サラの真っ白な地図

雪猫

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北の大地の娘

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サラ・スウォルトです。
少しだけ異世界の記憶持ってます。
ただ、どこの誰で何をしていたかは曖昧で…
そんな記憶から誓ったこと。

─悔いなく生きること。
諦めず、頑張ることをやめないこと─





スウォルト領は、アルスメリア王国首都アルスより北方に位置する。
1年の1/4が雪で覆われ、外に続く道が遮断されてしまうため
雪の季節はじっと領地に籠って過ごさなければいけない。
北の辺境を穴熊領地と嗤う者もいて、伯爵家といっても
国の中枢から外れた田舎貴族として貴族社会の印象は薄い。
当のスウォルト領は山・森・川・湖と大自然に恵まれ衣食住に
困ることなく生活出来ている。
「住めば都、なんだけどね」
世間の評判を当主カールハインツ・スウォルト伯爵は笑って受け流している。
小さな大陸・アルスメリア王国は王国統一後約200年間内乱もなく
太平の世を過ごしている。
─王は国民の為にある─
即位すると王は神と国民に宣誓をし、国民と共に国の繁栄を誓う。
首都を中心に北をスウォルト、南をラグーナ、東をイーラス、西をシェルンが
守り、特産品などを売買し合って暮らしている。

「王国四大公といっても過言じゃないのに…」
ユリウスはちらりと父を見やる。
広大な地を与えられているにも関わらず、中枢政治から退き領地経営に
精力をつぎ込むカールハインツはほのぼのと息子の視線を
受け流した。
「僕の代ではないよ。父の代から引きこもってる」
あ、堂々と引きこもりを明言した─ユリウスは一人溜息をつく。
雪の季節が過ぎるとユリウスは14歳になる。
王立学院に入学する年だった。
戦乱もなく過ごす王国では、皆で学び合い成長しようと20年前に王立学院が
創立された。貴族たちは14になる年に2年間国の歴史や王国の発展について学ぶ。
入学は自由希望で、諸事情による辞退することも可能であるが
交友関係が広がり知名度も上がると年々希望者が増え、爵位に関わらず
殆どの貴族が入学をする。
ただ2年間の全寮制、学費がとんでもなく高かった。
「というわけで…ユリウス、すべてを背負って頑張ってきて」
カールハインツが呑気に手を振る。
学院に入学願書を出した、という報告だった。
王立学院の噂は聞いていたし、次期当主となるユリウスが行くのだろうと
皆が思っていた。
サラは……ユリウスがちらりと視線を流すのと、サラが抱きついてきたのは
ほぼ同時だった。
「サ、サラ…!」
「ユリウスと離れるのは寂しい…。でも、きっと学んで得ることは
たくさんあると思う!だから…がんばって…」
現在13歳のサラとユリウス。2人の身長はほとんど同じだった。
ユリウスの体から離れ、額が当たりそうな距離で見つめ合いながら
サラが寂しそうにぽつりと零す。
おそらくユリウスも同じ気持ちだったのだろう。
眉尻を下げ、サラのきらきらと輝く金色の髪の毛を撫で小さく頷く。
「私も…ユリウスが不在の間に猪の狩猟と魚の下処理が出来るよう
頑張るから……」
それは要らない。ユリウスは苦笑いで首を振った。




王立学院入学を半月後に控えたある日のこと─

「食欲がないんですか?ユリウス様」
侍女が心配そうに声をかける。揃えられたナイフとフォーク。
夕食に殆ど手が付けられていない。
サラが収穫した野菜のスープを数口飲んだ程度だ。
「すまない、ロッテ…」
立ち上がるユリウスを心配そうにサラも見つめる。
イスを支えに方向を変えようとしてユリウスの体が傾いた。
侍女の悲鳴が異常事態を知らせる。
「ユリウスッ…!」
「ユリウス様っ!」
サラが駆け寄るが、苦しそうに眉を動かしただけで返答がない。
執事のヨハンがユリウスを抱え上げ、寝室へ直行した。
サラは強張った表情のまま侍女のロッテと顔を見合わせる。
何が起こったの…?!

いつもサラに風邪をひかないよう注意していたユリウス。
体調管理に慎重な彼だからきっと大丈夫と心の中で思っていた。



ユリウスは3日経っても目を覚まさなかった。







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