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お守り屋の力
お嬢様
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ヒルにめちゃくちゃ怒られた。
そんな泣き言をジョエルに聞かされたのは2日後だった。
「お父さんかってくらいげんこつされた」
思い出しては頭を押さえる。
「サラさんに許してもらうまでは口きかないって言われてるの。
許してください。
もう迷惑はかけません。
勝手にダナを巻き込んだりしません」
ヒルが本気で怒っていると示した。
ジョエルが本当に反省しているかどうかはともかく。
「もう許してますよ」
サラはそう言って彼を救う。
ふにゃっと、ジョエルの顔がゆるんだ。
「よかった」
二日酔いが治まってからヒルに怒られて、言い合って、口をきいてもらえず、今日お守り屋を訪れたようである。
レイナルドは二日酔いのまま叱られてまだ顔を出していなかった。
「言い訳させてもらえる?」
お守り屋の会計台の上に肘をついたジョエルはサラに聞く。
「いりません」
サラは笑顔で、ぴしっとそれをはたき落とした。
そーう?と返したジョエルは大して残念そうでもない。
「そういえば、ダナとトビアスは?おつかい?」
二人がいないことに気づいてきょろきょろした。
「散歩です。今日は牧場に、搾乳のお手伝いに行ってるんです。
いつもダナがおやつをいただく牧場で。
トビアスが牧場犬としても優秀で、しかも搾乳が得意だと最近分かったんですよ」
「犬なのに牛の乳搾れるの…?」
ジョエルが精霊について理解が追いつかずにいる。
「犬の精霊は味方にすると心強いんです。
優秀ですよ」
サラは台の上で押し花を紙に挟んでいた。
「謝るつもりがあるのなら、ジョエルさん。
言い訳よりバイオリンがききたいです」
普段通りのひっつめ髪。普段通りの口調で。
サラはジョエルの方を見ながら言う。
「もう上手じゃないよ。弦は壊れちゃってるし。
…捨てたんだっけな。よく覚えてもない」
顔をそらしてぶつぶつと呟いた。
「ジョエルさん、もしかして歩くより先に楽器を握ったんじゃありませんか?」
サラはできたてのお守りに魔法をかけながら問う。
「バイオリンの音は、ジョエルさんの命の根幹にあるんでしょ?
久しぶりに会ってあげてはどうでしょう。
何か言ってくれるかもしれません」
サラが「どうぞ」と完成したお守りを差し出した。
ハーブの香りがする。
「あったらね」
ちょっとだけ笑ったジョエルが指先でそれを受け取った。
その時、店の表から声がして、女の子が入ってくる。
家人らしき女性と一緒だった。
身なりからして貴族のようである。
ジョエルがカウンターから身を離した。
「お守りがほしいのです。
戦に出る騎士の方に贈りたいのですが」
家人がサラに相談する。
女の子は13~4歳くらいに見えた。
よく手入れされた長い髪はきれいに巻かれている。
もじもじしてうつむいているのが可愛らしかった。
初めての贈り物かもしれない。
「お嬢様のお年頃の方は、よくこちらのお守りを買って行かれます」
サラは先ほどジョエルにあげたものと同じタイプのお守りを示した。
家人はその値段を聞いて少し考える。
「戦士がもらって嬉しいのはこっちです」
そこにいる騎士崩れが家人に声をかけた。
「狼は力の象徴ですから。
これを持っているだけで強くなれるような気がします。
それにお守りの力は動物にかけた方が強く長く効力を発揮するのですよ」
しれっと一番高価なものを勧めている。
家人は女の子に相談して、それを買うことに決めた。
店の表で待っている馬車に乗り、二人は帰っていく。
その家紋をジョエルは知っているようだった。
「悪い人ですね、ジョエルさん。
女の子の初めての贈り物にあんな高いものを」
白んだ顔でサラが言う。
ジョエルはとんでもないと首を振った。
「あれはお金持ちの家のお嬢様だからいいんだって。
ここの領主の親戚だよ。
親が仲良くて、向こうからしょっちゅう遊びに来てた。
隊にいたころ小さい子たちをよく見かけたよ」
だいたいさ、と続ける。
「サラさんのお守りの価格全体的におかしいよ?
