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龍が社会で生きるには

Avant

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 今年も川面いっぱいに水草が繁殖した。
 エサを求めてやってきたカワウソは、人に隠れてよく食べた。
 その草は川の流れの緩いところに繁殖する。
 追って食べているうちに、大きな沼に辿り着いた。

 彼は何十年も生きているカワウソである。
 夜、水辺で魚をとる人間を脅かしてきた。
 生首に化けてかかると驚いて確かめにくる。
 そういうやつを食べてやった。

 沼にしばらく潜んでいた。
 ある日蜃気楼が立ち上った。
 何事かと見ていたら、大きな蛇がのぼっていった。
 
 よく見ると、手足があり、角がある。
 大きな蛇ではない。
 小さな龍だ。

 見たことはなかったが、家族から聞いたことがある。
 
 龍は卵で生まれ、八百年以上を人間の世界で過ごす。
 その後、頃合いが来たら彼らは天を目指していくのだ。

 のぼる時には空に巨大な蜃気楼を作り出す。
 龍の子は蜃気楼を掴んで上へと進んでいく。

 目の前にある蜃気楼は相当に大きかった。
 朝のうちに立ち上がったそれは、昼下がりに楼閣を映した。
 楼閣は朱塗りの柱でできている。
 八角形の大きな建物が高くそびえていた。
 
 カワウソは場所を変えてみる。
 木の上から見ると、楼閣の手前には城市が広がっていた。
 まるで人の世を移してきたかのような大きなまちである。
 人間や妖怪などが生けるが如く生業を営む。
 
 その城市の手前、外界との境目には階段があった。
 来るものがあるなら参れと言うように。
 
 カワウソは再び楼閣を見上げた。

 龍の子は楽しそうに楼閣の住人と言葉を交わす。
 塔の中のものとは親しいようだ。
 
 その天辺は地上からは見えない。
 蜃気楼はまだずっと続いているようだ。
 
 龍の子がのぼればのぼるほど、雷雲が集まってくる。
 夕刻には城市を覆いかくし、激しい雷雨になった。

 
 迷惑な。


 沼が雨粒で泡立った。
 泥が浮き上がり、獲物は見えなくなる。
 今晩は草を食むしかない。

 カワウソはつまらなそうな顔をして湖面へ下りた。
 水草を食べ、雨の当たらない寝床を探して眠った。
 

 次の日、から雷の様な轟音が聞こえた。

 なんだと思って空を見上げる。
 ほとんど消えかけた蜃気楼があった。
 その中の楼閣を破壊しながら、落ちてくる龍の子。

 気を失っている。
 もしくはもう命はない。

 カワウソはそう思った途端に腹を押さえた。

 捕まえて食べてやろう。

 沼の真上からは少し動いてしまった蜃気楼を追う。
 龍の子から目を離さずに駆けた。

 落ちていく。
 人の生活の中に。
 龍の子が落ちていく。
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