星の輝く異世界アイドル配信記

緑知由

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プロローグ

アイドル反対

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 数学のテストが返却される。気分がめちゃくちゃ落ち込む最悪な時間だ。自慢じゃないが数学は1番の苦手科目だった。得意な人は宇宙人だろうか。同じ人間とは思えない。

大和やまとひみこ! 次のテストはもっと頑張るように! こんな成績じゃ高校に行けないぞ」

 うわぁ、そんなことみんなの前でわざわざ言わなくてもいいのに、嫌味な先生だ。点数を見ると10点と書かれたバツだらけの答案用紙が返ってきた。
 まあいいか、わたしには夢があるし。
 そう、わたしには夢があった。
 自慢じゃないが外見にはほんのちょっと自信がある。背も高いし、髪もツヤツヤ、おまけに目も大きくて二重だ。

 数学の授業が終わるとわたしはさっさと家に帰る、と、その前に寄り道。本屋さんで少女向けファッション誌を購入するのだ。おしゃれが目的ではない、目的はこういう雑誌の読者モデルになること。そしてゆくゆくは人気アイドルになって運命のイケメンアイドルの男の子と結婚するのだ!
 雑誌には美少女モデルの他に今をときめく人気男性アイドルユニットHIBIKIが載っていた。真っ赤に髪を染めたリーダーのタケルくんがわたしの運命の人だ。初恋の人。わたしとそんなに歳は違わないのに、もう国民的なアイドルになっていて、ドラマなんかにも出ている。YouTubeの登録者数も300万人もいる。

「この恋! 絶対に成就させてみせるんだから!」

 わたしの家は大きな森の中にある神社の中にあった。毎日長い階段を駆け上がるから体力はつくけれど、脚が太くなりそうで、年頃の女の子には複雑だったりする。

「お帰り、ひみこ。今日も神社の掃除を頼んでいいかい?」

 お父さんは神社の神主かんぬしさんをしていて、わたしは巫女みこさんとしてアルバイトを始めていた。巫女というのが最初はよくわからなかったけれど、神様につかえる女の子みたいなものだ。お父さんはその上の偉い人。

「いいけど、1回200円だからね。今月はタケルくんのグッズを買うのでお金がかかるんだから」

「そうだ、今日はテストが返却されたんじゃないか? ひみこ、どうだった?」

「うーん、うんうん、まあまあかな」

「そうか、まあまあか。ゆくゆくはこの神社を旦那さんと継いでいくんだから勉強も頑張らないとだめだよ」

「ちょっと待って、神社を継ぐってどういうこと? 旦那さんってなに?」

「ああ、神社をやるには資格が必要でね、ゆくゆくは資格を持った男性とお見合いを……」

「そんなの聞いてない!? 今は令和の時代だよ!? お見合いって何言ってるの? わたしは絶対に神社なんか継がないんだから! わたしは東京へ行ってアイドルになる!」

 お父さんははぁとため息をついた。

「いいかい? アイドルとして成功する人なんてごくわずかなんだよ。何千人、何万人に一人だ。それにね、お父さんはひみこがアイドルで辛い思いをしないか心配なんだ」

「そんな心配いらないよ! わたしは絶対にアイドルになるんだから!」

 こんなとき、いつもわたしの味方だったお母さんはもういない。お母さんなら、ひみこは頑固だからね、やりたいようにやらせてあげなさい、って言ったんだ。いつもわたしを励ましてくれた。
 でも、病気で天国にいってしまったから、家では話の合わないお父さんとふたりっきり。お父さんは家事も苦手だからわたしがやってるし、ああ、なんて働き者で健気けなげな娘なんだろう。

 白い衣に赤いはかまという昔の人が履いていたズボンのようなもの、下は草履ぞうりという巫女服に着替えると、夕方までずっとお掃除。それかお守りの販売のお手伝い。でも、お客さんなんて近所のおばさんくらいだからほとんど来ないんだよね。

「すいません。神社の方ですよね」

 帽子を被ってマスクにサングラスをした怪しげな男性から声をかけられた。

「そうですよ」

「この近くにほこらってありませんか?」

「ほこら? ああ、なにかをまつってあるような建物ならこの参道を抜けて、林の奥です」

「ありがとう」

 なんだか怪しい人だ。この神社には国宝級のお宝があるとかお父さんが言っていたし、泥棒かもしれない。
 そう思って、こっそり後をつけることにした。

 ほこらの前に立つと男性は帽子とサングラス、それにマスクを外した。って、あれ、あの赤髪! HIBIKIのタケルくんそっくりじゃない!?

「だれだ!?」

 タケルくんのそっくりさんが叫ぶと突然空間に黒い穴が開いて、わたしは目の前が真っ暗になったのだった。
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