サラの真っ白な地図

雪猫

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北の大地の娘

12〜カールハインツ視点〜

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カールハインツは目を見開いた。
この愛する娘は今何と言ったのか。

「ユリウスの代わりに王立学院に入ります」

サラ…本気かい?
声にならず、目だけ娘を凝視する。
 
王立学院の入学規則に男女の指定はない。
入学は強制ではなく、入らなくても人生に困る事はない。領地を守って今まで通り過ごせばいい話で。
学院自体、歴史はそう長くない。
子どもたちに告げていないが、カールハインツは創立した年の一期生だった。
貴族の交流と品位の向上という王家の勝手な思惑、というと聞こえは悪いが、
高額な入学金を支払って入る程のものでもないとカールハインツは思っている。
ただ今回は諸事情が重なった事もあり、嫡男のユリウスを一人で行かせようと思っていた。
きっとユリウスにも外の世界は良い刺激となるだろうと思っていたのだが。

原因不明の病に臥せる息子の代わりに、自分が入学すると言い出す娘の姿が目の前にあった。

この娘は世界を自ら広げようとしている。


今までスウォルトの自然と生きてきたサラは、自分の中に生まれた欲に気付いているだろうか。
未知の可能性に溢れるサラの成長を止める権利はない。
むしろ、見てみたいとも思う自分がいる。
でも色々と厄介な事もあるのだけれど。
諸々、大変な事だらけなのだけれど…


「ユリウスの体に無理はさせたくありません…王立学院の辞退も…させたくありません。お金の事もあるけれど…」

サラの声が段々と小さくなる。

「私も外の世界を知りたいです…」

二人も入学させるとパパが寂しいから、という本音は、今となっては言え口が裂けても言えなかった。
…この事は墓場まで内緒にしていよう。

カールハインツは目を細めた。
同時にサラの言葉も嫋やかに肯定する。

「だから…3ヶ月間だけユリウスの代わりに行かせて下さい!」



あれ…期間限定?


カールハインツは微笑んだまま小さく首を傾げた。
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