51 / 62
第51話 宇治原くん、ご褒美を買いに行く 1
しおりを挟む その日、新海を呼び止めたのは後輩の遠藤瑞樹だった。常にトップを逃げ切っていた遠藤だが、今月は成績が芳しくない。その相談かと新海は思っていたのだが、意外なことに万葉の話題だった。
「先輩知っていますか、恵さんの旦那さんのこと?」
「ん? いや、全然知らないけど」
「親会社の役員ですよ、田中常務っていう有名な人です」
それに新海が度肝を抜かれていると、遠藤はため息を吐いた。
「はあ……どこで田中常務と出会ったんですかね。私も結婚したい」
「それ、マジ?」
「ええ、本当のことですよ。私の同期で総務の子がいるんですけど、聞いたら教えてくれました」
新海は渋い顔のまま固まり、なんとも言えないまま遠藤を見た。
「先輩なら恵先輩と仲がいいから、てっきり出会いのきっかけとかも知っているかと思ったんですけど」
それなら一人酒をする居酒屋だと言っていた、と新海は呟く。
「そうだったんですね。居酒屋かあ……なんか納得です。田中常務モテるって有名ですし、独身だから居酒屋で女の子誘って遊んでたんですかね」
「確かにモテそうだけど、遊んでるって感じには見えないけどな」
「そうですか? 女性泣かせで有名らしいですよ。恵先輩も、そのうちポイってされちゃうんですかね」
新海は顔には出さなかったが、内心青ざめる。ほら、言わんこっちゃない、とため息を吐いた。
万葉は仕事はバリバリできる割に、恋愛下手で奥手で鈍感だ。いいように遊び人の出来心に乗せられて、ノリで結婚してしまったようにしか思えなかった。
田中常務が手強すぎるのは、言われなくても見て取れる。それをまさか万葉が射落とすとは、新海には到底思えないことだったが、それはみんなおおむね同意見のようだった。
「遊ばれてるんだったとしたら、かわいそうですよね。恵先輩、田中常務の女泣かせっていう話知ってるのかな?」
「さあな。あいつ変なところでドジだから」
「笑えないですよ、女の子にとって、結婚ってかなり重要なことですから」
「それは男も一緒だと思うけど」
「遊び人の人が結婚するって、どういう心情ですかね。もう遊び飽きたか、奥さんを隠れ蓑にいい人っぽく見せておいて、他の女性と遊ぶ、なんてことも考えられますけどね」
遠藤の言い方がなぜか非常に現実的で、新海は肝を冷やす。
「どうせすぐ離婚するって、みんな言ってますけどね……あ、いけない。これ、恵先輩には言わないでくださいね」
遠藤はしまったという顔をして、口元を手で隠した。
「まあ、噂はほどほどにしておけ。あいつの問題なんだろうから、俺たちがとやかく言う話じゃないしな」
「そうですよね。でもいいな、田中常務と結婚。私も一度はあんな人にエスコートしてもらいたいです」
新海はそれに笑っておいた。
「新海先輩は、好きな人いないんですか?」
「はあ、俺? そういう遠藤はどうなんだよ……って、俺がきくとセクハラかパワハラか」
大丈夫ですよ、と遠藤はけらけら笑う。
「俺はまあ、いたけど」
「恵先輩ですか?」
「んー、さあな」
「何だ、恵先輩のことてっきり好きなんだと思っていました。いいじゃないですか、今の情報伝えて別れてもらって、先輩が奪っちゃえ」
「何言ってんだよ……」
「私、恵先輩と新海先輩の方が、お似合いだと思いますけど」
新海はそれに鼻で笑ってしまう。
「で、遠藤は恵の後釜で田中常務と結婚、っていうシナリオか?」
聞くと、遠藤は答えるかわりにニヤリと微笑んだ。その意味深な瞳に、新海は思わず「マジ?」と聞き返した。
「先輩知っていますか、恵さんの旦那さんのこと?」
「ん? いや、全然知らないけど」
「親会社の役員ですよ、田中常務っていう有名な人です」
それに新海が度肝を抜かれていると、遠藤はため息を吐いた。
「はあ……どこで田中常務と出会ったんですかね。私も結婚したい」
「それ、マジ?」
「ええ、本当のことですよ。私の同期で総務の子がいるんですけど、聞いたら教えてくれました」
新海は渋い顔のまま固まり、なんとも言えないまま遠藤を見た。
