8 / 23
座ってできる運動
しおりを挟む
一度服を替えた。
タオルをもってトレーニング室へ、と言われてどきどきしながら入った。
あと1時間くらい使っていいみたい。
チヅルは脂身しかない自分がこんなところに入り込んで怒られないか悩んだ。
ここは大人がついていれば中学生の利用も可能となっている。
ダンベルやバーベルなど、見たことがあるものもあった。
知らないものの方が多い。
「チヅルくん、どれかやってみようよ」
うきうきとヒスイが誘った。
彼女はボートをこぐような器械で遊んでいる。
「何がどうなってるのか分からないよ」
チヅルはおろおろと周りを見ながら言った。
「クランチは?」
ヒスイの父が細い診察台みたいなものを指す。
こうやって、こうやって。とお手本で何回かやって見せてくれる。
「チヅルくん腹筋運動大変って思ってるんでしょ?」
顔に書いてあったのかと思うほどその通りだった。
「これ、床でやるより楽だからやってごらん」
言われた通りにしてみると、本当に楽に起き上がれる。
「ほんとだ。できる」
感動して何回も腹筋してみた。
家でやった時は一回ですらぶるぶる震えてできなかったのに。
「腰も痛くない」
でしょー?と父は嬉しそう。
100回でもできそう。
調子に乗ってそんなことを思ったが、11回でお腹が痛くなった。
「おー効いてるー」
お腹をおさえて動きを止めたチヅルにヒスイの父はそう言って笑う。
「チヅルくんはやっぱこれじゃない?」
ヒスイの声がした。
彼女はランニングマシーンに取りついている。
「ウォーキングもできるよ。
今日みたいな日なんかマシンでもいいね」
にっと歯を見せて笑った。
「そういえば、チヅルくん最初に計量したの?」
父が娘に尋ねる。
「してなーい」
機械の設定に夢中な娘はシンプルに答えた。
「計ったら?目標になるでしょ」
ひょいと壁際にある身長体重計を指さされる。
チヅルはきゅーっと顔を赤くした。
はー恥ずかしい。70kg以上あるって明らかにされるー。
隠し果せないお腹なのに、妙な羞恥心で動揺してしまう。
「お父さんも計ろうかなー。何か月も計ってないもん。
チヅルくんちょっと手伝って」
ヒスイの父はすたすた歩いて行って体重計の上に自らをセットした。
「その辺にスイッチがあると思うんだけど、押してくれる?」
チヅルが近づいて行ってボタンを押す。
ジーッという音がして、身長計の横規が降りてきた。
173cm、66㎏。
感熱紙に印刷されて出てくる。
おもしろいなあ、という顔で見ていたらぱっと「交代」と言われた。
思わず気をつけでセットされてしまう。
「目と耳が水平になるように立っててねー」
ヒスイの父の声と共に、ジーッという音がした。
おろおろしている間に横規が頭から離れていく。
感熱紙が印刷されてくる音がした。
「あっ」
ヒスイの父がそれをつまみ上げてしまう。
スマホを開いて何か入力していた。
チヅルは不安げにその動作を見る。
見た目もそうだけどすごいでぶだって数字で明らかになっちゃった。
スポーツをしていた人から見たら信じられない体たらくだろう。
逆に何したらそんなに太れるんだ。
そう思われたらどうしよう。
「あー。やっぱり。もうちょっとだ」
予想に反して、ヒスイの父からはそんな言葉が漏れた。
「ほら」
ヒスイの父はスマホの画面を見せる。
160cm、68kg
BMI 24
「あれ、ちょっと痩せてる…」
ほっとしてチヅルは呟いた。
「ほら、その下の方。
標準体重の範囲の上限。64.8㎏ってなってる。
あと3.2㎏だよ。もう1週間でいけるかもしれないよ?」
「わあ…」
チヅルは感動して大きく息を吸い込む。
「標準体重だって…、嘘みたい」
僕ね、とチヅルは言った。
「僕、小学4年生の時は148cmで41㎏だったんです」
ヒスイの父は初めて自分から話してくれたチヅルを見て頷く。
「5年生になって、急に太っちゃった」
「習い事のスポーツやめたとかで?」
塾に行き始めるタイミングだ。
そういうい子も多い。
チヅルは首を振った。
「もともとスポーツはやってなかったんです。
ただ、おもちの食べ過ぎで…」
「んっ」
ヒスイの父は吹き出すのをすんでのところで留まる。
「お母さんが僕に元気になってもらおうと思って毎日作ったんです。
僕、頑張って毎日食べました。そしたらどんどん太っちゃって」
「ふーん…」
ヒスイに言わすところの「将軍」か。
「僕、不登校だったんです。
2年間」
とんでもない事情をぶちこんだチヅルを、ヒスイはぎょっと見た。
父は笑いをおさめて真面目にチヅルを見ている。
「そっか」
父はそう言って感熱紙をチヅルに渡す。
「すごいな。それなのにあんなに頭良いんだ。努力家だ」
ヒスイの父が笑うと、チヅルもおずおずと笑顔を見せた。
「じゃあ、3.2㎏、落とせるな。
どれ使ってみたい?」
再び器械を示す。
チヅルは今度は自分から選びに行った。
レッグプレスに座ってみる。
「これ、いいなあ。
座って筋トレできちゃうの」
説明を読みながら足を伸ばした。
軽いなあと思ったらおもりが一枚もついていない。
ヒスイの父がいい所に調節してくれた。
ふーっと息を吐きながらやってみる。
今朝まで元気が出ない出ないと思っていた。
今、すごく楽しい。
タオルをもってトレーニング室へ、と言われてどきどきしながら入った。
あと1時間くらい使っていいみたい。
チヅルは脂身しかない自分がこんなところに入り込んで怒られないか悩んだ。
ここは大人がついていれば中学生の利用も可能となっている。
