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第18話 宇治原くん、下校する
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「あの二人一緒に住んでたんだね」
「ああ。知らなかったのか? 」
「全く」
授業も終わり現在帰宅部の俺達はトモや遠藤さんと別れて下校していた。
クラスの中でも友達が多い愛莉。
彼女が熟年夫婦が一緒に住んでいたことを知らなかったとは意外だ。
てっきりクラスの、いや学年の共通認識だと思っていたのだが。
「付き合っているのは知っていたんだけどね。まさかの同居。よく二人の親が承諾したよね」
「まぁあの二人には色々あるからな」
少し遠い目をしてぼやかしながら彼女に言う。
中学時代、トモを巡って色々あった。
最終的に付き合うことになったのは意外なダークホース遠藤さん。
傷付いたトモを遠藤さんが世話をし始めたのが二人の成り立ち。
地元にいずらくなりこの学校に二人できたのは記憶に新しい。
ま、トモの事を放っておけなくて必死に勉強して同じ高校に来た俺も俺だが。
少し沈黙が流れる。
愛莉は空気を読んだのか、何も言わない俺に追及はしなかった。
彼女は所謂陽キャのような存在。
グイグイと話を聞きたがるのではと思いどう誤魔化そうかと考えていたが、杞憂だったようだ。
「至高のチャーハンはちょっと待ってね」
「期待しとく」
無言に耐え切れなくなったのか愛莉が口を開いた。
「お母さんに教えてもらいながらだけど、最終手段は中華料理店に修業だね」
「頑張り過ぎだろ?! 」
「いやいやそうでもないよ。やるからには一番! レンの一番を手に入れたら、最終的には料理教室を動画配信するのも良いな」
「あ~、料理系ってやつ? 」
「そうそう。けどそれだけだと今後が不安。ヒットすればいいけどヒットしない時の事を考えると、ね。それにそう言ったコンテンツって一過性のものだし……。かといって他にやりたいことがあるわけでもないし……」
鞄を腕に通して両腕を頭の後ろに回し、空を見上げながらそう言う愛莉。
彼女は彼女で今後を見据えて色々と考えているようだ。
しかしその方向性は決まっていない、と。
愛莉が俺に「今まで一番美味しい」と言わせるために料理を頑張ると言ったのは、こういうことも考えての事か。
彼女が悪いわけではないが、俺の為だけに作ってくれないとわかると少しどんよりとする。
俺の為だけと考えてしまった俺が恥ずかしい。
自意識過剰も良い所だ。
けど愛莉が今後どうしようか悩んでいるのは本当の事。
何か助けになることができれば良いのだが。
「なにをするかは置いておいて、一先ず目標を定めないとな」
「確かに」
「何かやりたいことを見つけるのも良いけど、できることを探すのも良いと思う。必ずしもやりたいこととできることは一緒じゃないから」
「ん~、できることか」
「案外身近に転がっていたりするかもな」
自分にできることもそうだが、自分の欠点や美点は意外と自覚がないものだ。
人に言われてもピンとこない場合も多いし、受け入れない事も多い。
そんなことを何かの本で読んだ覚えがある。
「因みにレンは目標とかやりたいこととか、できることとかある? 」
「………………今の所普通に大学に行って、普通に一般の会社に就職し、普通に家庭を持ちたい」
「無難だねぇ」
くすりと笑う声が聞こえる。
確かに無難。
説明じみたことを愛莉に言ったが俺自身できることから考えた将来設計がこれだ。
特色がないのが俺の特色。
もしかしたら今後やりたいことができて将来設計が変わるかもしれないが、高校一年二学期現在の俺の設計図はこんな所。
無難で一般的で模範解答のような将来設計、だが——。
「愛莉の言う通りだけど「普通」はかなり難しいぞ? 」
俺の言葉を聞きピンと来ていないのかキョトンとする愛莉。
遅れて彼女は「そうかもね」と言い隣を歩く。
愛莉と他愛ない話をしながら家路に就く。
手を振り家に入る彼女を見ながら思う。
――何事も「普通」は難しいのだ。
「ああ。知らなかったのか? 」
「全く」
授業も終わり現在帰宅部の俺達はトモや遠藤さんと別れて下校していた。
クラスの中でも友達が多い愛莉。
彼女が熟年夫婦が一緒に住んでいたことを知らなかったとは意外だ。
てっきりクラスの、いや学年の共通認識だと思っていたのだが。
「付き合っているのは知っていたんだけどね。まさかの同居。よく二人の親が承諾したよね」
「まぁあの二人には色々あるからな」
少し遠い目をしてぼやかしながら彼女に言う。
中学時代、トモを巡って色々あった。
最終的に付き合うことになったのは意外なダークホース遠藤さん。
傷付いたトモを遠藤さんが世話をし始めたのが二人の成り立ち。
地元にいずらくなりこの学校に二人できたのは記憶に新しい。
ま、トモの事を放っておけなくて必死に勉強して同じ高校に来た俺も俺だが。
少し沈黙が流れる。
愛莉は空気を読んだのか、何も言わない俺に追及はしなかった。
彼女は所謂陽キャのような存在。
グイグイと話を聞きたがるのではと思いどう誤魔化そうかと考えていたが、杞憂だったようだ。
「至高のチャーハンはちょっと待ってね」
「期待しとく」
無言に耐え切れなくなったのか愛莉が口を開いた。
「お母さんに教えてもらいながらだけど、最終手段は中華料理店に修業だね」
「頑張り過ぎだろ?! 」
「いやいやそうでもないよ。やるからには一番! レンの一番を手に入れたら、最終的には料理教室を動画配信するのも良いな」
「あ~、料理系ってやつ? 」
「そうそう。けどそれだけだと今後が不安。ヒットすればいいけどヒットしない時の事を考えると、ね。それにそう言ったコンテンツって一過性のものだし……。かといって他にやりたいことがあるわけでもないし……」
鞄を腕に通して両腕を頭の後ろに回し、空を見上げながらそう言う愛莉。
彼女は彼女で今後を見据えて色々と考えているようだ。
しかしその方向性は決まっていない、と。
愛莉が俺に「今まで一番美味しい」と言わせるために料理を頑張ると言ったのは、こういうことも考えての事か。
彼女が悪いわけではないが、俺の為だけに作ってくれないとわかると少しどんよりとする。
俺の為だけと考えてしまった俺が恥ずかしい。
自意識過剰も良い所だ。
けど愛莉が今後どうしようか悩んでいるのは本当の事。
何か助けになることができれば良いのだが。
「なにをするかは置いておいて、一先ず目標を定めないとな」
「確かに」
「何かやりたいことを見つけるのも良いけど、できることを探すのも良いと思う。必ずしもやりたいこととできることは一緒じゃないから」
「ん~、できることか」
「案外身近に転がっていたりするかもな」
自分にできることもそうだが、自分の欠点や美点は意外と自覚がないものだ。
人に言われてもピンとこない場合も多いし、受け入れない事も多い。
そんなことを何かの本で読んだ覚えがある。
「因みにレンは目標とかやりたいこととか、できることとかある? 」
「………………今の所普通に大学に行って、普通に一般の会社に就職し、普通に家庭を持ちたい」
「無難だねぇ」
くすりと笑う声が聞こえる。
確かに無難。
説明じみたことを愛莉に言ったが俺自身できることから考えた将来設計がこれだ。
特色がないのが俺の特色。
もしかしたら今後やりたいことができて将来設計が変わるかもしれないが、高校一年二学期現在の俺の設計図はこんな所。
無難で一般的で模範解答のような将来設計、だが——。
「愛莉の言う通りだけど「普通」はかなり難しいぞ? 」
俺の言葉を聞きピンと来ていないのかキョトンとする愛莉。
遅れて彼女は「そうかもね」と言い隣を歩く。
愛莉と他愛ない話をしながら家路に就く。
手を振り家に入る彼女を見ながら思う。
――何事も「普通」は難しいのだ。
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