星の輝く異世界アイドル配信記

緑知由

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物怪の恐怖

もう1匹のオロチ

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 神話のヤマタノオロチとは違う。偽物だ。なら、わたしたちにも勝てるかもしれない。

「やろう! みうちゃん!」

「こ、怖いです。あ、足が震えて動けません……」

わたしたちを冷たい爬虫類の視線でにらみつけると、ヤマタノオロチはみうちゃんに向かって突進していった。それも大きな口を開けて。

「まだ、ぼくとミコトがいるぞ!」

 ミコトさんの刀がヘビみたいにぐにゃりと曲がったように見えた。実際は、そう見えるだけだろう。ともだちが鉛筆の端っこをもって上下に揺らすと、鉛筆が曲がって見えるようなやつだ。

 タケルくんが剣で巨体を受け止めるも、押しのけられるし、ミコトくんの刀はヤマタノオロチに当たらない。

「みうちゃん、大丈夫?」

「ダメです。に、逃げ出したいです……」

 みうちゃんは泣き出してしまった。中学生にもなって泣くなんてとはとても言えない。人を一口で飲み込めるような巨大なヘビなんかに睨まれたら、ビビらないほうがおかしいわよね。

「わかった。とりあえず、わたしが出来るところまでやってみる!」

「がんばるどすえ! みんなが応援してはる!」

 応援が力になって、自分の中に流れ込むのがわかる。背中がむずむずするような恥ずかしさと、応援されている嬉しさで胸がいっぱいになる。

「くらえっ!」

 わたしの剣のほうがずっと遅いのに、ヤマタノオロチは見切れないのか、一刀両断された。でも、あと7つも首がある。やっかいだ。慣れられる前に仕留められたらいいけど。

「みうちゃん、みんなが戦っているのが見えるかい?」

「は、はい。タケルさん……」

「楽しそうだろ?」

「全然楽しそうじゃないですよ! 命懸けじゃないですか!」

「仕事とはそういうものなんだよ。特にアイドルの仕事はね。一回の仕事で大きなチャンスをつかむかもしれないし、全てを失うかもしれない。ものすごいプレッシャーがこれからも君を襲うだろう。みうちゃんは歌手になりたいんだよね」

「はい……」

「この中で歌えるようになったら、きっとどんな舞台も怖くないよ」

 わたしとミコトくんで攻撃をして、タケルくんがみんなの守備に入った。着実にヤマタノオロチを追い詰めていく。

「後一本の首なのに、当たらないっ!」

 後少しというところでトドメが刺せない。

「攻撃を見切ったのか?」

「今だ! みうちゃん、トドメを刺すんだ!」

 タケルくんの声が響いた。

「だけど……」

 やっぱり動けないみうちゃん。

「頼む! このオロチを倒せば俺の母さんの病気が治るかもしれないんだ! 俺の家族を助けてくれ……」

 ミコトくんの言葉に、勇気を出して、一歩踏み出したみうちゃん。

「たあああっっっ!!」

 真っ白に光り輝くレイピアでヤマタノオロチの最後の首を刺すと煙となって消えていった。みうちゃんはまるで、天使みたいだった。
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