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第48話 もう一つのカップル
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「結局何もなかったね」
「……そう見えましたか? 」
「そう見えたけど? 」
「とも君は見た目は女の子なのにこういう所は鈍感ですね」
「酷っ! これでもれっきとした男子だよ! 」
「なら尚更宇治原さんの気持ちの変化を見抜かないと」
両手に大量の荷物をもつ友和は「ぐぬぬぬ」と唸りながら冴香を見た。
暗闇の中電灯に照らされる冴香の姿を見て、友和は少し息を整えて表情を和らげた。
その様子を見て冴香は「本当にわかっているのだろうか」と思い、軽く溜息をつく。
しかし「それはありえないわ」とその考えをすぐに取り下げた。
簾と愛莉のストーカー……もとい恋の観察者役を終えた二人は帰路に就いていた。
今日のデートが成功するのか心配しての事だったがそれは杞憂に終わり、簾と愛莉が仲良く帰る中「もう大丈夫だろう」と考え二人は自分達のマンションへ向かっていた。
「ま。冗談はこのくらいにして。これでレン君に恋人が出来たかな? 」
「流石に一回のデートで付き合うことはないでしょう」
「確かに。でもこれから二人はどうなっていくのかな? 」
「さて。分かりかねますが、良い方向へ向かうことを信じるとしましょう」
「だね。でも重原さん、大丈夫かな? 」
「なにがですか? 」
「上位争い」
冴香はそれを聞き丸く黒い瞳を大きく開けた。
考えるような素振りをして友和に顔を向ける。
「重原さんの成績は急上昇しています。それを快く思わない人物は現れるでしょうね」
冴香の言葉に大きく溜息をつく友和。
友和達が通う高校は進学校である。
いわずもがな上位と呼ばれる三十人に入ると高い内申点が貰える。
その恩恵は大きく、通常の試験ではなく推薦で大学に入るために、三十位以内を目指すものは多い。
進学校でなくとも普通の高校でも成績優秀者の内申点は良い傾向にある。
がしかし、ことこの高校においては中位と上位の差が激しいため争いは過激だ。
これは学生同士の学習意欲を増すため、とされているが慣例的に行われている側面もある。
変化を嫌う年配の教員が差別化を容認している形だ。
そのせいもあってか試験外での妨害に出る者もでるわけで。
もちろんバレると内申点が下がるどころか停学になる可能性もあるのだが、そのリスクを背負っても妨害に出る者が後を絶たない。
特に上位三十位前後の人達は。
「重原さんが乗り越えるべき難関の一つはすでにクリアされている」
「ノイローゼ、ですね」
友和が歩きながら言うと冴香が答える。
「トモ君がいるおかげなのか一人で根を詰め過ぎずやれてるみたいだ」
「……寂しいですか? 」
「そんなことないよ。それに今度は重原さんも呼んで四人でやればいい」
確かに、と冴香が頷きチラリと友和を見る。
言葉では「大丈夫」と言っているが今回内心寂しそうだった。
彼女、としては複雑な気分だがどうしようもないのも事実。
強がって、と思いながら冴香は少し友和に近寄る。
狭まった距離を不快に感じることなく友和は歩く。
「そういえば今回とも君は大丈夫なのですか? 」
「なにが? 」
「期末テストです」
「もちろんだよ。じゃないとこうして外に出ない」
「ならいいのですが」
「今回こそ打倒レン君! 一位のその座は僕が貰うよ! 」
「逞しい事で」
夜空に手を伸ばす彼氏に近寄る冴香。
友和はピタリとついた冴香に気が付き荷物を片手にまとめ、腕を彼女の腰に回す。
ぎゅっと引き寄せた体と共に二人は闇夜に消えていった。
「……そう見えましたか? 」
「そう見えたけど? 」
「とも君は見た目は女の子なのにこういう所は鈍感ですね」
「酷っ! これでもれっきとした男子だよ! 」
「なら尚更宇治原さんの気持ちの変化を見抜かないと」
両手に大量の荷物をもつ友和は「ぐぬぬぬ」と唸りながら冴香を見た。
暗闇の中電灯に照らされる冴香の姿を見て、友和は少し息を整えて表情を和らげた。
その様子を見て冴香は「本当にわかっているのだろうか」と思い、軽く溜息をつく。
しかし「それはありえないわ」とその考えをすぐに取り下げた。
簾と愛莉のストーカー……もとい恋の観察者役を終えた二人は帰路に就いていた。
今日のデートが成功するのか心配しての事だったがそれは杞憂に終わり、簾と愛莉が仲良く帰る中「もう大丈夫だろう」と考え二人は自分達のマンションへ向かっていた。
「ま。冗談はこのくらいにして。これでレン君に恋人が出来たかな? 」
「流石に一回のデートで付き合うことはないでしょう」
「確かに。でもこれから二人はどうなっていくのかな? 」
「さて。分かりかねますが、良い方向へ向かうことを信じるとしましょう」
「だね。でも重原さん、大丈夫かな? 」
「なにがですか? 」
「上位争い」
冴香はそれを聞き丸く黒い瞳を大きく開けた。
考えるような素振りをして友和に顔を向ける。
「重原さんの成績は急上昇しています。それを快く思わない人物は現れるでしょうね」
冴香の言葉に大きく溜息をつく友和。
友和達が通う高校は進学校である。
いわずもがな上位と呼ばれる三十人に入ると高い内申点が貰える。
その恩恵は大きく、通常の試験ではなく推薦で大学に入るために、三十位以内を目指すものは多い。
進学校でなくとも普通の高校でも成績優秀者の内申点は良い傾向にある。
がしかし、ことこの高校においては中位と上位の差が激しいため争いは過激だ。
これは学生同士の学習意欲を増すため、とされているが慣例的に行われている側面もある。
変化を嫌う年配の教員が差別化を容認している形だ。
そのせいもあってか試験外での妨害に出る者もでるわけで。
もちろんバレると内申点が下がるどころか停学になる可能性もあるのだが、そのリスクを背負っても妨害に出る者が後を絶たない。
特に上位三十位前後の人達は。
「重原さんが乗り越えるべき難関の一つはすでにクリアされている」
「ノイローゼ、ですね」
友和が歩きながら言うと冴香が答える。
「トモ君がいるおかげなのか一人で根を詰め過ぎずやれてるみたいだ」
「……寂しいですか? 」
「そんなことないよ。それに今度は重原さんも呼んで四人でやればいい」
確かに、と冴香が頷きチラリと友和を見る。
言葉では「大丈夫」と言っているが今回内心寂しそうだった。
彼女、としては複雑な気分だがどうしようもないのも事実。
強がって、と思いながら冴香は少し友和に近寄る。
狭まった距離を不快に感じることなく友和は歩く。
「そういえば今回とも君は大丈夫なのですか? 」
「なにが? 」
「期末テストです」
「もちろんだよ。じゃないとこうして外に出ない」
「ならいいのですが」
「今回こそ打倒レン君! 一位のその座は僕が貰うよ! 」
「逞しい事で」
夜空に手を伸ばす彼氏に近寄る冴香。
友和はピタリとついた冴香に気が付き荷物を片手にまとめ、腕を彼女の腰に回す。
ぎゅっと引き寄せた体と共に二人は闇夜に消えていった。
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