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荒魂
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昊は人間として仕事していた。
休日の間にSNSを更新する。
店長が体調不良のためSNSをしばらくお休みします。
商店街のお店にいつか貼ってあった文言をほぼそのまま書いた。
配送のお客さんにも同じ文言のメールを出して。
一斉送信ができないからすごく時間がかかった。
配達のお客さんに藍が体調不良って話したら、何の病気か聞かれた。
盲腸って答えた。
昊が知っている人間の病気ですぐ治るやつはそれだけ。
商店街では案外すんなり済んだ。
阿呂だけが細っそい目で見ていた。
掃除屋さんから吏王が消えた。
彼は今までも人を食ってはなりすまして不意にいなくなるのを繰り返していたのだろう。
本当の自分の姿なんて考えることもせずに。
「小法師さま、カップ発注してー」
神を使う龍の子ども。
「今日は午後から豆屋さんに行くからな。
急げ急げー」
口調はのんびりしている。
休日に運よく豆屋さんに連絡がついた。
焙煎豆を朝届けてもらっている。
午後から藍の焼いた分を持っていって似たような焙煎豆を仕入れるのだ。
店頭にも店長不在で味がちょっと違いますと表示している。
たくさんの人が藍のことを聞いた。
藍が守りたいと言った小さな生活。
「わざわざ人間のごとくせずとも良いのではないか」
タブレットの画面を睨む小法師が言う。
小法師数人分の幅があるので大変そう。
「昊ならばまやかすこともできよう?
いつものように運んでいると」
「嫌だ」
昊は歯を見せて笑った。
「俺はちゃんと人間としての戸籍をもらった。
きちんと人間としてまっとうする」
「われは」
「俺の楼閣」
「……」
ペしんと音をさせて小法師は発注を確定した。
「われにも禄が生ずるな?」
「後でひまわりの種をやる」
ほう、と、思いの外小法師は嬉しそう。
藍がいなくなって数日。
昊はふわふわした感覚が消えなかった。
よく時間を確かめるようになった。
夜は藍が消えた場所へ行く。
写真を撮って、藍に送った。
帰ってくるのはここだ。
忘れないでいてほしい。
昊の記憶はなくなっても。
休日の間にSNSを更新する。
店長が体調不良のためSNSをしばらくお休みします。
商店街のお店にいつか貼ってあった文言をほぼそのまま書いた。
配送のお客さんにも同じ文言のメールを出して。
一斉送信ができないからすごく時間がかかった。
配達のお客さんに藍が体調不良って話したら、何の病気か聞かれた。
盲腸って答えた。
昊が知っている人間の病気ですぐ治るやつはそれだけ。
商店街では案外すんなり済んだ。
阿呂だけが細っそい目で見ていた。
掃除屋さんから吏王が消えた。
彼は今までも人を食ってはなりすまして不意にいなくなるのを繰り返していたのだろう。
本当の自分の姿なんて考えることもせずに。
「小法師さま、カップ発注してー」
神を使う龍の子ども。
「今日は午後から豆屋さんに行くからな。
急げ急げー」
口調はのんびりしている。
休日に運よく豆屋さんに連絡がついた。
焙煎豆を朝届けてもらっている。
午後から藍の焼いた分を持っていって似たような焙煎豆を仕入れるのだ。
店頭にも店長不在で味がちょっと違いますと表示している。
たくさんの人が藍のことを聞いた。
藍が守りたいと言った小さな生活。
「わざわざ人間のごとくせずとも良いのではないか」
タブレットの画面を睨む小法師が言う。
小法師数人分の幅があるので大変そう。
「昊ならばまやかすこともできよう?
いつものように運んでいると」
「嫌だ」
昊は歯を見せて笑った。
「俺はちゃんと人間としての戸籍をもらった。
きちんと人間としてまっとうする」
「われは」
「俺の楼閣」
「……」
ペしんと音をさせて小法師は発注を確定した。
「われにも禄が生ずるな?」
「後でひまわりの種をやる」
ほう、と、思いの外小法師は嬉しそう。
藍がいなくなって数日。
昊はふわふわした感覚が消えなかった。
よく時間を確かめるようになった。
夜は藍が消えた場所へ行く。
写真を撮って、藍に送った。
帰ってくるのはここだ。
忘れないでいてほしい。
昊の記憶はなくなっても。
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