ダンベルやバーベルなど、見たことがあるものもあった。
知らないものの方が多い。
「チヅルくん、どれかやってみようよ」
うきうきとヒスイが誘った。
彼女はボートをこぐような器械で遊んでいる。
「何がどうなってるのか分からないよ」
チヅルはおろおろと周りを見ながら言った。
「クランチは?」
ヒスイの父が細い診察台みたいなものを指す。
こうやって、こうやって。とお手本で何回かやって見せてくれる。
「チヅルくん腹筋運動大変って思ってるんでしょ?」
顔に書いてあったのかと思うほどその通りだった。
「これ、床でやるより楽だからやってごらん」
言われた通りにしてみると、本当に楽に起き上がれる。
「ほんとだ。できる」
感動して何回も腹筋してみた。
家でやった時は一回ですらぶるぶる震えてできなかったのに。
「腰も痛くない」
でしょー?と父は嬉しそう。
100回でもできそう。
調子に乗ってそんなことを思ったが、11回でお腹が痛くなった。
「おー効いてるー」
お腹をおさえて動きを止めたチヅルにヒスイの父はそう言って笑う。
「チヅルくんはやっぱこれじゃない?」
ヒスイの声がした。
彼女はランニングマシーンに取りついている。
「ウォーキングもできるよ。
今日みたいな日なんかマシンでもいいね」
にっと歯を見せて笑った。
「そういえば、チヅルくん最初に計量したの?」
父が娘に尋ねる。
「してなーい」
機械の設定に夢中な娘はシンプルに答えた。
「計ったら?目標になるでしょ」
ひょいと壁際にある身長体重計を指さされる。
チヅルはきゅーっと顔を赤くした。
はー恥ずかしい。70kg以上あるって明らかにされるー。
隠し果せないお腹なのに、妙な羞恥心で動揺してしまう。
「お父さんも計ろうかなー。何か月も計ってないもん。
チヅルくんちょっと手伝って」
ヒスイの父はすたすた歩いて行って体重計の上に自らをセットした。
「その辺にスイッチがあると思うんだけど、押してくれる?」
チヅルが近づいて行ってボタンを押す。
ジーッという音がして、身長計の横規が降りてきた。
173cm、66㎏。
感熱紙に印刷されて出てくる。
おもしろいなあ、という顔で見ていたらぱっと「交代」と言われた。
思わず気をつけでセットされてしまう。
「目と耳が水平になるように立っててねー」
ヒスイの父の声と共に、ジーッという音がした。
おろおろしている間に横規が頭から離れていく。
感熱紙が印刷されてくる音がした。
「あっ」
ヒスイの父がそれをつまみ上げてしまう。
スマホを開いて何か入力していた。
チヅルは不安げにその動作を見る。
見た目もそうだけどすごいでぶだって数字で明らかになっちゃった。
スポーツをしていた人から見たら信じられない体たらくだろう。
逆に何したらそんなに太れるんだ。
そう思われたらどうしよう。
「あー。やっぱり。もうちょっとだ」
予想に反して、ヒスイの父からはそんな言葉が漏れた。
「ほら」
ヒスイの父はスマホの画面を見せる。
160cm、68kg
BMI 24
「あれ、ちょっと痩せてる…」
ほっとしてチヅルは呟いた。
「ほら、その下の方。
標準体重の範囲の上限。64.8㎏ってなってる。
あと3.2㎏だよ。もう1週間でいけるかもしれないよ?」
「わあ…」
チヅルは感動して大きく息を吸い込む。
「標準体重だって…、嘘みたい」
僕ね、とチヅルは言った。
「僕、小学4年生の時は148cmで41㎏だったんです」
ヒスイの父は初めて自分から話してくれたチヅルを見て頷く。
「5年生になって、急に太っちゃった」
「習い事のスポーツやめたとかで?」
塾に行き始めるタイミングだ。
そういうい子も多い。
チヅルは首を振った。
「もともとスポーツはやってなかったんです。
ただ、おもちの食べ過ぎで…」
「んっ」
ヒスイの父は吹き出すのをすんでのところで留まる。
「お母さんが僕に元気になってもらおうと思って毎日作ったんです。
僕、頑張って毎日食べました。そしたらどんどん太っちゃって」
「ふーん…」
ヒスイに言わすところの「将軍」か。
「僕、不登校だったんです。
2年間」
とんでもない事情をぶちこんだチヅルを、ヒスイはぎょっと見た。
父は笑いをおさめて真面目にチヅルを見ている。
「そっか」
父はそう言って感熱紙をチヅルに渡す。
「すごいな。それなのにあんなに頭良いんだ。努力家だ」
ヒスイの父が笑うと、チヅルもおずおずと笑顔を見せた。
「じゃあ、3.2㎏、落とせるな。
どれ使ってみたい?」
再び器械を示す。
チヅルは今度は自分から選びに行った。
レッグプレスに座ってみる。
「これ、いいなあ。
座って筋トレできちゃうの」
説明を読みながら足を伸ばした。
軽いなあと思ったらおもりが一枚もついていない。
ヒスイの父がいい所に調節してくれた。
ふーっと息を吐きながらやってみる。
今朝まで元気が出ない出ないと思っていた。
今、すごく楽しい。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~
海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。
そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。
そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。
【ショートショート】雨のおはなし
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる