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第25話 勉強教えて宇治原くん! 6 先生と書いてボスと読む
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「……厳しすぎませんか? 」
「なにを言うか。このくらいやって見せろ」
「ですが」
「それとも何か? 自信がないのか? 」
その難易度に愛莉が唖然とする中俺が大黒先生に聞く。
すると先生が挑発してきたがそれには乗らない。
この学校は県内有数の進学校。
言わずもがな上位陣と呼ばれる人達は、——一部を除いて――勉強中毒の猛者ばかりだ。
上位三十位と言えばテスト結果が名前と同時に張り出されるレベルで、それに割り込めというのは些か難題が過ぎると思う。
時間の問題もある。
これが三か月ほどあれば俺は苦い顔をしないだろう。
だけど期末テストがある十一月末まで約一ヶ月。
その間に学力を大幅に上げることは難題だ。
大黒先生の視線のせいかじわりと汗が滲む。
圧倒的に時間が少なすぎるっ!
「やります! 」
愛莉の言葉が響いた。
顔を上げ彼女を見ると、更に一歩前に出ている彼女が見えた。
いつの間にか俺は目線を下げていたらしい。
「あ、愛莉。大黒先生の挑発に乗る必要は――」
上位三十位でなくても医学部に行けるレベルのはずだ。
口車に乗るのにはデメリットが大きすぎるっ!
「レン。ボクはこれを受けるよ」
「ほう……」
「けどボクが達成したら次の学園祭のミスコン。受けてもらうからね」
「っ!!! 」
その言葉に大黒先生の顔が思いっきり引き攣った。
学園祭? ミスコン?
一体何の話だ?
今年の学園祭に興味が無さすぎてわからない。
混乱していると大黒先生が突然笑い出した。
「ふふふ……。教師に取引を持ち掛けるとは良い度胸だ」
笑い出したかと思えば、ガバっと両腕を広げる。
「受けてたとうじゃないか重原! 全力でかかってこい! 」
まるでゲームのボスのような言葉を大声で言った。
……リアルでこんなことを言う人がいるとは思わなかった。
★
大黒先生と話が終わり帰ろうと扉を開けようとした時、大黒先生が俺を引き留めた。
「宇治原だけでいい」
その言葉に愛莉から途轍もなく不穏な雰囲気が流れていたが、大黒先生は華麗にスルー。
渋々といった表情で愛莉は出て行った。
それを確認し大黒先生は俺に向く。
「宇治原。色々と聞きたいことはあるが……、まず重原についてどのくらい知っている? 」
「どのくらいと言われましても正直そこまで。話し出したのもここ数日ですし」
「だろうな」
分かっているのなら聞くなよ、と思うも真剣な雰囲気を崩さない大黒先生に言えなかった。
愛莉は陸上部のこと以外になにか隠し事でもしているのだろうか?
仲良くなったとはいえつい最近の事。
気になるといえば気になるが、俺から聞くようなことでもない。
関係を崩すくらいなら口を閉じていた方が利口だ。
「……重原が陸上で故障したのは? 」
「聞いてます」
「故障の原因は? 」
「それは……」
「聞いてないか」
こんなかなりデリケートな問題、聞けるはずがない。
彼女から言うのならともかく俺からは聞くべきではない。
「重原が言っていないのなら私が言うのも違うか」
「それはそうでしょう」
軽く息を吐き大黒先生は黒い瞳を向けて来た。
何か考えているのか少しの沈黙がこの部屋に流れる。
「宇治原は重原のサポートをする、で良いんだな? 」
「そのつもりですが? 」
「何で、と聞くのは野暮か。しかし、教員の立場から助言させてもらうと人に教えるというのは案外難しいものだぞ? 」
「承知の上です」
「二人揃って覚悟が決まっていることで」
大黒先生は脱力したように肩を落とす。
「学生同士が教え合うことは悪い事ではない。まぁ教員を頼ってくれなかった所に寂しさは覚えるが、それはそれこれはこれ。で、だ。重原のパーソナリティを把握しきれていないであろう君にちょっとしたお節介だ」
「? 」
「勉強に息抜きも組み込め」
息抜きを? 時間がないのに?
