可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田

文字の大きさ
上 下
10 / 62

第10話 重原愛莉の一日

しおりを挟む
 れんと別れた愛莉あいりは「ただいま」と声をかけて家に帰った。
 立ったままくつを脱ぎ、家に上がろうとすると奥からタタタと彼女の耳に届く。

「お帰り」
「あれ? お母さん今日病院じゃなかったの? 」
「今日は休んだわよ。お父さんも」

 愛莉は昨日の出来事が両親に負担をかけたのだろうとすぐにかんづき、表情を暗くした。

「そんな暗い顔をしないの」
「うん」
「でも、あれ? 目が赤いようだけど……」
「こ、これは……、その……」

 愛莉は母の指摘に目をキョロキョロさせる。
 どこか誤魔化すように「なんでもない」と言い母の隣を通り過ぎる。
 母の「ご飯が出来てるわよ」という声を背にして部屋に戻った。

 ★

「……美味しい」

 愛莉からこぼれた感想に少し微笑みながらも「あらそう? 」とだけ言う母。

「母さんのご飯だからな。美味しいに決まっている」
「全くお世辞が上手いですね」
「胃袋をつかまれた俺が言うんだ。お世辞じゃないさ」

 いきなり惚気のろけだす二人を見てクスリと笑う愛莉。
 愛莉の声で二人っきりの世界から戻って来た両親は赤くなり、コホンと軽く咳払い。
 そんな二人を愛莉は微笑ましく見た。

 (お父さんとお母さんってこんなに仲がよかったんだ)

 彼女がそう思うのも無理はない。
 二人とも仕事で顔を合わせることが少なく、また愛莉も毎日遅くまで部活をしていたのだから。
 こうして団欒だんらんすること自体久しぶりである。

 愛莉ははしを動かし口に入れる。シャキシャキと音を立てゴクリとのどを通過した。

 (野菜一つがこんなに美味しいなんて)

 今まで彼女は選手用メニューを食べていた。
 無論味も考慮されているのだがどこか無機質感がいなめなかった。
 しかし愛莉はまるで食べたことのない美味しさを感じていた。
 いつもと同じ母の料理のはずなのに。

「ねぇお母さん」
「なにかしら? 」
「料理……、教えてくれない? 」

 母はその言葉に目を見開いて驚きをあらわにする。
 逆に父は少し固まった。

「えぇえぇ、良いわよ」
「お、男……、なのか……。まさか男なのか?! 」

 硬直が解けた父が絶望に打ちひしがれながら愛莉に聞く。
 しかし興奮した母が父を黙らせ料理を教える約束をした。

 ★

 (いやされる……)

 湯船ゆぶねかった愛莉は思う。

 一人分にしては少し大きな湯舟ゆぶねに脚を伸ばして天井を見る。
 湯煙ゆけむりが立ち昇りしずくが反射する中、ぼーっとする。
 眠気のようなものが彼女を襲うが、「いけない」と意識を戻して脚を出す。

 水面から出た肌麦色の脚には傷跡がある。
 それを見て愛莉は少し顔をゆがめるが、すぐに戻る。
 脚をちゃぷんと戻して保護したスマホを手に取った。

「レンと連絡先を交換できたし」

 スマホをスワイプし連絡先をながめる愛莉。

 彼女が簾と連絡先を交換したのは何か役に立てないかと思ったため。
 料理に関しても一人暮らしをしているれんの手助けが出来ないかと思ったため。
 にやける顔は恋する乙女おとめのそれそのもの。
 実際愛莉は自身の気持ちの変化に気が付いているが、「あの時の恩を返すため」と理由をつけて誤魔化している。

 眺めている間にぼーっとしていた。
 指がすべり、——通話音が鳴る。
 瞬時に「まずい」と思うも電話が取られる。

『どうし………………たぁぁ?! 』
「ちょ、ごめん。間違えちゃった。切るね! 」

 ピロンと音が鳴りテレビ電話が切られる。
 顔を赤くしてちゃんときれているか念入りに調べる。
 大丈夫なことを確認した愛莉は風呂を出た。

 その日の晩。
 ある意味事故に巻き込まれたれんはもんもんとした夜を迎えることになる。
 薄くも健康そうな肌をしている愛莉の体は思春期高校生には刺激が強すぎたようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。

三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!

佐々木雄太
青春
四月—— 新たに高校生になった有村敦也。 二つ隣町の高校に通う事になったのだが、 そこでは、予想外の出来事が起こった。 本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。 長女・唯【ゆい】 次女・里菜【りな】 三女・咲弥【さや】 この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、 高校デビューするはずだった、初日。 敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。 カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

俺の高校生活がラブコメ的な状況になっている件

ながしょー
青春
高校入学を前に両親は長期海外出張。 一人暮らしになるかと思いきや、出発当日の朝、父からとんでもないことを言われた。 それは…… 同い年の子と同居?!しかも女の子! ただえさえ、俺は中学の頃はぼっちで人と話す事も苦手なのだが。 とにかく、同居することになった子はとてつもなく美少女だった。 これから俺はどうなる?この先の生活は?ラブコメ的な展開とかあるのか?!   「俺の家には学校一の美少女がいる!」の改稿版です。 主人公の名前やもしかしたら今後いろんなところが変わってくるかもしれません。 話もだいぶ変わると思います。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

処理中です...