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第24話 勉強教えて宇治原くん! 5 進路指導教員兼学園のアイドル
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「本気か? 重原」
「はい! 」
進路指導室で愛莉の元気の良い声が響いた。
正面に見える教員は入って来た時の柔らかい様子とは異なり、威圧的で探るような目線を愛莉に送っている。
愛莉の少し後ろにいる俺にも緊張が走るほどだが、愛莉は怯む様子がない。
――本当に真っすぐだな。
小さくも大きく見えるその背中を見つつ俺はここに来る前の事を思い出す。
★
放課後俺と愛莉は遠藤さんの助言の元、ここ進路指導室へ足を運ぶことになった。
確かに遠藤さんの言う通りだ。
愛莉はすでに両親から許可を得ているらしいが教員には相談していない。
俺も最初からその選択を除外していた為目から鱗だった。
県内有数の進学校であるこの高校には優秀な教員が揃っている。
これは通常の教員に加えて定期的に学外から優秀な講師を呼んでいるからだ。
OB・OGからのバックアップも充実している。
そのせいか多方面にコネクションを持つ人もおり人生相談をするにはもってこいの学校だったりもする。
『き、緊張するね』
『医学部を目指す人が何を言っているか』
『だって……』
進路指導室に向かって歩いていると、緊張ゆえか服を引っ張ってきた愛莉。
彼女の気持ちは分からなくもない。
何せこの学校の進路指導教員は普通ではないからだ。
――行列のできる進路指導室。
この学校の進路指導室はそう言われている。
だがビビっていては前に進まない。
進路指導室に行ったことがないためいつもの状況はわからない。二つ名から多くの生徒が並んでいるのだろうと想像した。
だが想像とは異なり人がいない。
少し不思議に思いながらも俺達はその扉を叩いた。
入室許可が降りると俺達は中に入る。
数歩歩くと丸椅子に座り机へ向かっていた進路指導教員を発見した。愛莉がおずおずといった様子で「進路のことで」と聞くとピクリと彼女の肩が震えるのが見えた。
スーツを着崩したスレンダーな先生がくるりと椅子を回して俺達の方を見ると、窮屈そうな胸部が見える。
その時隣から不穏な雰囲気を感じたが気のせいだろう。
そして俺と愛莉はくせっけのある黒いセミロングの髪をもつ進路指導教員と今日三度目の再会をはたした。
★
今も探りを入れるような目線を送る彼女は進路指導教員にして俺達の担任『大黒千景』先生。
その美貌故に何故かこの学校のアイドルに数えられる、異色の先生。
通常学校のアイドルと言えば生徒を指すものだろう。しかしこの学校には大黒先生を含めた三人が存在する。
何故教師が? と俺は思うが男子から熱狂的な人気があるらしい。秘密裏に行われた「この人に踏まれたい!!! 」というタイトルのアンケートでナンバーワンを獲得しているとトモから聞いた。
そう言ったことに興味がないから聞き流していたが、なるほど。確かに鋭い眼光をしている。
需要のある所には需要がありそうだ。
「何故、医学部に行きたい? 」
「スポーツドクターになりたいからです! 」
それを聞き腕を組み複雑そうな顔をする大黒先生。
「……新しい目標を持つのは良いが正直今の成績では難しいと思うぞ? 」
「分かっています! 」
決意した愛莉の言葉に頭に指をやる大黒先生。
軽く息を吐きながら顔を上げると俺の存在に気が付いたようだ。
「……宇治原もいたのか」
「今気付いたのですか? 」
「悪いがな」
俺自身の影の薄さは認識している。
だがそこにいるのに教師にすら認識されないとは悲しいものがあるな。
「が……。あぁ~なるほど。宇治原に勉強を教えてもらうということか」
「はい! 」
「人を頼る事ができるようになったのは結構だ。宇治原の成績を考えれば最適な人選ともいえる。だがそれでも医学部は難しい」
代案を出さずにただ「難しい」と言う大黒先生に少し違和感を覚え、聞く。
「不可能、とは言わないんですね」
「あぁ。言わないとも」
「何故「不可能」と諦めさせないのですか? 」
「それは簡単なことだ」
一泊置いて大黒先生が口を再度開く。
「私が「不可能」という言葉が大っ嫌いだからだ!!! 」
「「……」」
「人に不可能だからと言われて諦める? その程度の覚悟なら最初からやるなと私は言いたい。それに教員が不可能と断言した生徒が某有名大学に行った実例もある。幸いなことにお前達はまだ一年。取り戻せる時期だ」
「なら……」
「挑戦してみると良い。単に医学部と言っても入学難易度は大学によって変わる。しかし不可能ではないが難しいのも事実。が時間は有限。時にはある所で方向転換を迫られることもある。入学先の大学が全てではないが、その後の事を考えると区切りをつける必要はある」
その時は諦めろ、ということか。
「よって医学部を目指すにあたって課題を出す」
俺達はその言葉にごくりと息を飲む。
「次の期末テストで上位三十位内に入れ。でなければ違う選択肢を進めざる終えない」
思った以上に難題だった。
「はい! 」
進路指導室で愛莉の元気の良い声が響いた。
正面に見える教員は入って来た時の柔らかい様子とは異なり、威圧的で探るような目線を愛莉に送っている。
愛莉の少し後ろにいる俺にも緊張が走るほどだが、愛莉は怯む様子がない。
――本当に真っすぐだな。
小さくも大きく見えるその背中を見つつ俺はここに来る前の事を思い出す。
★
放課後俺と愛莉は遠藤さんの助言の元、ここ進路指導室へ足を運ぶことになった。
確かに遠藤さんの言う通りだ。
愛莉はすでに両親から許可を得ているらしいが教員には相談していない。
俺も最初からその選択を除外していた為目から鱗だった。
県内有数の進学校であるこの高校には優秀な教員が揃っている。
これは通常の教員に加えて定期的に学外から優秀な講師を呼んでいるからだ。
OB・OGからのバックアップも充実している。
そのせいか多方面にコネクションを持つ人もおり人生相談をするにはもってこいの学校だったりもする。
『き、緊張するね』
『医学部を目指す人が何を言っているか』
『だって……』
進路指導室に向かって歩いていると、緊張ゆえか服を引っ張ってきた愛莉。
彼女の気持ちは分からなくもない。
何せこの学校の進路指導教員は普通ではないからだ。
――行列のできる進路指導室。
この学校の進路指導室はそう言われている。
だがビビっていては前に進まない。
進路指導室に行ったことがないためいつもの状況はわからない。二つ名から多くの生徒が並んでいるのだろうと想像した。
だが想像とは異なり人がいない。
少し不思議に思いながらも俺達はその扉を叩いた。
入室許可が降りると俺達は中に入る。
数歩歩くと丸椅子に座り机へ向かっていた進路指導教員を発見した。愛莉がおずおずといった様子で「進路のことで」と聞くとピクリと彼女の肩が震えるのが見えた。
スーツを着崩したスレンダーな先生がくるりと椅子を回して俺達の方を見ると、窮屈そうな胸部が見える。
その時隣から不穏な雰囲気を感じたが気のせいだろう。
そして俺と愛莉はくせっけのある黒いセミロングの髪をもつ進路指導教員と今日三度目の再会をはたした。
★
今も探りを入れるような目線を送る彼女は進路指導教員にして俺達の担任『大黒千景』先生。
その美貌故に何故かこの学校のアイドルに数えられる、異色の先生。
通常学校のアイドルと言えば生徒を指すものだろう。しかしこの学校には大黒先生を含めた三人が存在する。
何故教師が? と俺は思うが男子から熱狂的な人気があるらしい。秘密裏に行われた「この人に踏まれたい!!! 」というタイトルのアンケートでナンバーワンを獲得しているとトモから聞いた。
そう言ったことに興味がないから聞き流していたが、なるほど。確かに鋭い眼光をしている。
需要のある所には需要がありそうだ。
「何故、医学部に行きたい? 」
「スポーツドクターになりたいからです! 」
それを聞き腕を組み複雑そうな顔をする大黒先生。
「……新しい目標を持つのは良いが正直今の成績では難しいと思うぞ? 」
「分かっています! 」
決意した愛莉の言葉に頭に指をやる大黒先生。
軽く息を吐きながら顔を上げると俺の存在に気が付いたようだ。
「……宇治原もいたのか」
「今気付いたのですか? 」
「悪いがな」
俺自身の影の薄さは認識している。
だがそこにいるのに教師にすら認識されないとは悲しいものがあるな。
「が……。あぁ~なるほど。宇治原に勉強を教えてもらうということか」
「はい! 」
「人を頼る事ができるようになったのは結構だ。宇治原の成績を考えれば最適な人選ともいえる。だがそれでも医学部は難しい」
代案を出さずにただ「難しい」と言う大黒先生に少し違和感を覚え、聞く。
「不可能、とは言わないんですね」
「あぁ。言わないとも」
「何故「不可能」と諦めさせないのですか? 」
「それは簡単なことだ」
一泊置いて大黒先生が口を再度開く。
「私が「不可能」という言葉が大っ嫌いだからだ!!! 」
「「……」」
「人に不可能だからと言われて諦める? その程度の覚悟なら最初からやるなと私は言いたい。それに教員が不可能と断言した生徒が某有名大学に行った実例もある。幸いなことにお前達はまだ一年。取り戻せる時期だ」
「なら……」
「挑戦してみると良い。単に医学部と言っても入学難易度は大学によって変わる。しかし不可能ではないが難しいのも事実。が時間は有限。時にはある所で方向転換を迫られることもある。入学先の大学が全てではないが、その後の事を考えると区切りをつける必要はある」
その時は諦めろ、ということか。
「よって医学部を目指すにあたって課題を出す」
俺達はその言葉にごくりと息を飲む。
「次の期末テストで上位三十位内に入れ。でなければ違う選択肢を進めざる終えない」
思った以上に難題だった。
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