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本編
憧れ
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「サラ様…」
初めて見るドリスの表情に、サラは首を傾げた。
学院寮のサラの部屋。
文化祭を終え、明日の休みを前に少しだけ夜更かししてサラとドリスはお茶を飲みながら、本日の出来事を語り合っていた。
なのに、何故こうも温度差があるのだろうかとサラは不思議で仕方なかった。
「ドリス、私は今日初めて感動したの」
「サラ様、私も周りから噂を聞いてとても感動致しました」
にこにこと笑うサラと、どこか不服そうな表情のドリス。
「私、あまりそういうのに興味がなかったのだけれど…」
サラは言いづらそうに視線を逸らし、珍しくそわそわと落ち着かない素ぶりで言葉を選ぼうとしている。
その様子をドリスは遠い目で見つめる。
「サラ様…この状況でこんな事を言って良いのか分からないですが、ユリウス様の代わりとして入学されたサラ様のドレス姿は本当に可憐で美しく、そこらの女性なんか比べ物にならない位お綺麗でした。そのサラ様が今日突然起こった困難をレオナルド様と乗り切って踊られた事、伝え聞いただけでも胸が熱く、鼓動が高鳴りますわ!」
ドリスは有無を言わせず一気にまくし立て、肩で息をする。
「あ、うん…ありがとう。結構大変だった」
さらりと言われ、ドリスはとうとうサラを睨んだ。
「そんな涙を流した目でよくも、結構大変だった、とか言えますよね!」
ドリスがキレた…。
サラはごくりと唾を飲んだ。さすがサラ一筋というだけあって観察力が半端ない。
「スウォルト家の皆様が踊りがお上手なのもわたくしは存じておりますし、サラ様のお姿に誰もが魅了されるに決まってます!」
そうかな…なんて反論しようものなら憤死してしまいそうで、サラはぐっと言葉を飲み込んだ。でも、ドリスは一体何が言いたいというのか…。
「お姫様抱っこまでしておきながら…」
「そこまで知ってるの?」
さすがに気恥ずかしくてサラの頬が赤くなった。
「ニコラス様にお聞きしました」
ニコラス…いつの間にドリスと仲良くなったんだろう…今度会ったら問い詰めないと…
等と思っていたらドリスが目を座らせながらバンっとテーブルを叩いた。
もしかしてドリスは……酔っている?
「ほんとーに、レオナルド様とは何もなかったんですか?」
「……喧嘩したけど、謝る」
ちくりと痛む罪悪感を抱えた表情で、サラはぽつりと答えた。
「レオナルドは友達として優しくしてくれたのに、ユリウス…男らしくないんじゃないかと思ってつっぱねてしまったから…」
あれは自分の弱さのせいだ。
自分が選んだ事を信じきれず迷ったからレオナルドに八つ当たりをしてしまった。
優しさをちゃんと受け取れなかった事を謝りたい。
「そう思わせてくれたのはあの銀仮面の人なんだけどね」
あの時、自分を元気づけるために何かをしてくれたのだろう。見ず知らずの自分のために…。
あれは、もしかして魔法ではないだろうか。
サラに残る記憶の中にお伽話を夢見る感情は薄らぎ影を潜めていたけれど、主人公が困った時助けてくれる魔法にときめいた事があった気がする。
カボチャの馬車とか、ガラスの靴とか…。
魔法はいつの時代も永遠の乙女の憧れなのだ。
「あのマントが魔法使いっぽくて…素敵だったなぁ…」
うっとりとしながら、あの手触りの良い艶々の黒いマントを思い出していた。
元気が出る魔法だなんて嬉しすぎる。
「魔法なんて食べられもしないし怪しいものですけどね」
サラが過去の回想から現実に戻ると、ドリスががっつりと足を開いてチョコレートを頬張っていた。
多分あれはお酒入りのお菓子…。
サラはそっと近づき、お菓子の箱を閉めた。
あ、と悲しそうに眉を下げたドリスの両頬をサラの手が包み込む。
「今日はドレスの支度から色々ありがとう。もうそろそろ休みましょう」
にっこりと微笑んだサラを前にして、お酒入りのチョコレートよりサラ一筋の侍女に戻ったドリスは慌てて立ち上がりお菓子とカップを片付け始めた。
「私にも魔法が使えたらいいのに…」
この世界に魔法はどこかで存在しているのかもしれない。
願えば叶うだろうか。
少なくともクヨクヨしている暇はなさそうだ。いつまでも泣いてばかりじゃいけない。
前に進む為に私は生きている。
「また会えるかな…」