「重原は頑張り過ぎる傾向にある。そういった人物は息抜きの仕方を知らない事が多い。その場合どこで潰れるかわからない。宇治原とて重原が潰れていくのを見たくないだろ? 」
「ええ、それはもちろんです」
「即答か。まぁ良い。なら適度に息抜きをしつつ勉学に励め、宇治原」
「分かりました」
ならよし、と大黒先生が話を締めた。
失礼しました、と言い俺は扉に向かって足を進める。
しかし後ろから声が聞こえてきた。
「あぁ~、最後にお前にも一言プレゼントだ」
「いやな予感しかないのですが」
「そう邪険にするな。先生からのありがたいお言葉だぞ? 」
「往々にして自分で「ありがたいお言葉」という人の言葉は有難迷惑なことが多い、と認識していますが」
「言うじゃないか、宇治原」
「……はぁ。それで何でしょう? 」
「なに単なる忠告だ。重原に構い過ぎて成績を落とすなよ? 学年首席殿」
「なにを言うか。このくらいやって見せろ」
「ですが」
「それとも何か? 自信がないのか? 」
その難易度に愛莉が唖然とする中俺が大黒先生に聞く。
すると先生が挑発してきたがそれには乗らない。
この学校は県内有数の進学校。
言わずもがな上位陣と呼ばれる人達は、——一部を除いて――勉強中毒の猛者ばかりだ。
上位三十位と言えばテスト結果が名前と同時に張り出されるレベルで、それに割り込めというのは些か難題が過ぎると思う。
時間の問題もある。
これが三か月ほどあれば俺は苦い顔をしないだろう。
だけど期末テストがある十一月末まで約一ヶ月。
その間に学力を大幅に上げることは難題だ。
大黒先生の視線のせいかじわりと汗が滲む。
圧倒的に時間が少なすぎるっ!
「やります! 」
愛莉の言葉が響いた。
顔を上げ彼女を見ると、更に一歩前に出ている彼女が見えた。
いつの間にか俺は目線を下げていたらしい。
「あ、愛莉。大黒先生の挑発に乗る必要は――」
上位三十位でなくても医学部に行けるレベルのはずだ。
口車に乗るのにはデメリットが大きすぎるっ!
「レン。ボクはこれを受けるよ」
「ほう……」
「けどボクが達成したら次の学園祭のミスコン。受けてもらうからね」
「っ!!! 」
その言葉に大黒先生の顔が思いっきり引き攣った。
学園祭? ミスコン?
一体何の話だ?
今年の学園祭に興味が無さすぎてわからない。
混乱していると大黒先生が突然笑い出した。
「ふふふ……。教師に取引を持ち掛けるとは良い度胸だ」
笑い出したかと思えば、ガバっと両腕を広げる。
「受けてたとうじゃないか重原! 全力でかかってこい! 」
まるでゲームのボスのような言葉を大声で言った。
……リアルでこんなことを言う人がいるとは思わなかった。
★
大黒先生と話が終わり帰ろうと扉を開けようとした時、大黒先生が俺を引き留めた。
「宇治原だけでいい」
その言葉に愛莉から途轍もなく不穏な雰囲気が流れていたが、大黒先生は華麗にスルー。
渋々といった表情で愛莉は出て行った。
それを確認し大黒先生は俺に向く。
「宇治原。色々と聞きたいことはあるが……、まず重原についてどのくらい知っている? 」
「どのくらいと言われましても正直そこまで。話し出したのもここ数日ですし」
「だろうな」
分かっているのなら聞くなよ、と思うも真剣な雰囲気を崩さない大黒先生に言えなかった。
愛莉は陸上部のこと以外になにか隠し事でもしているのだろうか?
仲良くなったとはいえつい最近の事。
気になるといえば気になるが、俺から聞くようなことでもない。
関係を崩すくらいなら口を閉じていた方が利口だ。
「……重原が陸上で故障したのは? 」
「聞いてます」
「故障の原因は? 」
「それは……」
「聞いてないか」
こんなかなりデリケートな問題、聞けるはずがない。
彼女から言うのならともかく俺からは聞くべきではない。
「重原が言っていないのなら私が言うのも違うか」
「それはそうでしょう」
軽く息を吐き大黒先生は黒い瞳を向けて来た。
何か考えているのか少しの沈黙がこの部屋に流れる。
「宇治原は重原のサポートをする、で良いんだな? 」
「そのつもりですが? 」
「何で、と聞くのは野暮か。しかし、教員の立場から助言させてもらうと人に教えるというのは案外難しいものだぞ? 」
「承知の上です」
「二人揃って覚悟が決まっていることで」
大黒先生は脱力したように肩を落とす。
「学生同士が教え合うことは悪い事ではない。まぁ教員を頼ってくれなかった所に寂しさは覚えるが、それはそれこれはこれ。で、だ。重原のパーソナリティを把握しきれていないであろう君にちょっとしたお節介だ」
「? 」
「勉強に息抜きも組み込め」
息抜きを? 時間がないのに?
「重原は頑張り過ぎる傾向にある。そういった人物は息抜きの仕方を知らない事が多い。その場合どこで潰れるかわからない。宇治原とて重原が潰れていくのを見たくないだろ? 」
「ええ、それはもちろんです」
「即答か。まぁ良い。なら適度に息抜きをしつつ勉学に励め、宇治原」
「分かりました」
ならよし、と大黒先生が話を締めた。
失礼しました、と言い俺は扉に向かって足を進める。
しかし後ろから声が聞こえてきた。
「あぁ~、最後にお前にも一言プレゼントだ」
「いやな予感しかないのですが」
「そう邪険にするな。先生からのありがたいお言葉だぞ? 」
「往々にして自分で「ありがたいお言葉」という人の言葉は有難迷惑なことが多い、と認識していますが」
「言うじゃないか、宇治原」
「……はぁ。それで何でしょう? 」
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