星の輝く異世界アイドル配信記

緑知由

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精霊オーディションは命懸け

精霊オーディションは命懸け

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 タケルくんとヒカルくんのドラゴンが急に降下しはじめた。まだ東京って感じはしない。それどころか、わたしの地元よりも田舎な気がする。

「ここが東京? 森ばっかりじゃないですか。この世界の東京にはなんていうか、こう、でっかいビルとかないの?」

「ここは東京の郊外だからな。ひみこが想像しているのは23区だろ」

 そうかもしれない。なんとか区って、なんか名前からしてかっこいいよね。有名な会社やテレビ局はだいたいそこだった気がする。

「よっこいしょっと、ほら、怪我しないように降りろよ」

「うん、ありがとう」

 ドラゴンの背中は結構高いから、ヒカルくんの手を借りて降ろしてもらった。

「ほんとーに不思議な世界だね。こんな生き物がいるなんて」

 わたしたちを降ろすと、ドラゴンたちはまた空のどこかへ飛んで行ってしまう。小さくなっていくドラゴンを見てカムイって不思議な世界だなと思う。スマホもあるし、東京もある。普通に人間たちも暮らしているみたいだ。なのに物怪という恐ろしい怪物もいる。

「ここが精霊オーディションの会場わら! この先へはふたりだけで行くわら!」

「ええっ、化け物がでたらどうするのよ……」

「逃げるしかないわら。死にたくなかったら、全力で逃げるわら」

 そう言って、ツクヨミはみうちゃんにスマホを渡した。

「登録しておいたから、これで動画撮影するといいわら」

 生死をかけた冒険まで動画撮影するの? って、この世界の人たちはアイドルが命懸けで化け物と戦うのを見てよろこんでいるんだよね。
 もしかしてこの世界の人たちは相当趣味が悪いのかもしれない。地球でも芸能界とかマスコミの裏側みたいにやらせとか意地悪が暴露されてニュースになることがあるけれど、そんなの比較にならないくらい危険な世界だ。

「どうした? 怖気付いたか?」

 ヒカルくんの言葉に首を振る。

「やってみるよ。みうちゃんは平気?」

「あたしは……少し怖いけど……これで人気者になれるなら命を賭けてもいいかなって思います」

「みうちゃん……ぼくは仕事柄、いろんな女の子からファンレターをもらうけれど、みうちゃんみたいに変わりたいっていう女の子もたくさんファンにいるよ。頑張ってね。ふたりならきっとオーディションに合格して、精霊に認められると思うから」

 タケルくんがみうちゃんの頭をなでる。子どもっぽいと思われるかもしれないけれど、見ていて羨ましい。

「ひみこなら大丈夫だって。この辺は化け物だって少ないからさ。それに精霊がいる場所までもうすぐだし」

 そう言って、ヒカルくんはわたしの頭をそっとなでてくれた。

「うん、ありがとう。ヒカルくん」

「この道をまーっすぐ進めば精霊がいるわら!」

「わかった、いってきます! いこう、みうちゃん!」

「はい!」

 みうちゃんと手をつないで森の中へと入っていく。怖くてなんども後ろのふたりを確認した。でも、だんだんと小さくなっていって、次第に見えなくなっていく。

「ヒカルくんもタケルくんも見えなくなっちゃいましたね」

 みうちゃんが手のひらにびっしょりと汗をかいているのがわかった。それに小刻みに震えている。パキンという乾いた小枝を踏んづけた音にも背筋が寒くなる。
 わたしは一度物怪を見たことがあるから余計に怖い。見たことがないならないで、想像を膨らませて怖いだろうけれど。

「わての精霊オーディションに参加しようとはずいぶんと変わり者どすなぁ」

 声はどこからともなく響いていた。森全体から声がする気もする。

「女の子二人組、いいなぁ手を繋いで、仲が良さそうどすえ」

「そうだよ! わたしたち友達だもん! ねぇ精霊さん、いるなら出てきて!」

「残念ながら、わてはもう芸能界には興味がないどすえ。諦めて帰るのがいいでんなぁ」

 茂みがガサガサと動いた。精霊? そう思ってよく見てみると、真っ赤な色をした大きな熊だった。

「きゃあっ!」

 ふたりで一斉に叫び声を上げた。みうちゃんは動揺しているのか、撮影中のスマホを落としそうになっている。
 撮影中のスマホは今まで誰も視聴者がいなかったのに、急に視聴者が増えてきた。

「悪いけど、死ぬつもりはないよ! わたしに任せて、これでも運動は得意なんだから!」

 とは言ってみたものの、武器もないし、このままではやられてしまう。いろんな考えが頭をかけめぐった。

「ふたつ作戦がある、ひとつは逃げてタケルくんたちに助けてもらう方法。もうひとつは、立ち向かって精霊と契約する方法」

 自分で言っておいてなんだけれど、地球の熊にすら絶対に敵わない。猟師りょうしさんが鉄砲をもってようやく勝てるかどうかだ。ましてやこいつは異世界の化け物。逃げるしかないじゃない。

「逃げた方がいいどすえ。その熊の爪は簡単に人間の体を引きちぎりはる」

「嫌だ! それならわたしたちに力を貸してよ! 精霊さん!」

「ふーむ、なら、どちらか一人が諦めるなら、もう一人をアイドルにしてもいいどすえ。うふふふふっ、せいぜいケンカして決めるといいどす」

 性格の悪い精霊だ。

「なら、みうちゃんを人気者にしてあげて!」

「……ひみこちゃん!? いいんですか? ひみこちゃんはこんな地味なあたしのことを友達って言ってくれたし……ひみこちゃんの方が相応しいような……」

 その時、わたしの手が光ったように見えた。そうだ! この世界では視聴者の応援がアイドルの力になるんだった。

「みうちゃん! スマホを貸して!」

「えっ? あ、は、はい」

「見ているみんな! これからトップアイドルになるわたし、大和ひみこがあんな物怪ぶっ飛ばしてやるんだから、だから、みんな! 力を貸して! わたしをアイドルにして!」

 スマホに向かって呼びかけると光のつぶがわたしの周りを包むのがわかった。

「す、すごい、ひみこさんの体が光っていますよ!」

 力が体の奥底から湧き上がってくるのがわかる。ただ、これでも勝てるかどうかはわからないけれど……。

「わたしたちは! アイドルになるんだっ!」

 わたしは思いっきり熊をぶん殴ってやった。

「い、痛いわらーっ!!」

 え、この声は?

「もしかしてツクヨミ?」

「そうわら、それにしても契約もしないでアイドルの力をつかいこなすなんて……」

「ええ、ほんま面白い才能どすなぁ」

 森の中から着物を着た女の子のぬいぐるみみたいなのが現れた。

「では、ふたりと契約してあげるどすえ」

「……」

 みうちゃんは唇を噛み締めていた。

「わたしにはそんな資格ないですよ。友達を差し置いて、自分だけ精霊と契約しようとしましたし……」

「はっはっはっ、純粋な心どすえ。芸能界というのは、ライバルを蹴落としてでも勝ち上がる世界。仲良く手を繋いでゴールなんてできないでしょうなぁ。みうといったかな、そなたも十分合格どす。友達を見捨てる冷酷さも好きどすえ」

「ええっ、そこまではしてないですよ! 冷酷って、冷たくて酷いやつって意味じゃないですか……」

 みうちゃんが慌てている。わたしがバカなだけでみうちゃんはふつうだよ。冷酷なんかじゃない。まあ、わたしの美貌びぼうなら最悪この世界に頼らなくてもアイドルデビューできるって思っていたのは内緒にしておこう。

「わたしは気にしてないよ、アイドルは笑顔が武器だからね!」

「さすがひみこさんっ! 一生友達としてついていきますっ!」
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