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本編
不審者情報
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「…じゃあ、ドリスも気をつけてね」
セイラがそう言って立ち去った後も、しばらく身動き出来ずにいた。
いま、セイラは何と言ったのかしら…。
私は少し前の記憶をもう一度脳裏に巡らせた。
「ここ最近、誰かの気配を感じるの」
ひそひそと小声でセイラは語り始めた。
そう、まだこの時は何の話かしらと思ってただ耳を傾けていて。
「じっと見られているような気がする」
「?」
話の流れがよく分からなくて首を傾げた。
セイラは眉を寄せ考え込むような顔をしていた。
「殺気とまではいかないんだけど…」
恐ろしい言葉が飛び出して、息を呑んだ。
メルヒオール家は商売をしていて交友関係が幅広い。良からぬ者から身を守る為に護衛を強化している。セイラも護身術を習得している侍女だ。
私は…身の回りのお世話をするだけ。
スウォルト家は山の中の長閑な場所にあり、要するに平和だったのだ。
「庭に不審な足跡があって…花が荒らされていたの」
その足跡はユリウス様のお部屋に向かっているようだったわー
「…おい」
「きゃあああああ!!」
不意に肩を叩かれ、反射的に私は悲鳴を上げていた。
◆
「…事情はわかった」
あの後、私の悲鳴に驚いて食堂に人が集まり先程人波が去って行った所である。
私は部屋の隅に小さく固まっていた。
食堂には寮長のフェリクス様、ニコラス様、レオナルド様、そしてサラ様が残っていた。
「サラ様…申し訳ありませんっ」
はしたなくも大声を出してしまい、サラ様は私の悲鳴を聞きつけて真っ先に駆けつけてくれていた。
「無事で良かったよ、ドリス」
「…驚かせて悪かった」
ポツリと謝るレオナルド様を見てニコラス様が吹き出した。
「本当、レオがびっくりさせるからだよね」
「水差しから溢したまま立ち止まってたらどうしたのか気になるだろ」
トレイの上の朝食は水浸しになっていた。
ああ、サラ様のお食事が……っ。
「気を取り直して皆で朝食にしようか」
フェリクス様が優しく微笑んだ。
「予備の分があるみたいだよ、ユリウス」
「ありがとうございます。あ、あの…フェリクス様もこちらで?」
サラ様は戸惑いがちに首を傾げた。
フェリクス様はテーブルにトレイを置き、椅子に座ろうとしている。
上級貴族であるフェリクス様は寮長という肩書きがなければ入寮する必要がなく、普段は応接間のある自室で食事をされているはず。
サラ様が戸惑うのも無理はない。
「ユリウスもどうかな」
「ご一緒させて下さい」
サラ様はペコリと頭を下げた。
なんて素直で愛らしいのかしらサラ様…。
私は自分が原因ということも忘れ、愛しいサラ様の後ろ姿に見惚れていた。
視界の端に赤くなったレオナルド様を小突くニコラス様がいたけれど気にならなかった。
テーブルにはサラ様の隣にフェリクス様。そのお向かいにはレオナルド様とニコラス様が着席し4人でいつもより早い朝食を召し上がっていた。
私は少し離れた所に立ち、顔面偏差値の高い皆様に見惚れていた。
時折微笑み合いながら優雅にお食事をとり、最初に口を開いたのはニコラス様だ。
「ユリウスが狙われているのかな」
「決めつけるのは尚早だけど…ユリウスに心当たりは?」
「いえ、全く。王都に知り合いもいないですし…」
「クラスで変わったこともない?」
「文化祭は大変でしたけど一致団結しましたし」
ニコラス様の言葉を聞いて、サラ様がレオナルド様を見た。レオナルド様と視線が合ったようで何か言おうと口を開いて先を越された。
「昨日は…悪かった」
「オレもちゃんとお礼言えなくてごめん」
サラ様はいつだって礼儀正しい。
そして真っ直ぐな心の持ち主で、ご自身の気持ちに素直であろうとしている。
昨日は魔法がどうのとか仰っていた気もするけど…今こうしてちゃんとレオナルド様と向き合っている。
「お前に何かあったら絶対守るから」
レオナルド様が乙女が蕩けそうな言葉を平然と告げ、ニコラス様が肩を小さく揺らした。
「不審者がユリウスを狙っているのかは分からないけれど、足跡は僕の方でも調べておくよ」
─フェリクス様、いまレオナルド様の発言聞き流しましたよね─
私の心の中のツッコミはさておき、肝心のサラ様はにこっと笑って頷き返しているだけだった。サラ様も完全に受け流しているご様子。
レオナルド様は満足そうにほっとしていた。
もしかして…
これはレオナルド様の日常会話なのかしら。
それならサラ様の反応も分かる気がするような…。
