20 / 85
キミとふたり、ときはの恋。【第二話】
立葵に、想いをのせて【3−9】
しおりを挟む誰? 私より先に……誰、が?
「奏人くんのほうはね? いつも通りっていうか、普段通りの接客態度だったんだけど。彼、表情が読めないところがあるでしょ?」
あ、あれ? 声が……。
「あとの二人の女の子たちも、彼にキャーキャー言ってベタベタ触ってたし。彼女が友達連れて来たんだなぁって、単純に思ってたのよ」
あずさお姉さんの声が、上手く聞き取れない。
耳が何かで覆われたみたいだ。こんなに近くで話してくれてるのに。
遠くから聞こえてくるみたいなお姉さんの声に耳を傾けながら、接客中の奏人の姿を探して、目線で捉えた。
ついさっきまで私に笑いかけてた口元を。触れてくれてた指を。その奏人を学生さんたちがじっと見てるのも、視界に入れた。
「こんなこと言うの、お節介だとは思ったんだけど……でも、彼女なら気になるかなと思って。その女の子。彼のこと、下の名前で呼んでたし」
「あ……」
下の……名前、で?
やだ。
だって、下の名前は。奏人を『奏人』って呼ぶのは……。
「でも、その白シャツ見たら、彼の本気の相手が涼香ちゃんだってことは、ひと目でわかるから」
あずさお姉さんが立ち上がって、その肩の向こうに見えてた奏人の姿が、私の視界から消えた。
「私はそこまで心配してないんだけど、一応彼女としては知っておいたほうがいいもんね。でも余計なことだったなら、ごめんね?」
声が出せない。けれど、申し訳なさそうに眉を下げてくるお姉さんには、ふるふると首だけを振って返した。
大丈夫、と。気にしてない、と。強がって、返した。
「涼香ちゃん?」
あずさお姉さんが注文を復唱して立ち去った後、チカちゃんに顔を覗き込まれた。声を落として話してたけど、お姉さんの言葉は、隣にいたチカちゃんには聞こえてたんだろう。
「チカちゃーん」
チカちゃんに強がるなんて、無理。その手を探し当てて、きゅっと握った。
「涼香ちゃん、大丈夫だよ。チカが言う『大丈夫』の意味は、涼香ちゃんが一番よく分かってるでしょ?」
ふわっと、包み込むような笑みが返ってきた。握り返してくれた手も同じように温かくて、喉の奥が熱くなる。
チカちゃんの言う『大丈夫』の意味。
「うん、わかってる。私、ちゃんとわかってるよ」
そう。奏人の気持ちを疑ってなんか、ない。ただ――。
「でもね? 先週のことだったなら、どうして奏人は、そのことを私に教えてくれなかったのかな?」
熱くなった喉から、ぽつりと、呟くように言葉が零れ出ていた。
独り言、だったけれど。本当なら、これくらいのことは自分の胸に納めておくこと、なんだろうけど。相手がチカちゃんだから、せり上がってくるものを無理やり飲み込んで、正直に口に出していた。
「涼香ちゃん? それはね、涼香ちゃんが直接土岐くんに聞くべきこと、だよ?」
「私、が?」
「そう。この後、一緒に帰る約束してるんでしょ? 涼香ちゃんが聞きたいことを、そのまま素直に口にすればいいだけなんだから、頑張って」
「うん……うん」
そうだね。『今日は午後五時までのシフトだから、それまで店にいてくれる? 一緒に帰ろう』って、奏人のほうから誘ってくれたんだった。
「チカちゃん、ありがと」
握り合った手に力を込めれば、「絶対大丈夫だから、頑張って」と、きゅっと握り返された。
私との時間を大事にしてくれてる奏人なのに、勝手に不安になってちゃ駄目よね? 私、ちゃんとお話してみる!
10
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです
珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。
それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。
あなたの嫉妬なんて知らない
abang
恋愛
「あなたが尻軽だとは知らなかったな」
「あ、そう。誰を信じるかは自由よ。じゃあ、終わりって事でいいのね」
「は……終わりだなんて、」
「こんな所にいらしたのね!お二人とも……皆探していましたよ……
"今日の主役が二人も抜けては"」
婚約パーティーの夜だった。
愛おしい恋人に「尻軽」だと身に覚えのない事で罵られたのは。
長年の恋人の言葉よりもあざとい秘書官の言葉を信頼する近頃の彼にどれほど傷ついただろう。
「はー、もういいわ」
皇帝という立場の恋人は、仕事仲間である優秀な秘書官を信頼していた。
彼女の言葉を信じて私に婚約パーティーの日に「尻軽」だと言った彼。
「公女様は、退屈な方ですね」そういって耳元で嘲笑った秘書官。
だから私は悪女になった。
「しつこいわね、見て分かんないの?貴方とは終わったの」
洗練された公女の所作に、恵まれた女性の魅力に、高貴な家門の名に、男女問わず皆が魅了される。
「貴女は、俺の婚約者だろう!」
「これを見ても?貴方の言ったとおり"尻軽"に振る舞ったのだけど、思いの他皆にモテているの。感謝するわ」
「ダリア!いい加減に……」
嫉妬に燃える皇帝はダリアの新しい恋を次々と邪魔して……?
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる