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贈り物

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 週明けの月曜日、朝から雷が鳴った。
 稔次としつぐは興奮している。
 こうが窓を開けてやると瞬く間に飛び出していった。

らん、ごめん。
 俺は様子を見てくる」

 玄関を飛び出しながら昊が藍を見る。

「行って。大丈夫だからさ」

 苦笑して、藍がそれを送り出した。
 
 店先に立っていると、司城つかしろがやってきて挨拶した。
 スーツを着ていた。
 本当にコーヒーを買ってくれた。

 作っている間に2~3言葉を交わした。
 お互いにクリスマスはどう過ごすとかそんなことを。
 どちらも仕事だった。

「藍さん。
 お店で動物飼われてるんですか?」

 手渡した時にそう尋ねられ、藍は「そうです」と答える。
 SNSを見てくれたのかなと思った。

「タヌキ似のポメラニアンを」
「ポメラニアン?」

 司城の声は静かだった。
 静かだったが何か疑問を持っているような響きがある。

「もっと珍しい生き物飼ってません?」

 どきっとした。
 一瞬でふたりの姿を思い受かべてしまう。

 昊か、稔次か。

 首を傾げている間に挨拶して司城は行ってしまった。



 1時間ほどして昊が戻ってきた。
 雷も止んでいて、稔次はおとなしくなっている。

「藍」

 しかし昊の顔はいよいよ不安に変わっていた。

「どうしたの?」

 玄関から入って来ずに立っている昊に問う。
 昊自身なんと言ったらいいかまだ形になっていないのか。

「なにか、来た?」

 自分の中の言葉を探して彼はそう尋ねた。

「何も?」

 昊の気持ちを分かってあげられなくて申し訳ない。
 けれど藍はそう答えるしかなかった。

「昊、稔次を置いて着替えておいでよ」
「うん……」

 昊は必要以上に子タヌキを抱きしめながら2階に上がっていった。
 


 クリスマスの日には、昊は商店街でたくさんおやつをもらった。
 配達の昊をつかまえて、おばちゃんたちがいっぱいくれる。
 藍は配達とは別に年の瀬の挨拶のため一緒に歩いていた。

 年始に神社で甘酒を振る舞う仕事よろしくねって、念を押されている。
 元旦の午前5時集合の行事だ。

 昊はにこにこしている。
 楽しみなのだ。
 人が集まるのが。
 
 地域のイベントに参加OKな性分でよかった。

「藍、どれがいい?」

 ポケットがいっぱいになってきたのか。
 鷲掴みにしたお菓子を見せてくる。
 
 半分こした。


 帰りに阿呂が勤めるケーキ屋さんに寄った。
 昊が予約したケーキを受け取って戻ってくる。

 また変な顔。

 藍は店の厨房から見送る阿呂を見た。
 そいつ信じられないんですけどって、目が言ってる。
 なんだか知らないが呆れてる。
 鬼が龍に呆れてる。

「昊? どうしたの?」
「阿呂が藍にクリスマスプレゼント渡したかって」
「あー…」

 きっと、昊が今着けているネックウォーマーのせいだ。
 今朝藍にもらってさっそく着用している。 
 もこもこすぎる昊の装備をスッキリさせようと選んだ。
 だからきっと、昊も何かあげたのかって話になったのだ。

 クリスマス自体分からない昊にプレゼント用意するなんて。
 高難度。

「昊は知らないもんね。
 この夏まで寝てたんだから。
 無理しない無理しない」

 藍は顔の前でひらひら手を振った。

 家に着いてケーキを冷蔵庫に入れてから、昊はすぐ龍の姿になった。
 爪でひっかけて「あっ」って言ってたから痛かったのだろう。
 人間に戻った時には手に綺麗な石を持っていた。

「はい」

 ずいっと藍に押し付ける。
 
 今、目の前で偽物作ってよこした気がするのだが?

「前に見て、ほしいと思ったんだ。
 買おうとしたら給料では買えなかった」

 青い石の輪を革紐で固定したペンダントだった。

「着ける?」

 昊が藍の頭に紐を通す。

「好きなんだ。
 この色。夜の藍色」

 にこにこ笑う昊の額が当たった。

「俺にとってはこれが、天の色」

 自分の作り出した石を手に取って言う。
 
 これはこれで希少なものかもしれない。
 蛟龍が作った石。

「ありがとう」

 藍はくしゃっと笑った。

「でもさ、昊。
 現代はプレゼントイベントがすっごく多いんだよ。
 無理しなくていいよ。
 全部やってたらあんたハゲちるからね」
「えー……。
 どれくらい?」

 昊は首を傾げる。

「毎月と言っていいくらいだよ。
 追いきれないと思う。
 昊は赤ちゃんにも関わってるし。
 大変だよ」

 毎月。

「給料から贈るのか?
 他の人間はそんなに売り上げてるのか?
 コーヒー屋は儲からないのか、もしかして」
「うわ、痛いとこついてきた」

 現代の経済を知る龍、昊。

「もっと客を呼ぶ方がいいのか?
 それだと藍の労働時間ばかり伸びるよな。
 やっぱりコーヒースタンドでは儲からないんじゃないか」
「儲からなくても生活していけるよ」
「貨幣経済って藍が言ってた」
「私は焙煎がやりたくてこれを始めたの。
 今めっちゃ楽しい」
「本当か?」
「真顔で聞くな」

 昊は転職しそうな勢いだ。
 うちの従業員がいなかったら店舗売り上げが落ちる。

「昊」

 落ち着いて、というように呼びかけた。

「私は王様の生活とか知らないけどさ。
 この小さな生活が気に入ってんの。
 壊さないように守っていきたいの」

 そう言いながら、藍は気づく。

 小さな生活に落ちてきたこの蛟龍。
 大きな波のように藍の暮らしをひっくり返した。

 これは宝くじみたいなもの。
 この大当たりが幸せなのか不幸なのかは藍次第だ。

 
 藍と昊が幸せと思うならそれでいい。
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