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キミとふたり、ときはの恋。【第二話】
立葵に、想いをのせて【4−4】
しおりを挟む前のめりの体勢の私は、大きく目を見開いた奏人と、バッチリ目が合ってる。
けど、そのまま、そーっと身体を引いて、ベンチにカップを置いて立ち上が……。
「涼香」
……れなかった。
カップを置いた時のままの形の手が、奏人に掴まれる。
それだけじゃない。その手をクイッと引かれて、身体が近づいて。
「『それで私』の続きは、何?」
一番聞かれたくない質問、きた!
「女子マネが店に来たこと、誰に聞いたの?」
うぅ、どっちも言えない。
後の質問は、正直に言えば、あずさお姉さんに迷惑かけちゃうかもだし。最初のは……もっと無理。
めちゃめちゃヤキモチ妬いて、モヤモヤしてたってことは、たぶん言える。
けど、その相手のことを想像してたことは言えないし、言いたくない。
だから、目を伏せて首を振るだけ。これしか出来ない。きゅっと身体を固めて、首をブンブン振った。
「はぁ……」
そこに大きな溜め息が上から降ってきて。私には向けられたことがない、その呆れたような声色に、さらに身体が固まった。
呆れちゃった? 怒ったの?
恐る恐る、奏人の表情を伺う。
「あ……」
違う。
違ってた。呆れても怒ってもいない。すごく優しく微笑んでくれてる。
「言いたくないんだね。なら言わなくていいよ。その代わり――」
掴まれていた手が、さらに引かれて奏人の背中に回る。
同時に腰も引き寄せられたから、空いていた手も奏人の腕に触れた。
「こうすればいいよ」
「奏人?」
何をどうする気なのか聞こうとした私の耳に、吐息がかかる。
「涼香も、同じように触ればいい。俺に『女子がベタベタ触ってた』のが、嫌なんでしょ?」
「なっ! 何、言っ……」
『何、言ってるの?』って声は最後まで言えなくて。ここだよ、と誘導された手は、奏人の肩に乗った。
「先輩マネ二人がかりで、ここをバシバシはたかれたんだけど。何か『制服萌え』だとか言いながらさ。涼香も、同じようにしてみる?」
至近距離で見上げた深い黒瞳が、妖しく揺らめいて誘ってくる。
「涼香なら、何してもいいよ。好きにしていい。――ほら、どうぞ?」
どうぞ、と私の意思に任せられた手には、奏人の肩の感触。いつも優しく包んでくれる温かい場所だ。
抱きしめてくれた時、たまに、ここにおでこをスリスリして甘えてみるけど、こんな風に改めて手で触れることなんて滅多にないから、ちょっと緊張してきた。
けど、『好きにしていい』って言ってくれたから。すり、と、ひと撫でしてみる。
奏人は、何にも言わない。だから今度は、二の腕までさすってみた。両手で。
ネイビーの地に、赤と白の差し色が綺麗に入った二枚襟のオシャレポロシャツ。その半袖から出ている腕は、筋トレを頑張ってる証拠の程よい固さで、『うわぁ、うわぁ!』って、何だかドキドキしてきちゃう。
同時に、私の他にもここに触った人がいて、しかもそれが何人もだなんて、って思ったら、胸の奥がずしんと重くなった。
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