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第43話 宇治原くんの初デート 4 アミューズメント施設 2
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「うそ……だろ」
「へへん。スポーツじゃボクの方が強かったみたいだね」
「馬鹿な。こんな短期間でっ! 」
「負けっぱなしだったからね。これで少しはやり返せたかな? 」
その点差に俺は膝をついた。
得意気に笑う愛莉を見上げながらボーリングを始めた頃の事を思い出す。
始めた頃は普通の初心者と一般人くらいの点差があった。
愛莉はことごとくガーターにボールを放り投げ、俺はピンに当てていった。
これはまずいかもと思い少し手心を加えた方が良いのか考えていると、俺の心を読んだように愛莉からストップがかかる。
『手加減なしで良いよ。むしろしたら怒るからね』
そう言われると手加減なんてできない。
むしろ今まで以上に本気を出さざる終えなくなった俺はそのままピンをはねていった。
と言っても俺はボーリングが上手いわけでは無い。
ガーターにボールを入れることもあれば、残り一本を逃すこともある。
精々「普通」の領域をでないのだが……その時が訪れてしまった。
――魔王の生誕である。
二ゲーム目中盤。愛莉の雰囲気が一瞬で変わった。
それまでの愛莉の投げ方は何か試すような、そんなボールの投げ方だったがその一投は投げる前から違った。
ピンと伸びた綺麗な脚。俺のフォームを模倣したかのようなボールの持ち方。そしてゆっくりとレーンに向かい、——ストライクを出した。
最初は「おお! ナイスストライク! 」と言っていたのだが、それが何度も連続すると「お、おう? ナイス! 」と俺も戸惑い始めた。
コツを掴んだのかその後愛莉は両手でピースを作りながらストライクを量産していく。
可愛らしい一方で終わらない彼女のターンに顔を引き攣らせながら二ゲーム目を終えた、ということだ。
忘れていたわけでは無い。
しかし誰が思うだろうか。幾ら元陸上部で運動が得意と言っても一ゲームちょっとで、俺がこれまで築き上げた経験値をあっさりと越えられるなんて。
物語の主人公にあっさりと越えられるモブの気分は多分こんなものだろう。
少しの現実逃避を挟みながら立ち上がる。
「……次は俺のターンだな」
「超えてみせ給え」
「流石にこのまま終われない」
ぽつりと呟くように言いながらボールを持つ。
構えてピンに照準を当てようとした時、ボーリング場の照明が一気に落ちた。
それと同時に軽快な音楽と共にレーンの枠が光り始めた。
これは、と気が付き一歩下がる。
席を見ると案の定愛莉が少し混乱していた。
「え?! 何! 」
「あ~、これは……」
「さぁ今回もやってきましたストライクゲーム!!! 今宵はどんなストライカーが生まれるか必見!!! 」
戸惑いながら「これは? 」と聞いて来る愛莉にゲームの内容を説明する。
つまるところこの一投でストライクを出すと景品がもらえるという仕組み。
言い終えると「なるほど」と頷いた。
「今宵って言っているけど今昼だよね? 」
「そこはツッコまないであげて。司会者の人も仕事でやってるんだから」
「ごめんごめん」
愛莉は謝りながらも司会者の人を見る。彼女につられて俺も制服姿の司会者を見たが気にした様子はない。
プロフェッショナルだ、と思うも「大変なんだな」と少し同情してしまった。
恐らくこのセリフは使い回しだろう。
しかし昼用と夜用に分ければいいのにとも思う。が、もしかしたら敢えてツッコミ待ちなのかもしれない。
こうやって話題でお客を呼んでいるのかもしれない。言わされる昼の司会者には同情しかないが。
「――尚ストライクを出したペアには記念撮影! 今日この素晴らしき日を是非とも収めてください! この日中に遊ぶリア充共!!! 」
司会者がドスのきいた声で怒鳴りつけた。
司会者も、かなり大変なようだ。
司会者の憎悪にも似た叫び声を聞きながら前を向く。
今日の景品は写真か、と思いながらも「これ一人で来た人はどうするんだ? 」と思いながらも周りを見る。ちらっと見た限りだと周りには二人以上のカップルしかいなかった。
通りで司会者から怨念のようなものが流れ出るはずだ、と納得しながらもボールを持ち直す。
「レン。絶対にストライクを出してね」
「お、おう……。頑張る」
「今回は頑張る、じゃダメだからね。絶対だからね」
後ろから途轍もないプレッシャーと共に脅迫にも似た言葉がかけられた。
そんなにも写真を撮りたいのか。
俺と写ることになるのだが、と思うと少し顔が熱くなった。
――これは外せないな。
ボールを持ち直し照準を定める。
いつもと違って「外せない」と考えると緊張が全身を駆け巡る。
ストライクを取ると愛莉とツーショットか。
愛莉とツーショット、愛莉とツーショット、愛莉とツーショット……。
外せない!!!
