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第52話 宇治原くん、ご褒美を買いに行く 2

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 大型ショッピングモールに入ると少し暑く感じる。
 暖房が効いているせいだろう。
 本格的な冬にしてはわずかに早いが、決して暑いという時期でもない。
 着ているジャケットを脱ごうかとも考えたが周りを見て少し我慢することにした。

「まずはどこかマップを……」

 呟きながら右に左にマップを探す。
 ここにはあまり来ないため中の構造がわからない。
 何を買うにしろどこに何があるのか把握はあくしないとな。

 マップを探しに少し歩く。
 見た感じ平日の午後のせいか人はあまり多くないようだ。
 いつもどのくらいの人が入っているのかわからないため詳細は不明だが、少なくとも面積に占める人の割合は少ないと感じる。

 加えて高校生とおぼしき人達やおばさま達が多いようにも見える。
 ここにいる高校生は同じ高校の人もいれば違う高校の人もいる。

 頭を丸刈りにした俺と同じ高校の服を着ている人は恐らく野球部だろう。
 多分試験期間の影響で部活が休みになり遊びに出てきていると。
 期末試験が近いのに大丈夫か、と思うが俺も人の事は言えないのですぐに目線を離して先に進む。

 カートを引いたおばさまの横を通り過ぎる。
 晩御飯の買い出しだろうか。
 そう言えば今日の晩御飯を考えていない。
 帰りに買うのもいいかもしれないな。

「とあった」

 案内板発見。
 大きく各フロアを紹介したそれを見つつ何があるのか調べて行く。

「アパレル、本屋、携帯会社にスポーツ用品店……」

 スポーツ関係はなしだな。
 愛莉が陸上を思い出しつらく感じるかもしれない。
 もしかしたらもう乗り越え気遣いはいらなくなっているのかもしれないが、危険をおかす必要はないだろう。
 ならばその他のものということになるのだが……。

「しくじったな。トモと遠藤さんを連れて来るべきだったかもしれない」

 肩を落としながらいない二人を思う。
 あの二人なら無難ぶなんなものを選んでくれるだろう。
 いやトモだったら布教用アニメグッズを選ぶかもしれないが、常識的な事となると困らないものを選んでくれるはずだ。

 いやここは自分で選んでこそのプレゼント。一人で来たことはきっと間違いではない、と思いたい。

 ネットで見た。
 何歳になっても女の子は可愛い物が好きだ、と。

 ボーイッシュな愛莉。
 可愛いものを持っているイメージがいまいちわかないが、考慮するにあたいする。

「文具屋、か」

 マップ上で二階の一角にある店を発見しぽつりと呟く。
 勉強のご褒美なのに文具はないだろう。
 人によっては万年筆とかを贈る人もいるだろうが高校生に万年筆はない。
 これは却下だな。

「やっぱりぬいぐるみ関係、か? 」

 少し首を傾げながらも方針を決めて二階に上がる。
 色々な店が並ぶ長い道を歩き目的地に着く。
 するとそこには、ファンシーな店があった。

「こ、これに入れというのか」

 強制ではない。
 しかし入らなければ選ぶ事すらできないのも事実。
 入っていく女性達をみて男性がいない事に気が付く。

 これ絶対浮くよな?

 笑われないか心配する。しかし思えば存在感が薄い俺。
 気にするほどの事でもないかと思い至り足を進めて自動ドアの前に立った。

 ……ドアが反応しなかった。

 ★

 夕日も沈み暗くなった夜の道。
 俺は晩御飯の材料とぬいぐるみを手に持ち家路いえじいていた。

 結局の所自動ドアは開かなかった。
 他の人が中に入ると同時に俺も入ったことでプレゼント選びに進むことができた。

 プレゼントはぬいぐるみにした。
 あの後も色々と考えたが無難なところで、ということでぬいぐるみに落ち着いたのだ。
 チキンと呼ばれても仕方ない。
 文具や教材はあり得ないし、スポーツ用品もダメ。服関係は彼女がいないと買えないし装飾品を選べるほどのセンスを俺は持ち合わせていない。
 食べ物関係も頭をよぎったが「日持ちしないものを選んでどうする」と心の中で自分にツッコみを入れ却下した。

「……喜んでくれるだろうか」

 少し不安に駆られぬいぐるみが入った紙袋を体に寄せる。
 このぬいぐるみだって俺の独断と偏見で買ったようなものだ。
 ご褒美とはいうが俺の押し付けになっていないかと心配する。

 ダメだ。
 ネガティブになってる。

 思考を切り替え良い方向に行くと自己暗示をかける。
 大丈夫。きっとうまくいく。
 そう思いつつ俺はそのまま足を進めた。
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