上 下
25 / 62

第25話 勉強教えて宇治原くん! 6 先生と書いてボスと読む

しおりを挟む
「……厳しすぎませんか? 」
「なにを言うか。このくらいやって見せろ」
「ですが」
「それとも何か? 自信がないのか? 」

 その難易度に愛莉が唖然あぜんとする中俺が大黒先生に聞く。
 すると先生が挑発してきたがそれには乗らない。

 この学校は県内有数の進学校。
 言わずもがな上位陣と呼ばれる人達は、——一部を除いて――勉強中毒の猛者ばかりだ。
 上位三十位と言えばテスト結果が名前と同時に張り出されるレベルで、それに割り込めというのはいささか難題が過ぎると思う。

 時間の問題もある。
 これが三か月ほどあれば俺は苦い顔をしないだろう。
 だけど期末テストがある十一月末まで約一ヶ月。
 その間に学力を大幅に上げることは難題だ。

 大黒先生の視線のせいかじわりと汗がにじむ。
 圧倒的に時間が少なすぎるっ!

「やります! 」

 愛莉の言葉が響いた。
 顔を上げ彼女を見ると、更に一歩前に出ている彼女が見えた。
 いつの間にか俺は目線を下げていたらしい。

「あ、愛莉。大黒先生の挑発に乗る必要は――」

 上位三十位でなくても医学部に行けるレベルのはずだ。
 口車に乗るのにはデメリットが大きすぎるっ!

「レン。ボクはこれを受けるよ」
「ほう……」
「けどボクが達成したら次の学園祭のミスコン。受けてもらうからね」
「っ!!! 」

 その言葉に大黒先生の顔が思いっきり引き攣った。
 学園祭? ミスコン? 
 一体何の話だ?
 今年の学園祭に興味が無さすぎてわからない。
 混乱していると大黒先生が突然笑い出した。
 
「ふふふ……。教師に取引を持ち掛けるとは良い度胸どきょうだ」

 笑い出したかと思えば、ガバっと両腕を広げる。

「受けてたとうじゃないか重原えはら! 全力でかかってこい! 」

 まるでゲームのボスのような言葉を大声で言った。

 ……リアルでこんなことを言う人がいるとは思わなかった。

 ★

 大黒先生ボスと話が終わり帰ろうと扉を開けようとした時、大黒先生が俺を引きめた。

宇治原うじはらだけでいい」

 その言葉に愛莉から途轍とてつもなく不穏な雰囲気が流れていたが、大黒先生は華麗かれいにスルー。
 渋々といった表情で愛莉は出て行った。
 それを確認し大黒先生は俺に向く。

「宇治原。色々と聞きたいことはあるが……、まず重原についてどのくらい知っている? 」
「どのくらいと言われましても正直そこまで。話し出したのもここ数日ですし」
「だろうな」

 分かっているのなら聞くなよ、と思うも真剣な雰囲気を崩さない大黒先生に言えなかった。
 愛莉は陸上部のこと以外になにか隠し事でもしているのだろうか?
 仲良くなったとはいえつい最近の事。
 気になるといえば気になるが、俺から聞くようなことでもない。
 関係を崩すくらいなら口を閉じていた方が利口だ。

「……重原が陸上で故障したのは? 」
「聞いてます」
「故障の原因は? 」
「それは……」
「聞いてないか」

 こんなかなりデリケートな問題、聞けるはずがない。
 彼女から言うのならともかく俺からは聞くべきではない。

「重原が言っていないのなら私が言うのも違うか」
「それはそうでしょう」

 軽く息を吐き大黒先生は黒い瞳を向けて来た。
 何か考えているのか少しの沈黙がこの部屋に流れる。

「宇治原は重原のサポートをする、で良いんだな? 」
「そのつもりですが? 」
「何で、と聞くのは野暮やぼか。しかし、教員の立場から助言させてもらうと人に教えるというのは案外難しいものだぞ? 」
「承知の上です」
「二人そろって覚悟が決まっていることで」

 大黒先生は脱力したように肩を落とす。

「学生同士が教え合うことは悪い事ではない。まぁ教員を頼ってくれなかった所に寂しさは覚えるが、それはそれこれはこれ。で、だ。重原のパーソナリティを把握はあくしきれていないであろう君にちょっとしたお節介せっかいだ」
「? 」
「勉強に息抜きも組み込め」

 息抜きを? 時間がないのに?

