「え? 明石さん、どういうこと?」
 明石さんがボソリと呟いた内容が気になったから、尋ねてみた。
「山田、最近筋トレにハマっててね。それだけならいいんだけど、鍛えてる人の筋肉触るのも楽しいらしくて。だから、たぶん今も花宮先輩に……」
「あっ、そういえば昨日も武田くんと仲良く触りっこしてたわ。あれはそういうこと……えっ? きゃっ!」
 突然、後ろから腕を引かれた。
「もういい。俺は、コイツと組む」
 引かれた先は、煌先輩の腕の中だった。

「花宮くん。何、勝手なこと、言ってるの? 白藤さんを離しなさいよ」
 煌先輩の腕の向こうから、鋭い声が飛んだ。安倍先輩の声だ。
「あ? 『勝手に』っつーなら、今ここにいることが勝手に決められたことなんだけど? 明日、試合だっつーのに……」
「花宮くん、いい加減にしなさいよ? そもそもねぇ」
 煌先輩の前、つまり私の正面に安倍先輩が声を荒げて踏み出してきたから、慌てて声をかけた。
「あの、あのっ! 私っ……私なら、大丈夫です! 私、山田くんと代わるので。だから、早く実技に入りませんか? でないと、他の皆さんに迷惑が……」
 そう。揉めてる私たちだけ、実技に入れてない。このままじゃ、いけないわ。
「あ、そうだね。じゃ白藤さん、山田くんと代わってくれる? 悪いけど」
 悪いけど、を付け加えて申し訳なさそうにしてくれた佐伯先生に、笑って「はい」と頷いた。その隣で気遣わしげな視線を向けてくれてるチカちゃんにも、笑ってみせる。
「お前、どっち役?」
「えっ? き、救護者役、です」
「ん、わかった」
 私が答えるなり、先輩は床に敷かれたシートの上にサッと寝転んだ。協力的なのは有り難いんだけど……でもね?
「あの……手、離してもらえませんか?」
 これじゃ、やりにくいです。
 寝転んだ煌先輩の横に膝をついた私の手首が、くっと掴まれた。
 でも、掴まれたまんまじゃやりにくいから、『離して』とお願いしてみたんだけど。
「あ? 俺、助けを必要としてる側なんだろ? なら、いいじゃん」
 一向に離してくれない。
「そうですけど。今は意識を失ってる状態の実技なので、決められた通りにやってもらわないと困ります」
「そっか。わかった」
 けれど、ちゃんと説明したら、思いの外、すっと手が離された。
 その後、私が患者役になる実技もしたけど、煌先輩も真剣に取り組んでくれて、最後までスムーズに進めることが出来た。
 最初からお前と組めば良かったって、実技が終わった後に言われたし。煌先輩、口ではいろいろ言ってたけど、ほんとはちゃんとやるつもりで来てたんじゃないかな?
 私がノートにまとめた内容を読んで、意見や補足も付け加えてくれたし。きちんと講習に臨んでたっていうのが、そこからでも伝わってきたもの。


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