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第20話 勉強教えて宇治原くん! 1

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「レン。勉強を教えて! 」
「………………え? 」

 放課後突然愛莉あいりにそう言われた俺は目を点にした。
 トモと遠藤さんの熟年夫婦も帰り他のクラスメイトも少なくなったこの教室で、腰に手を当て真剣な表情で言う愛莉に対して首を傾げる。

「あぁ。ごめんごめん。唐突とうとつだったよね」
「ものすごくな」
冴香さやかにレンが勉強できるって聞いたから教えてもらおうと思って」
 
 笑顔を作りながらそう言う愛莉。理由をきちんと話せていないと思いつつも「トモと同じことをしやがって」と心の中で毒づいた。
 看病イベントの次は「二人っきりの勉強イベント」ということか。
 いやあの二人が話を合わせて提案したことも考えられる。

 トモと遠藤さんからすれば俺が誰かとくっつくのが面白いのかもしれない。
 だが被害者は俺だけではなく愛莉もだ。彼女の事を考えると心が痛む。

 けれど選択肢として完全に間違っていない所もいやらしい。
 あのいやらし夫婦め。

「何で俺に? 」
「冴香に「誰に勉強を教えてもらったらいい? 」て聞いたらレンの名前が真っ先に出たんだ」

 やっぱりか、と思いつつ更に聞く。

「けど教え方とかなら同性の冴香でも良いんじゃ? 」

 異性と勉強。男の俺からすればはしゃぎたいほどに嬉しいものだが、客観的に見ると同性で勉強した方が集中力は高くなると思う。
 むしろ俺なら緊張して勉強どころじゃなくなるし。

「冴香がレンの方が勉強ができるって聞いたから大丈夫かなって」
「……学力と指導力が相関そうかんするとは思わないが」
「でも冴香のしだからね。信用しているよ。けど……」
「けど? 」
「ボクが冴香にレンの学年順位を聞いた時、何故か目を見開いていたけどどうしてなんだろうね? 」

 その言葉に、俺はすぐに答えることが出来なかった。

 理由は簡単で単純明快めいかいだ。
 俺がクラスの中で空気なだけ。
 学年上位を取っているのに愛莉ですら知らなかったことに遠藤さんは驚いたのだろう。

 この高校は県内有数の進学校だ。
 無論俺やトモ、そして遠藤さんのように学力で市外県外から来た人も多い。
 それ故学年上位を取ると注目を浴びるし嫉妬しっとの目線もそそがれる。
 成績が良ければ内申ないしん点も多くもらえるし、アルバイトが許可される等の優遇ゆうぐう措置を得ることができる。
 この学校に置いて勉強は自由を手にする為の手段の一つなのだ。

 だから今の俺の様に嫉妬すらされない成績優秀者はおかしい。
 影が薄いを通り越しての空気。
 愛莉の言葉でまさに俺の存在が空気であることが証明された所だ。

「どうしたの? 悲しそうな顔をして」
「いや俺の存在というものがどんなものか再確認していた」
「??? 」
「けどよく考えれば最初会った時、愛莉はよく俺の名前を知ってたな」
「何回か話したことあるからね」
「それで覚えられるとは……、すごいな。クラスメイトの名前、全部言えるんじゃないか? 」
「言えるよ? 」

 何を当然、と言うような表情でさらっという愛莉。
 その記憶力はすごい。
 俺も記憶力は高い方だがクラスメイトの名前はほとんど覚えていない。
 俺自身が小さなコミュニティで十分と思っているのもあるが、まずもって周りのテンションに合わせるのが難しいから積極的に関わり合おうとしていないからだ。

 この高校は俺やトモ、遠藤さんがいた中学よりも都会である。
 その気風きふうのせいか進学校にもかかわらずテンションが高い。
 正直合わせるのに疲れる。
 疲れる人間関係を率先そっせんして作るよりかは小さなコミュニティでひっそりと勉強をしていた方が良いということで、所謂いわゆる選択ボッチ。いやあの二人がいるからボッチではないが。

「まぁ勉強の話に戻るが、教えるのはいいけど正直人に勉強を教えるのは始めてだ。成績上昇は約束できない」
「それでもいいよ。ボク一人でやるより全然いいと思うから」

 そうか、と答えて立ち上がる。
 ある程度話がまとまったのでバックを手に取り替える準備を。
 俺が引き受けて安心したのかホッとした表情で愛莉は机の方へ向かう。
 そして鞄を手にして俺の方へ向かってきた。

「じゃぁ帰ろう! 」

 ぱぁっと笑顔を咲かせて愛莉が言う。
 温かくも少し体の力を抜いて俺は愛莉について行った。
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