「重原は頑張り過ぎる傾向にある。そういった人物は息抜きの仕方を知らない事が多い。その場合どこで潰れるかわからない。宇治原とて重原が潰れていくのを見たくないだろ? 」
「ええ、それはもちろんです」
「即答か。まぁ良い。なら適度に息抜きをしつつ勉学に励め、宇治原」
「分かりました」

 ならよし、と大黒先生が話をめた。
 失礼しました、と言い俺は扉に向かって足を進める。
 しかし後ろから声が聞こえてきた。

「あぁ~、最後にお前にも一言プレゼントだ」
「いやな予感しかないのですが」
「そう邪険じゃけんにするな。先生からのありがたいお言葉だぞ? 」
往々おうおうにして自分で「ありがたいお言葉」という人の言葉は有難ありがた迷惑なことが多い、と認識していますが」
「言うじゃないか、宇治原」
「……はぁ。それで何でしょう? 」
「なに単なる忠告だ。重原に構い過ぎて成績を落とすなよ? 学年首席殿」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハーレムに憧れてたけど僕が欲しいのはヤンデレハーレムじゃない!

いーじーしっくす
青春
 赤坂拓真は漫画やアニメのハーレムという不健全なことに憧れる健全な普通の男子高校生。  しかし、ある日突然目の前に現れたクラスメイトから相談を受けた瞬間から、拓真の学園生活は予想もできない騒動に巻き込まれることになる。  その相談の理由は、【彼氏を女帝にNTRされたからその復讐を手伝って欲しい】とのこと。断ろうとしても断りきれない拓真は渋々手伝うことになったが、実はその女帝〘渡瀬彩音〙は拓真の想い人であった。そして拓真は「そんな訳が無い!」と手伝うふりをしながら彩音の潔白を証明しようとするが……。  証明しようとすればするほど増えていくNTR被害者の女の子達。  そしてなぜかその子達に付きまとわれる拓真の学園生活。 深まる彼女達の共通の【彼氏】の謎。  拓真の想いは届くのか? それとも……。 「ねぇ、拓真。好きって言って?」 「嫌だよ」 「お墓っていくらかしら?」 「なんで!?」  純粋で不純なほっこりラブコメ! ここに開幕!

怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う

もぐのすけ
青春
神童と言われた天才サッカー少年は中学時代、日本クラブユースサッカー選手権、高円宮杯においてクラブを二連覇させる大活躍を見せた。 将来はプロ確実と言われていた彼だったが中学3年のクラブユース選手権の予選において、選手生命が絶たれる程の大怪我を負ってしまう。 サッカーが出来なくなることで激しく落ち込む彼だったが、幼馴染の手助けを得て立ち上がり、高校生活という新しい未来に向かって歩き出す。 そんな中、高校で中学時代の高坂修斗を知る人達がここぞとばかりに部活や生徒会へ勧誘し始める。 サッカーを辞めても一部の人からは依然として評価の高い彼と、人気な彼の姿にヤキモキする幼馴染、それを取り巻く友人達との刺激的な高校生活が始まる。

幼なじみの男の子は男らしい女の子で女っぽい幼なじみは男でした

常陸之介寛浩☆第4回歴史時代小説読者賞
青春
小さい頃に引っ越した親友の幼なじみが、高校を入学を機会に戻ってきた。 また親友に戻る。混浴温泉に入ると幼なじみが隠さないで入ってきた。 胸があり、チンチンがないのに仰天する主人公 幼なじみヒロインは『なに、恥ずかしがってんだよ!おっ童貞なら俺と済まそうぜ』と襲われる逆レイプ系されそうになる。なんとか窮地を脱するが、それからという物ことあるごとに身の危険が幼なじみヒロインが逆レイプを狙ってくる。 しかし、その狙いは既成事実作り。女と見られていないと思い込んでいるヒロイン。 ボイッシュで気を使わなくて良い親友といつまでも変わらぬ関係を続けたい主人公。 ちょっとだけ外見が違う。ただ、それだけの"普通"の恋愛物語。 ~コンテスト期間内完結予約投稿設定済み~

Bグループの少年

櫻井春輝
青春
 クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

俺を振った元カノがしつこく絡んでくる。

エース皇命
青春
〈未練たらたらな元カノ×エロ教師×超絶ブラコン姉さん〉  高校1年生の山吹秋空(やまぶき あきら)は、日曜日のデート後に彼女である長谷部千冬(はせべ ちふゆ)に別れを切り出される。  同棲してくれるなら別れないであげる、という強烈な条件に愛想を尽かし別れることを了承した秋空だったが、それからというもの、千冬のしつこい絡みが始まることになる……。  頭のおかしい美人教師と、秋空を溺愛する姉、秋空が千冬と別れたことで秋空を狙うクラスメイトの美少女たち。  クセの強い友達に囲まれる、秋空の苦悩に満ちた学校生活! ※小説家になろうにも投稿しています。

姉らぶるっ!!

藍染惣右介兵衛
青春
 俺には二人の容姿端麗な姉がいる。 自慢そうに聞こえただろうか?  それは少しばかり誤解だ。 この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ…… 次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。 外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん…… 「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」 「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」 ▼物語概要 【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】 47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在) 【※不健全ラブコメの注意事項】  この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。  それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。  全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。  また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。 【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】 【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】 【2017年4月、本幕が完結しました】 序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。 【2018年1月、真幕を開始しました】 ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

処理中です...