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同属

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 日曜に司城と会った。
 ちょうど公園に梅が咲いたのでそこへ出かけた。

「昊と気が合わないんですか」

 挨拶した後に尋ねた。
 花のいい香りが漂う。
 遠慮したって仕方ないので藍は単刀直入に話した。

「昊に意地悪はしないでください。
 気が合わないなら放っておいて」

 司城は藍を観察するように見る。
 顔には淡く笑みがあった。

「藍さんは聞きました?」


 自分の正体を。


 藍は頷く。

「昊は喧嘩してる場合じゃないんです」

 司城の目には一瞬苛立ちが浮かんだ。
 またたきの間にそれは隠れる。

「あの子は強いですね」

 藍には優しげに見える顔を向けた。

「強いです。
 あと、本当に優しいです」

 藍は堂々とうちの子自慢する。

「天に昇るっていうのがどういうことか、正直分からないけど。
 私は昊に叶えてほしい。
 誰にも邪魔してほしくないです」



 天に昇るだなんだ、言ってる間に地べたで死んじまったら意味ないわ。



 自分がかけられた言葉が浮かんだ。
 身の内に冷たい風が吹く。

「あいつは自分とは逆と言っていい暮らしをしてきたみたいです。
 甘えん坊で、のんびり屋ですね」
「人間でもいろんな性格がありますから。
 昊はもともとそういう性格だったんですよ」


 池の周りの遊歩道に沿って、水鳥が泳いでいた。


「自分はあの子より200年ほど長生きしています。
 一度天に行こうとして、諦めました。
 ずいぶん前の傷が治らなくて。
 もう一度できるかどうかは分かりません。
 それからまったく天にのぼろうという気にならない」
「そういうのは自分に決定権があるんじゃないんですか」

 藍がつい興味をそそられて質問する。

「自分で行こうと思った時に自由に行けるんじゃないですよ。
 蝶なんかもそうでしょ?
 明らかにタイミング悪いのに蛹になってしまったり。
 どうにもならない状況の日に羽化してしまったり。
 生き物は自分ではままならないんです」
「じゃあ、司城さんはずっと一人で人間の世界で暮らしてるんですか」
「昔は面倒見てくれる人間もいたことはあります。
 けど、自分は一人が性に合ってます。
 いい加減、寝ているのもつまらないですからね。
 気ままに暮らしてます」


 その本意をはかりかねて、藍は口を曲げた。
 一見するとしっかり生活している人。
 けれど色々謎がある。


 
 日本で生まれた蛟龍ということだった。
 誰かと最後に暮らしたのは戦国時代の前後。
 起きたのは数年前だ。



 話していると普通の人間だった。
 話している内容は奇想天外だけれど。



 昊の蜃気楼は見ていない。
 雷獣と遊んでいるところを見て同属がいると知った。
 自分と同じくらいの大きさの蛟龍に驚いた。

 秋まではこの地方には住んでいなかった。

「せっかく珍しい同種なんですけど、友達にはなれなそうです」

 梅の花びらが落ちてくるのを手で梳くようにして、司城は呟いた。

「あののんきな顔、自分には無理です。
 こちらは世俗の諸事に追われてるのに」
「昊だって働いてますって」

 藍は苦笑した。
 
 昊の方もあいつとは仲良くできないと断言している。
 今日だって行かなくていいと散々喚いた。
 大人は嫌いな相手とだって口きくの、と叱りつけてきた。

「藍さん。あの子に意地悪はもう言いませんから。
 その代わりお願い聞いてください」

 
 柔和な顔で司城が言う。
 藍は何気なく目線を合わせた。

 ぐっ、と引っ張られるような感じがする。

 藍にはなんの魔法もない。
 霊感すらないただの人間だ。

 ただ、昊と暮らしているから分かる。
 


 このままお願いを聞いてはいけない。



 スマホが鳴って、目線が外れた。
 昊からだった。


 ほっとした。


 いっしょにかえる?

 出かけた先から家に戻ろうとしている。
 待ち合わせ場所を返信して、司城とは公園でわかれた。



「藍。あいつは意地悪しなかったか」

 顔を見て一番にそう確認してきた。

「しません」

 藍は笑う。

「話しただけだよ。意地悪もなにもないから。
 昊にもう意地悪言わないってさ」
「あの蛟龍はどのくらい生きてる?」
「昊より200歳年上なんだって」

 あはは、と笑う藍に、昊はなんとも言えない表情をした。

「そうなのか」

 長いな、と小さく言う。

「昊は川で魚とってたの?」

 藍が聞いた。

 出かける、と言って昊は川にずっといた。
 稔次と遊ぶなら森に行く。
 だから目当ては魚かと思った。

 昊が不思議そうに首を傾げる。
 川に行くって言ったかな? みたいな顔。

「今日はなに食べる?
 おだんご買って帰ろうか?」
「うん」

 ちょっとした疑問など消し飛んだように。
 昊はぱぁっと笑顔になった。
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