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第1話 転生トラックなんて物語の中だけでいい

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 甘いものを食べたい。
 無性に食べたい。

 欲にかられた俺はマンションを出て近くのスーパーにプリンを買いに行った。

 学校も終わり一人勉強をしていた俺なのだが急に甘いものを食べたくなる時がある。
 どうやら今回もそれらしい。

 脳が糖分を欲しているのか俺の好みなのかわからない。けれど衝動的に甘いものが食べたくなるのは人類共通なのではないかと、心の中で苦笑いしながら歩く。
 少なくとも人類はブドウ糖を糧に脳を働かせ体を動かしている。ならばあながち俺の説も間違いではないのでは、と思うわけで。
 そんなことあるはずない、と溜息をつくも別の可能性を考え、手に持つ小さなこん色のエコバックの重みを感じながら信号に向かう。

 俺、宇治原うじはられんは絶賛一人暮らし中。
 地元を出て大学進学率の高い高校に入ったは良いものの、親元を離れて一人暮らしの洗礼を受けていた。

 プリン以上の重さを感じるこのエコバックもその一環いっかん
 学校のテストよりも厳しい親のチェックを潜り抜けるため自炊じすいは必須。
 次のチェックはいつだったか、と思い出していると隣に誰かが通り過ぎた。

 小さな体躯たいくに短く黒い髪。俺の高校の女子生徒が着るブレザーと同じものを着ているから俺と同じ高校の人だとすぐにわかる。

 彼女は確かクラスの人気者重原えはら愛莉あいりだったか?
 話したことはないがいつも友達と和気藹々わきあいあいとしているのを見かけたことがある。
 俺とは全く真逆まぎゃくの存在。
 俺を陰キャとするのならば彼女は陽キャ。
 
 くだらない比較をしてしまったせいか彼女を目で追ってしまう。
 しかし俺に映る彼女の表情は知っている重原さんの表情ではない。
 沈んだような表情。

 沈んでいる、というには表現がぬるい。
 今にも……、そう。今にも自殺をしそうな、そんな暗い雰囲気。
 チラリとしか見えない瞳には何も映っていないのか、真っ暗で生気せいきがない。
 何をするかわからない、そんな表情。

 それを見た瞬間、親友の顔とダブる。

 中学時代、追い詰められた女顔おんながおの男友達。
 あの時の彼の顔と今の彼女の顔が似ているのだ。

 瞬間、話しかけるか迷う。
 だが話しかけてどうするのだ? 
 俺に何ができる。何も事情を知らない俺が話掛けても単なる不審者だ。いやクラスメイトではあるが。

 彼女は彼女。親友は親友。俺は俺。
 彼女が今から何かすると確定しているわけでもないし、重原さんがクラスのすみでひっそりとしている俺の事を知るはずがない。

「おいおい……」

 知っていても話しかける理由にはならないと考えていたが、すぐにそれを却下する。

 赤信号!!!

 マジか! 本当に見えてないのか?!

「重原さん!!! 」
「え? 」

 大きく声をかけると彼女が振り向く。同時に周りの人達が俺の方を見る。
 周りのやつら何してんだ!!!
 馬鹿野郎! と心の中で毒づきながらもけ寄り彼女の手を思いっきり引き寄せた。

「きゃっ! 」

 小さく可愛らしい声が聞こえ衝撃が俺を襲う。
 引っ張りすぎて俺達は横断歩道の外側に倒れ込んだが、声をかき消すように「ブーーーン」とトラックが走り去る。

 危機一髪。通り過ぎるトラックを呆然ぼうぜんと見ていると「あ、え? 」と困惑の声が俺の上から聞こえてくる。
 目線を少しずらすと、そこには黒い瞳と合う。
 遅れて小さな顔の全体像が見え、短く切りそろえられた黒い髪が視界に映る。
 小さな体に押し倒されているように見える状況に普通の男子高校生ならば滾るものがあるのかもしれないが、ついさっきトラウマ級の事故が起こりそうだった訳で。

「あ、あの……」
「ごめん」

 俺の腕が動かされるのを感じ彼女の腕をすぐに離した。
 羞恥しゅうちのためか彼女の顔がわずかに赤い。
 瞳にかすかに色が戻ったようだが、まだ彼女の瞳はまだ暗い。

「一先ず移動しようか」
「……うん」

 トラウマを植え付けられそうになった俺はドキドキしながらも、騒ぎが大きくなりそうなのでその場を離れることを提案する。
 
 全く転生トラックなんて物語の中だけでいいんだよ。
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