ベッドに入ったら瞬く間に睡魔に襲われ、長い長い一日が終わった。
初めて見るドリスの表情に、サラは首を傾げた。
学院寮のサラの部屋。
文化祭を終え、明日の休みを前に少しだけ夜更かししてサラとドリスはお茶を飲みながら、本日の出来事を語り合っていた。
なのに、何故こうも温度差があるのだろうかとサラは不思議で仕方なかった。
「ドリス、私は今日初めて感動したの」
「サラ様、私も周りから噂を聞いてとても感動致しました」
にこにこと笑うサラと、どこか不服そうな表情のドリス。
「私、あまりそういうのに興味がなかったのだけれど…」
サラは言いづらそうに視線を逸らし、珍しくそわそわと落ち着かない素ぶりで言葉を選ぼうとしている。
その様子をドリスは遠い目で見つめる。
「サラ様…この状況でこんな事を言って良いのか分からないですが、ユリウス様の代わりとして入学されたサラ様のドレス姿は本当に可憐で美しく、そこらの女性なんか比べ物にならない位お綺麗でした。そのサラ様が今日突然起こった困難をレオナルド様と乗り切って踊られた事、伝え聞いただけでも胸が熱く、鼓動が高鳴りますわ!」
ドリスは有無を言わせず一気にまくし立て、肩で息をする。
「あ、うん…ありがとう。結構大変だった」
さらりと言われ、ドリスはとうとうサラを睨んだ。
「そんな涙を流した目でよくも、結構大変だった、とか言えますよね!」
ドリスがキレた…。
サラはごくりと唾を飲んだ。さすがサラ一筋というだけあって観察力が半端ない。
「スウォルト家の皆様が踊りがお上手なのもわたくしは存じておりますし、サラ様のお姿に誰もが魅了されるに決まってます!」
そうかな…なんて反論しようものなら憤死してしまいそうで、サラはぐっと言葉を飲み込んだ。でも、ドリスは一体何が言いたいというのか…。
「お姫様抱っこまでしておきながら…」
「そこまで知ってるの?」
さすがに気恥ずかしくてサラの頬が赤くなった。
「ニコラス様にお聞きしました」
ニコラス…いつの間にドリスと仲良くなったんだろう…今度会ったら問い詰めないと…
等と思っていたらドリスが目を座らせながらバンっとテーブルを叩いた。
もしかしてドリスは……酔っている?
「ほんとーに、レオナルド様とは何もなかったんですか?」
「……喧嘩したけど、謝る」
ちくりと痛む罪悪感を抱えた表情で、サラはぽつりと答えた。
「レオナルドは友達として優しくしてくれたのに、ユリウス…男らしくないんじゃないかと思ってつっぱねてしまったから…」
あれは自分の弱さのせいだ。
自分が選んだ事を信じきれず迷ったからレオナルドに八つ当たりをしてしまった。
優しさをちゃんと受け取れなかった事を謝りたい。
「そう思わせてくれたのはあの銀仮面の人なんだけどね」
あの時、自分を元気づけるために何かをしてくれたのだろう。見ず知らずの自分のために…。
あれは、もしかして魔法ではないだろうか。
サラに残る記憶の中にお伽話を夢見る感情は薄らぎ影を潜めていたけれど、主人公が困った時助けてくれる魔法にときめいた事があった気がする。
カボチャの馬車とか、ガラスの靴とか…。
魔法はいつの時代も永遠の乙女の憧れなのだ。
「あのマントが魔法使いっぽくて…素敵だったなぁ…」
うっとりとしながら、あの手触りの良い艶々の黒いマントを思い出していた。
元気が出る魔法だなんて嬉しすぎる。
「魔法なんて食べられもしないし怪しいものですけどね」
サラが過去の回想から現実に戻ると、ドリスががっつりと足を開いてチョコレートを頬張っていた。
多分あれはお酒入りのお菓子…。
サラはそっと近づき、お菓子の箱を閉めた。
あ、と悲しそうに眉を下げたドリスの両頬をサラの手が包み込む。
「今日はドレスの支度から色々ありがとう。もうそろそろ休みましょう」
にっこりと微笑んだサラを前にして、お酒入りのチョコレートよりサラ一筋の侍女に戻ったドリスは慌てて立ち上がりお菓子とカップを片付け始めた。
「私にも魔法が使えたらいいのに…」
この世界に魔法はどこかで存在しているのかもしれない。
願えば叶うだろうか。
少なくともクヨクヨしている暇はなさそうだ。いつまでも泣いてばかりじゃいけない。
前に進む為に私は生きている。
「また会えるかな…」
ベッドに入ったら瞬く間に睡魔に襲われ、長い長い一日が終わった。
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