更に闘志を燃やして一歩踏み出す。
「ではリア充共! 準備は良いですか! 」
司会者の声が会場に鳴り響く。
周りも集中しているのか変更された音楽しか聞こえない。
「では……、始め!!! 」
その声と共にボールを転がした。
会場で投げられたボールがゴロゴロと音を立てながらピンに向かう。
吸い込まれるように転がり――。
「流石レン!!! ナイスストライク!!! 」
パコン!!! と音を立ててピンを弾いた。
き、緊張した……。
「へへん。スポーツじゃボクの方が強かったみたいだね」
「馬鹿な。こんな短期間でっ! 」
「負けっぱなしだったからね。これで少しはやり返せたかな? 」
その点差に俺は膝をついた。
得意気に笑う愛莉を見上げながらボーリングを始めた頃の事を思い出す。
始めた頃は普通の初心者と一般人くらいの点差があった。
愛莉はことごとくガーターにボールを放り投げ、俺はピンに当てていった。
これはまずいかもと思い少し手心を加えた方が良いのか考えていると、俺の心を読んだように愛莉からストップがかかる。
『手加減なしで良いよ。むしろしたら怒るからね』
そう言われると手加減なんてできない。
むしろ今まで以上に本気を出さざる終えなくなった俺はそのままピンをはねていった。
と言っても俺はボーリングが上手いわけでは無い。
ガーターにボールを入れることもあれば、残り一本を逃すこともある。
精々「普通」の領域をでないのだが……その時が訪れてしまった。
――魔王の生誕である。
二ゲーム目中盤。愛莉の雰囲気が一瞬で変わった。
それまでの愛莉の投げ方は何か試すような、そんなボールの投げ方だったがその一投は投げる前から違った。
ピンと伸びた綺麗な脚。俺のフォームを模倣したかのようなボールの持ち方。そしてゆっくりとレーンに向かい、——ストライクを出した。
最初は「おお! ナイスストライク! 」と言っていたのだが、それが何度も連続すると「お、おう? ナイス! 」と俺も戸惑い始めた。
コツを掴んだのかその後愛莉は両手でピースを作りながらストライクを量産していく。
可愛らしい一方で終わらない彼女のターンに顔を引き攣らせながら二ゲーム目を終えた、ということだ。
忘れていたわけでは無い。
しかし誰が思うだろうか。幾ら元陸上部で運動が得意と言っても一ゲームちょっとで、俺がこれまで築き上げた経験値をあっさりと越えられるなんて。
物語の主人公にあっさりと越えられるモブの気分は多分こんなものだろう。
少しの現実逃避を挟みながら立ち上がる。
「……次は俺のターンだな」
「超えてみせ給え」
「流石にこのまま終われない」
ぽつりと呟くように言いながらボールを持つ。
構えてピンに照準を当てようとした時、ボーリング場の照明が一気に落ちた。
それと同時に軽快な音楽と共にレーンの枠が光り始めた。
これは、と気が付き一歩下がる。
席を見ると案の定愛莉が少し混乱していた。
「え?! 何! 」
「あ~、これは……」
「さぁ今回もやってきましたストライクゲーム!!! 今宵はどんなストライカーが生まれるか必見!!! 」
戸惑いながら「これは? 」と聞いて来る愛莉にゲームの内容を説明する。
つまるところこの一投でストライクを出すと景品がもらえるという仕組み。
言い終えると「なるほど」と頷いた。
「今宵って言っているけど今昼だよね? 」
「そこはツッコまないであげて。司会者の人も仕事でやってるんだから」
「ごめんごめん」
愛莉は謝りながらも司会者の人を見る。彼女につられて俺も制服姿の司会者を見たが気にした様子はない。
プロフェッショナルだ、と思うも「大変なんだな」と少し同情してしまった。
恐らくこのセリフは使い回しだろう。
しかし昼用と夜用に分ければいいのにとも思う。が、もしかしたら敢えてツッコミ待ちなのかもしれない。
こうやって話題でお客を呼んでいるのかもしれない。言わされる昼の司会者には同情しかないが。
「――尚ストライクを出したペアには記念撮影! 今日この素晴らしき日を是非とも収めてください! この日中に遊ぶリア充共!!! 」
司会者がドスのきいた声で怒鳴りつけた。
司会者も、かなり大変なようだ。
司会者の憎悪にも似た叫び声を聞きながら前を向く。
今日の景品は写真か、と思いながらも「これ一人で来た人はどうするんだ? 」と思いながらも周りを見る。ちらっと見た限りだと周りには二人以上のカップルしかいなかった。
通りで司会者から怨念のようなものが流れ出るはずだ、と納得しながらもボールを持ち直す。
「レン。絶対にストライクを出してね」
「お、おう……。頑張る」
「今回は頑張る、じゃダメだからね。絶対だからね」
後ろから途轍もないプレッシャーと共に脅迫にも似た言葉がかけられた。
そんなにも写真を撮りたいのか。
俺と写ることになるのだが、と思うと少し顔が熱くなった。
――これは外せないな。
ボールを持ち直し照準を定める。
いつもと違って「外せない」と考えると緊張が全身を駆け巡る。
ストライクを取ると愛莉とツーショットか。
愛莉とツーショット、愛莉とツーショット、愛莉とツーショット……。
外せない!!!
更に闘志を燃やして一歩踏み出す。
「ではリア充共! 準備は良いですか! 」
司会者の声が会場に鳴り響く。
周りも集中しているのか変更された音楽しか聞こえない。
「では……、始め!!! 」
その声と共にボールを転がした。
会場で投げられたボールがゴロゴロと音を立てながらピンに向かう。
吸い込まれるように転がり――。
「流石レン!!! ナイスストライク!!! 」
パコン!!! と音を立ててピンを弾いた。
き、緊張した……。
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