星の輝く異世界アイドル配信記

緑知由

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物怪の恐怖

ミコトという男の子

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「これは、母さんを苦しめた貴様へのばつだ!」

 長い銀髪を振り回して、少年は両手で握った刀で巨大なヘビの頭を切り裂いた。

「すごい、芸能人をやってる時よりよっぽどイキイキしている気がする」

 わたしはミコトくんのことをよく知らない。だけれど、インターネット動画やテレビで見るのとは明らかに表情が違っていた。
 なんだろう、うまく説明ができないんだけれど、戦士であることが本職であるみたいだ。

「今回の物怪はミコトにとっては因縁のあるものだからな」

 タケルくんが走りながら説明する。

「ひとりでは突っ込むなって言っといたのによ! 全く!」

 ヒカルくんは横からカバーするようにでこぼの地面を力強く蹴った。

「剣技 睦月!」

 ヒカルくんの剣が光って、またひとつ大きな首が真っ二つになった。

 ヤマタノオロチのことは、わたしは日本の神話で知っていた。巫女だから日本の神様のことを勉強する必要があって、日本神話はお母さんから特に叩き込まれた。わたし自身も日本神話には不思議と興味があった。
 ヤマタノオロチとは8つの頭をもった怪物で、スサノオノミコトという神様が倒したと習っている。
 神社の中にはこうした神話の世界の神様を祀っているところがあるので、学校で勉強することと同じくらい大切なのだ。

 そんな歴史上の伝説の怪物と異世界とはいえ向かい合っていることに、少しばかり感動もしていた。

「ねぇ、マイコ。あれって、神話に出てくるヤマタノオロチなの? 本物?」

「わては地球のヤマタノオロチは見たことがないどすえ、だから地球のものと同じかはわかりまへんが、やつは多くの地球人の暗い感情や病を糧にして生まれた化け物であることはたしかどすえ」

「そうなんだね」

 状況はわたしたちの有利に見えた。HIBIKIの3人だけでも勝てる計算だったのだろうし、こっちにはまだまだ戦力がある。わたしとみうちゃんもいる。

「早くおまえを始末しないと……救えない命があるんだ!」

 ミコトくんはものすごい剣さばきだ。剣術の達人みたい。剣道の大会に出たら優勝できるんじゃなかろうか。
 力任せに振り回しているだけのわたしとは大違いだ。

「すごい、なんだか……ミコトくんだけで倒しちゃいそう」

「ああ、あいつは一番熱いやつだからな」

 タケルくんがヤマタノオロチのみつき攻撃を避けると胴体に剣を突き立てた。

「なんなのよ、わたしの活躍するところなんてなんにも残ってないじゃない」

「やっぱりHIBIKIはすごいでござる」

 ヤマタノオロチが煙となって消え、だれもがトドメを刺したと安心しきっていた。

「ひみこ! 危ないっ!」

 とっさにわたしを突き飛ばしたヒカルくんが、代わりになにものかの攻撃を受けて吹き飛ばされた。
 ヒカルくんへのごめんとありがとうの気持ちでなんだかこころが、頭がぐるぐるする。
 ただ一つ確かなことは、ヒカルくんは絶対にわたしが助けるってことだ。

「なによ、もう1匹いたっていうの? 子どもを倒したくらいで勝ったつもり? 大人をなめるんじゃないわよ!」

「そうだ! こいつを倒して、人気実況者に俺はなるでござる!」

 だけれど、大人たちもあっさり吹き飛ばされていく。

「こいつ、さっきの戦いで俺たちの動きを観察してやがったんだ」

 ミコトくんの言葉にわたしは驚いた。物怪って学習までするの!?

「このままだと、最悪の場合全滅するかもな。ヤマタノオロチが2匹いたとは……」

「ミコトくん、大丈夫だよ。わたしと友達のみうさんの動きは見られてないから、ね?」

「ね? って、あたしたちがどうにかできるわけないですよ!?」
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