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キミとふたり、ときはの恋。【第二話】
立葵に、想いをのせて【1−4】
しおりを挟む「あれ、まだ来てない」
お昼休み。軽い駆け足で急いで来てみれば、待ち合わせ場所の中庭のベンチに奏人の姿は見当たらない。
課題ノートを先に提出してきたから少し遅れたかと思ったけど、私のほうが早かったみたい。
良かった。だって、奏人を待たせるよりは、私が待ちたい。
ベンチの端に腰掛けて、背もたれに「うーん」と体重を預けてみた。
「わ、眩しーい」
空を見上げれば、真昼の陽射しが木々の隙間からジリッと照りつけてきている。
「ちょっと暑いかも……あー、それもそうよね。もうすぐ衣替えの時期だもんねー」
つい最近、入学式だった気がするのに、日が経つのは早い。
「もう夏服なのね。嬉しいような、寂しいような、だわ」
ちょっと複雑ぅ。だって、この制服、すごく気に入ってるんだもの。
祥徳学園の高等科生の制服は、可愛いことで評判だ。紺色の丸襟のセーラー服に、赤のチェック柄のリボン。同色のプリーツスカートは、少し短めにしてもオッケー。
……なんだけど……ちょっと短かったかしら、これ。
武田くんに指摘された後にこのスカートを見た奏人、一瞬だけど、くっきりと眉間にしわ寄せてたもの。
「これくらいの長さが一番可愛いのになぁ。駄目かなぁ……あっ、ひゃあっ!」
「何の話? 涼香はどんな時も可愛いよ」
「奏人?」
背後からニュッと伸びてきた腕は首元に緩く巻きついて、同時に感じる熱い吐息に身体が震える。
「あっ、かなっ……やめっ」
唇っ! スカートを見て俯いてた私のうなじに! 奏人の唇がっ!
「それっ……やっ」
「んー? 何?」
身を捩って『やめて』と伝えてるのに。それに気づいてるはずの奏人の唇は、チュッチュッと温もりをうなじに落とし続けるだけ。
「やあっ」
ここ、中庭! 学校です! こんな姿、誰かに見られたら!
「奏人ぉ」
涙目で後ろに首を捻った私の目に、陽射しを受けて光るチョコレート色の眼鏡が映った。覗き込んでくる眼鏡の奥の瞳が、涙で滲んで揺らぐ。
「ごめん。嫌だった?」
「違っ」
嫌じゃない。嫌じゃないの。
恥ずかしいだけ。『奏人にこうされて嫌じゃないって思ってる私』を誰かに見られたらって。それが堪らなく恥ずかしい、だけなの。
でもそんなこと、奏人には言えない。
言えないけど、恥ずかしい気持ちだけはわかってほしくて、気持ちを込めて見つめてみる。
「うん、わかってる。恥ずかしいんだよね。でも、ごめん。涼香のその顔が好きだから、わかっててもやめられない」
とっても綺麗な笑みが返されて、チュッと、涙が滲んだ目尻を吸われた。
もう、なんて返していいのかわからない。いつも、とても優しい奏人だけれど、時々すごく意地悪で強引なのよね。
けど、そんな奏人も大好きだから。
「おおおっ、お手柔らかにっ」
嫌じゃないことだけ、伝えておきます。
「うーん。それは、どうかなぁ。善処はするけど、手加減できない時があったら、ごめんね?」
きゃあぁぁ! 透き通るような綺麗な笑顔で、とんでもないこと言わないでぇ!
「そっ、そこは加減してくだっ、くだだささいっ!」
「ふはっ! そうだね。涼香が慌てて舌を噛んだら大変だから、なるべく自重するようにするよ。ふふっ」
あ、テンパってカミカミになったら自重してくれるって言ってくれたよ? なら、これから時々噛んでみようかな?
「あれ? もしかして涼香、その顔は良からぬこと考えてない? あ、そうだ。次、カミカミになった時のためにリハビリしとこうか?」
ん? リハビリって、何?
「はっきり発声できるように、今からその可愛い舌を思いっきり吸い上げて、刺激してあげる。ほら、出してごらん?」
「ええっ、遠慮しときますぅっ!」
もう、何なの? 今日の奏人! なんかSっ気がパワーアップしておられますけどっ?
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