「先輩なら恵先輩と仲がいいから、てっきり出会いのきっかけとかも知っているかと思ったんですけど」
それなら一人酒をする居酒屋だと言っていた、と新海は呟く。
「そうだったんですね。居酒屋かあ……なんか納得です。田中常務モテるって有名ですし、独身だから居酒屋で女の子誘って遊んでたんですかね」
「確かにモテそうだけど、遊んでるって感じには見えないけどな」
「そうですか? 女性泣かせで有名らしいですよ。恵先輩も、そのうちポイってされちゃうんですかね」
新海は顔には出さなかったが、内心青ざめる。ほら、言わんこっちゃない、とため息を吐いた。
万葉は仕事はバリバリできる割に、恋愛下手で奥手で鈍感だ。いいように遊び人の出来心に乗せられて、ノリで結婚してしまったようにしか思えなかった。
田中常務が手強すぎるのは、言われなくても見て取れる。それをまさか万葉が射落とすとは、新海には到底思えないことだったが、それはみんなおおむね同意見のようだった。
「遊ばれてるんだったとしたら、かわいそうですよね。恵先輩、田中常務の女泣かせっていう話知ってるのかな?」
「さあな。あいつ変なところでドジだから」
「笑えないですよ、女の子にとって、結婚ってかなり重要なことですから」
「それは男も一緒だと思うけど」
「遊び人の人が結婚するって、どういう心情ですかね。もう遊び飽きたか、奥さんを隠れ蓑にいい人っぽく見せておいて、他の女性と遊ぶ、なんてことも考えられますけどね」
遠藤の言い方がなぜか非常に現実的で、新海は肝を冷やす。
「どうせすぐ離婚するって、みんな言ってますけどね……あ、いけない。これ、恵先輩には言わないでくださいね」
遠藤はしまったという顔をして、口元を手で隠した。
「まあ、噂はほどほどにしておけ。あいつの問題なんだろうから、俺たちがとやかく言う話じゃないしな」
「そうですよね。でもいいな、田中常務と結婚。私も一度はあんな人にエスコートしてもらいたいです」
新海はそれに笑っておいた。
「新海先輩は、好きな人いないんですか?」
「はあ、俺? そういう遠藤はどうなんだよ……って、俺がきくとセクハラかパワハラか」
大丈夫ですよ、と遠藤はけらけら笑う。
「俺はまあ、いたけど」
「恵先輩ですか?」
「んー、さあな」
「何だ、恵先輩のことてっきり好きなんだと思っていました。いいじゃないですか、今の情報伝えて別れてもらって、先輩が奪っちゃえ」
「何言ってんだよ……」
「私、恵先輩と新海先輩の方が、お似合いだと思いますけど」
新海はそれに鼻で笑ってしまう。
「で、遠藤は恵の後釜で田中常務と結婚、っていうシナリオか?」
聞くと、遠藤は答えるかわりにニヤリと微笑んだ。その意味深な瞳に、新海は思わず「マジ?」と聞き返した。
15
お気に入りに追加
149
あなたにおすすめの小説

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。

モブが公園で泣いていた少女にハンカチを渡したら、なぜか友達になりました~彼女の可愛いところを知っている男子はこの世で俺だけ~
くまたに
青春
冷姫と呼ばれる美少女と友達になった。
初めての異性の友達と、新しいことに沢山挑戦してみることに。
そんな中彼女が見せる幸せそうに笑う表情を知っている男子は、恐らくモブ一人。
冷姫とモブによる砂糖のように甘い日々は誰にもバレることなく隠し通すことができるのか!
カクヨム・小説家になろうでも記載しています!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり

貞操観念が逆転した世界に転生した俺が全部活の共有マネージャーになるようです
.
恋愛
少子化により男女比が変わって貞操概念が逆転した世界で俺「佐川幸太郎」は通っている高校、東昴女子高等学校で部活共有のマネージャーをする話
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる