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第8話 二人の関係の始まり
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夕日を背景に涙を流す。
愛莉はそれに気が付いたのか「あれ? おかしいな」と言いながら腕でつーっと流れる涙を拭いた。
もう走れない、と言われた俺はどう答えたらいいのかわからないでいる。
彼女は陸上選手だったはず。
今までやってきたことが足元から崩れる事がどれだけショックなことは計り知れない。
「……こんなはずじゃ」
そう言う彼女が何故昨日あんなに暗い雰囲気を出していたのか今になって分かった。
選手生命を絶たれてショックを受け、街に出ていたのだろう。
言葉から彼女がある程度整理をつけていることがわかる。
だが今も涙を流す彼女をみると未だにショックを引き摺っていることが分かった。
「先生の時は大丈夫だったのにな。何故だろう」
涙を拭き終えまた作り笑い。
どうにかしてあげたいが、どうにもすることはできない。
こういう時に自分の臆病さがよくわかる。
言葉にしようとすると言葉足らずになりそうで怖い。
何気ない言葉が彼女を傷つけるのが怖い。
だが何故か愛莉を突き放すことは出来なかった。
今にも壊れそうな笑顔を向ける彼女を見て拳を握りキュッと唇を結ぶ。
少し気合いを入れてゆっくりと彼女に足を向けた。
愛莉が僅かに戸惑いの表情を見せ、少し足を止めそうになる。
だが今止まるのは最善ではないと思い彼女の前まで歩いた。
最善でないかもしれない。
後で怒られるかもしれない。
愛莉にこの先拒絶されるかもしれない。
――正直、怖い。
メリットとデメリット。
明らかにデメリットよりな行動をしようとする自分に苦笑しながらも重い腕を持ち上げる。
涙を拭き終えた愛莉がきょとんとする。
重い俺の腕を軽く彼女の頭に置く。
瞬間何をされたかわからないような表情をしたが構わず優しく彼女の頭を撫でた。
「別に恥ずかしい事でも我慢することでもないだろ」
愛莉の顔から目線を外しながらつい言葉が出た。
言語化するのが怖かったはずなのだが。
顔ごと目線を外しているせいか彼女の表情がわからない。
だが「ドン」と俺の胸に衝撃が走った。
反射的に目線を下に向けると愛莉の頭がそこにあった。
「こっち見ないでね」
「りょーかい」
行き場を失った俺の両手が宙を舞う中、微かに聞こえてくる嗚咽に「どうしてこうなった」と思いつつ、いつもよりも赤く見える夕日を眺めていた。
★
「ごめんね。割り切れていたと思っていたのに」
今度は本当の笑みを浮かべて俺に言う。
少し気まずく思いながらも見上げる彼女の目をみると、まだ少し赤い。
だが今さっきまでのしんみりとした雰囲気はどこへやら。
彼女の表情はとても明るい。
重たい荷物を持ちながら、俺と愛莉はゆっくりとした足取りで家に向かう。
「聞いても良いか? 」
「スリーサイズ? 」
「いやこの流れで何でその話になる?! 」
「え、男子ってこういう話が好きなんじゃ? 」
「………………人によりけりだろ」
「むっつり」
「そのような事実はない。前言撤回を要求する」
明るい愛莉に安心したがあらぬ誤解はやめてほしい。
俺は至って健全な男子高校生だ。
……興味あるに決まっているじゃないか。
「今日部活辞めたこと、誰かに話したのか? 」
「いや話してないよ」
「なら何で俺に話したんだ? 」
俺の言葉を聞き少し「ん~」と悩む愛莉。
こういった話は普通、昨日まで接点という接点が無かった俺に話すよりも友達に話すものじゃないのか?
昨日の事があったとは言え俺と愛莉の交流はたったの二日目を終えようとしている所。
少なくとも殆ど見ず知らずの相手にカミングアウトする話ではない。
「昨日迷惑をかけたのもあるけど……」
「けど? 」
「……わかんないや! 」
にぱぁ、っと笑顔を咲かせてそう言う愛莉。
それに呆れながらも「そうか」と一応納得したと伝えたら不服なのか少し頬を膨らませて俺を見上げた。
「けどレンに伝えて間違いじゃなかったと確信しているよ? 」
「なら俺としては本望だな」
そう言いながら俺達は足を進める。
愛莉の家の前に着き別れようとすると彼女が近づいて来た。
「連絡先交換しよ! 」
そう言う彼女と連絡先を交換する。
手を振り門を潜る彼女を見て、一息つき俺は反転した。
「俺が住んでるマンションの正面じゃねぇか」
愛莉はそれに気が付いたのか「あれ? おかしいな」と言いながら腕でつーっと流れる涙を拭いた。
もう走れない、と言われた俺はどう答えたらいいのかわからないでいる。
彼女は陸上選手だったはず。
今までやってきたことが足元から崩れる事がどれだけショックなことは計り知れない。
「……こんなはずじゃ」
そう言う彼女が何故昨日あんなに暗い雰囲気を出していたのか今になって分かった。
選手生命を絶たれてショックを受け、街に出ていたのだろう。
言葉から彼女がある程度整理をつけていることがわかる。
だが今も涙を流す彼女をみると未だにショックを引き摺っていることが分かった。
「先生の時は大丈夫だったのにな。何故だろう」
涙を拭き終えまた作り笑い。
どうにかしてあげたいが、どうにもすることはできない。
こういう時に自分の臆病さがよくわかる。
言葉にしようとすると言葉足らずになりそうで怖い。
何気ない言葉が彼女を傷つけるのが怖い。
だが何故か愛莉を突き放すことは出来なかった。
今にも壊れそうな笑顔を向ける彼女を見て拳を握りキュッと唇を結ぶ。
少し気合いを入れてゆっくりと彼女に足を向けた。
愛莉が僅かに戸惑いの表情を見せ、少し足を止めそうになる。
だが今止まるのは最善ではないと思い彼女の前まで歩いた。
最善でないかもしれない。
後で怒られるかもしれない。
愛莉にこの先拒絶されるかもしれない。
――正直、怖い。
メリットとデメリット。
明らかにデメリットよりな行動をしようとする自分に苦笑しながらも重い腕を持ち上げる。
涙を拭き終えた愛莉がきょとんとする。
重い俺の腕を軽く彼女の頭に置く。
瞬間何をされたかわからないような表情をしたが構わず優しく彼女の頭を撫でた。
「別に恥ずかしい事でも我慢することでもないだろ」
愛莉の顔から目線を外しながらつい言葉が出た。
言語化するのが怖かったはずなのだが。
顔ごと目線を外しているせいか彼女の表情がわからない。
だが「ドン」と俺の胸に衝撃が走った。
反射的に目線を下に向けると愛莉の頭がそこにあった。
「こっち見ないでね」
「りょーかい」
行き場を失った俺の両手が宙を舞う中、微かに聞こえてくる嗚咽に「どうしてこうなった」と思いつつ、いつもよりも赤く見える夕日を眺めていた。
★
「ごめんね。割り切れていたと思っていたのに」
今度は本当の笑みを浮かべて俺に言う。
少し気まずく思いながらも見上げる彼女の目をみると、まだ少し赤い。
だが今さっきまでのしんみりとした雰囲気はどこへやら。
彼女の表情はとても明るい。
重たい荷物を持ちながら、俺と愛莉はゆっくりとした足取りで家に向かう。
「聞いても良いか? 」
「スリーサイズ? 」
「いやこの流れで何でその話になる?! 」
「え、男子ってこういう話が好きなんじゃ? 」
「………………人によりけりだろ」
「むっつり」
「そのような事実はない。前言撤回を要求する」
明るい愛莉に安心したがあらぬ誤解はやめてほしい。
俺は至って健全な男子高校生だ。
……興味あるに決まっているじゃないか。
「今日部活辞めたこと、誰かに話したのか? 」
「いや話してないよ」
「なら何で俺に話したんだ? 」
俺の言葉を聞き少し「ん~」と悩む愛莉。
こういった話は普通、昨日まで接点という接点が無かった俺に話すよりも友達に話すものじゃないのか?
昨日の事があったとは言え俺と愛莉の交流はたったの二日目を終えようとしている所。
少なくとも殆ど見ず知らずの相手にカミングアウトする話ではない。
「昨日迷惑をかけたのもあるけど……」
「けど? 」
「……わかんないや! 」
にぱぁ、っと笑顔を咲かせてそう言う愛莉。
それに呆れながらも「そうか」と一応納得したと伝えたら不服なのか少し頬を膨らませて俺を見上げた。
「けどレンに伝えて間違いじゃなかったと確信しているよ? 」
「なら俺としては本望だな」
そう言いながら俺達は足を進める。
愛莉の家の前に着き別れようとすると彼女が近づいて来た。
「連絡先交換しよ! 」
そう言う彼女と連絡先を交換する。
手を振り門を潜る彼女を見て、一息つき俺は反転した。
「俺が住んでるマンションの正面じゃねぇか」
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