よく分からない二人の関係性を垣間見て納得した私は食事を終えたサラ様と一緒に部屋へと戻ったのだった。
セイラがそう言って立ち去った後も、しばらく身動き出来ずにいた。
いま、セイラは何と言ったのかしら…。
私は少し前の記憶をもう一度脳裏に巡らせた。
「ここ最近、誰かの気配を感じるの」
ひそひそと小声でセイラは語り始めた。
そう、まだこの時は何の話かしらと思ってただ耳を傾けていて。
「じっと見られているような気がする」
「?」
話の流れがよく分からなくて首を傾げた。
セイラは眉を寄せ考え込むような顔をしていた。
「殺気とまではいかないんだけど…」
恐ろしい言葉が飛び出して、息を呑んだ。
メルヒオール家は商売をしていて交友関係が幅広い。良からぬ者から身を守る為に護衛を強化している。セイラも護身術を習得している侍女だ。
私は…身の回りのお世話をするだけ。
スウォルト家は山の中の長閑な場所にあり、要するに平和だったのだ。
「庭に不審な足跡があって…花が荒らされていたの」
その足跡はユリウス様のお部屋に向かっているようだったわー
「…おい」
「きゃあああああ!!」
不意に肩を叩かれ、反射的に私は悲鳴を上げていた。
◆
「…事情はわかった」
あの後、私の悲鳴に驚いて食堂に人が集まり先程人波が去って行った所である。
私は部屋の隅に小さく固まっていた。
食堂には寮長のフェリクス様、ニコラス様、レオナルド様、そしてサラ様が残っていた。
「サラ様…申し訳ありませんっ」
はしたなくも大声を出してしまい、サラ様は私の悲鳴を聞きつけて真っ先に駆けつけてくれていた。
「無事で良かったよ、ドリス」
「…驚かせて悪かった」
ポツリと謝るレオナルド様を見てニコラス様が吹き出した。
「本当、レオがびっくりさせるからだよね」
「水差しから溢したまま立ち止まってたらどうしたのか気になるだろ」
トレイの上の朝食は水浸しになっていた。
ああ、サラ様のお食事が……っ。
「気を取り直して皆で朝食にしようか」
フェリクス様が優しく微笑んだ。
「予備の分があるみたいだよ、ユリウス」
「ありがとうございます。あ、あの…フェリクス様もこちらで?」
サラ様は戸惑いがちに首を傾げた。
フェリクス様はテーブルにトレイを置き、椅子に座ろうとしている。
上級貴族であるフェリクス様は寮長という肩書きがなければ入寮する必要がなく、普段は応接間のある自室で食事をされているはず。
サラ様が戸惑うのも無理はない。
「ユリウスもどうかな」
「ご一緒させて下さい」
サラ様はペコリと頭を下げた。
なんて素直で愛らしいのかしらサラ様…。
私は自分が原因ということも忘れ、愛しいサラ様の後ろ姿に見惚れていた。
視界の端に赤くなったレオナルド様を小突くニコラス様がいたけれど気にならなかった。
テーブルにはサラ様の隣にフェリクス様。そのお向かいにはレオナルド様とニコラス様が着席し4人でいつもより早い朝食を召し上がっていた。
私は少し離れた所に立ち、顔面偏差値の高い皆様に見惚れていた。
時折微笑み合いながら優雅にお食事をとり、最初に口を開いたのはニコラス様だ。
「ユリウスが狙われているのかな」
「決めつけるのは尚早だけど…ユリウスに心当たりは?」
「いえ、全く。王都に知り合いもいないですし…」
「クラスで変わったこともない?」
「文化祭は大変でしたけど一致団結しましたし」
ニコラス様の言葉を聞いて、サラ様がレオナルド様を見た。レオナルド様と視線が合ったようで何か言おうと口を開いて先を越された。
「昨日は…悪かった」
「オレもちゃんとお礼言えなくてごめん」
サラ様はいつだって礼儀正しい。
そして真っ直ぐな心の持ち主で、ご自身の気持ちに素直であろうとしている。
昨日は魔法がどうのとか仰っていた気もするけど…今こうしてちゃんとレオナルド様と向き合っている。
「お前に何かあったら絶対守るから」
レオナルド様が乙女が蕩けそうな言葉を平然と告げ、ニコラス様が肩を小さく揺らした。
「不審者がユリウスを狙っているのかは分からないけれど、足跡は僕の方でも調べておくよ」
─フェリクス様、いまレオナルド様の発言聞き流しましたよね─
私の心の中のツッコミはさておき、肝心のサラ様はにこっと笑って頷き返しているだけだった。サラ様も完全に受け流しているご様子。
レオナルド様は満足そうにほっとしていた。
もしかして…
これはレオナルド様の日常会話なのかしら。
それならサラ様の反応も分かる気がするような…。
よく分からない二人の関係性を垣間見て納得した私は食事を終えたサラ様と一緒に部屋へと戻ったのだった。
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