サラの真っ白な地図

雪猫

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本編

文化祭2

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「ケリー先生のクラスは文化祭の準備進んでおりますか?」

王立学院の教員室にて。
舞踊の授業の間、出番のない担任二人がのんびりとお茶を啜っていた。
Aクラス担任、アントンは国王陛下の元家庭教師という経歴を持っている。

ケリーは微笑みながら、のんびりと首を傾げた。

「出来は良くないですけどね」

ならず者…もとい、郊外の貴族たちが集まるBクラスの生徒は生まれ育った環境が様々なので、舞踊が得意ではない者達もいる。
それを馬鹿にする者たちがいるのは残念なことだ。
彼らに教え、学ぶ機会を与える事が王立学院の役割なのだから、とケリーは思っている。

「Aクラスはどうですか?」

「順調ですよ。身分の高い者に従う流れが定着している。ただ…」

協力し、絆を深め合う…というのは我々一部の幻想なのでしょうな…。

アントンはどこか寂しそうに笑った。






「ニコラス、何度言ったら分かるんですか。そこはステップからターン!」

「早く移動しないとぶつかりますよ!」

ニコラスに容赦ない指導が飛んでくる。
文化祭の演目であるバロックダンスの練習中なのだが、段々と彼の個人指導になっている。

「あいつ…昔からダンスになると姿を消していたからな」

レオナルドが横目で見ながら溜息を吐く。

「二人はそんなに古くからの知り合いなのか?」

サラは彼の横でダンスの待機中である。

「うちの取引先がニコラスの所。実際家も近いし、今じゃ家族ぐるみの付き合いだ」

「レオナルドの家って何をしてるんだい?」

「小麦作ってる」

「…あれ?でもレオナルドは騎士団に入りたいって言ってなかった?」

長男で、家を出るってこと? サラは首を傾げた。

「まぁ、そこらへんは色々あってな…。あ、ユリウスお前の番だぞ」

「わっ…」

話に夢中になっていたサラは慌てるように飛び出し、前から移動してきた生徒と危うくぶつかりそうになる。

「おい、何やってんだよ」

レオナルドに咄嗟の所で腕を引っ張られ、寸前でサラはぶつからずに済んだ。
力強く掴まれた腕は勢いでそのまま引っ張られ、体ごとレオナルドに突っ込んでサラは衝撃に目を瞑った。
実際はとん…と軽く受け止められた。
レオナルドの胸に頭が当たり、両肩を支えられた状態で止まる。

「あ、ありがとう…」

ダンスで人とぶつかりかけるなんてとんだ粗相だ…。
サラは顔が赤くなった。
レオナルドの方を振り返ったものの、サラが踊るタイミングを逃した中央の位置では、ダンスでペアになる予定だった女子が一人でくるくると回っていて。そのまま自列へ戻っていく様子を茫然と見送る。

「ユリウスはどうしたのですか?」

先生に名前を呼ばれ、サラは恥ずかしくて耳まで真っ赤になる。
泣きそうな心と共によろけそうになる体はレオナルドに支えられていた。

「わっ、ごめん…!」

サラは頭一つ分背の高いレオナルドを見上げる。
思ったより距離が近かった。
真っ赤になった顔を見られるのが怖くて、サラは慌ててレオナルドから離れた。

「ユリウス・スウォルト!」

「す、すみませんっ先生」

本来踊るべき中央へと駆けていくと、ニコラスがにこにこしながら待機していた。



「ユリウスもオレと一緒に補習だな!」



火照っていたサラの顔は、ニコラスの一言で一気に血の気が引いた。

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