狼倒すなんて普通の人間ならもう命がけさ。
その労働を考えたら安すぎでしょ」
「…そうですか?」
価格は祖父と話して決めたのだけれど。
「俺なら狼の手を選びそうな客睨む」
新しいの手に入れるのしんどいもん、とジョエルは断言した。
売ったくせに。
調子の戻ったジョエルを送り出し、サラはまた押し花をひとつ手に取った。
数日後、匂い袋の配達の日、サラはあの女の子を再び見かけた。
ヒルの店の前にあの家紋の馬車が停まっている。
きれいな木の箱を抱きしめて女の子が店に入っていった。
「ヒルさんのところにすごい馬車が来てます」
トビアスの背に乗ったダナが口をあんぐり開ける。
昼すぎのこの時間、店は休憩に入っているはずだ。
あの子は食事に来たわけではない。
あの日、ジョエルを見ても女の子は顔色を変えなかった。
ということは、今日、用があるのはヒルの方にだ。
「ダナ、今日は配達延期しよう」
サラはそう言って、そっと店の前を通り過ぎた。
戦に出る騎士に贈ると彼女は言っていた。
ヒルには今そんな話が来ているのだろうか。
そんな泣き言をジョエルに聞かされたのは2日後だった。
「お父さんかってくらいげんこつされた」
思い出しては頭を押さえる。
「サラさんに許してもらうまでは口きかないって言われてるの。
許してください。
もう迷惑はかけません。
勝手にダナを巻き込んだりしません」
ヒルが本気で怒っていると示した。
ジョエルが本当に反省しているかどうかはともかく。
「もう許してますよ」
サラはそう言って彼を救う。
ふにゃっと、ジョエルの顔がゆるんだ。
「よかった」
二日酔いが治まってからヒルに怒られて、言い合って、口をきいてもらえず、今日お守り屋を訪れたようである。
レイナルドは二日酔いのまま叱られてまだ顔を出していなかった。
「言い訳させてもらえる?」
お守り屋の会計台の上に肘をついたジョエルはサラに聞く。
「いりません」
サラは笑顔で、ぴしっとそれをはたき落とした。
そーう?と返したジョエルは大して残念そうでもない。
「そういえば、ダナとトビアスは?おつかい?」
二人がいないことに気づいてきょろきょろした。
「散歩です。今日は牧場に、搾乳のお手伝いに行ってるんです。
いつもダナがおやつをいただく牧場で。
トビアスが牧場犬としても優秀で、しかも搾乳が得意だと最近分かったんですよ」
「犬なのに牛の乳搾れるの…?」
ジョエルが精霊について理解が追いつかずにいる。
「犬の精霊は味方にすると心強いんです。
優秀ですよ」
サラは台の上で押し花を紙に挟んでいた。
「謝るつもりがあるのなら、ジョエルさん。
言い訳よりバイオリンがききたいです」
普段通りのひっつめ髪。普段通りの口調で。
サラはジョエルの方を見ながら言う。
「もう上手じゃないよ。弦は壊れちゃってるし。
…捨てたんだっけな。よく覚えてもない」
顔をそらしてぶつぶつと呟いた。
「ジョエルさん、もしかして歩くより先に楽器を握ったんじゃありませんか?」
サラはできたてのお守りに魔法をかけながら問う。
「バイオリンの音は、ジョエルさんの命の根幹にあるんでしょ?
久しぶりに会ってあげてはどうでしょう。
何か言ってくれるかもしれません」
サラが「どうぞ」と完成したお守りを差し出した。
ハーブの香りがする。
「あったらね」
ちょっとだけ笑ったジョエルが指先でそれを受け取った。
その時、店の表から声がして、女の子が入ってくる。
家人らしき女性と一緒だった。
身なりからして貴族のようである。
ジョエルがカウンターから身を離した。
「お守りがほしいのです。
戦に出る騎士の方に贈りたいのですが」
家人がサラに相談する。
女の子は13~4歳くらいに見えた。
よく手入れされた長い髪はきれいに巻かれている。
もじもじしてうつむいているのが可愛らしかった。
初めての贈り物かもしれない。
「お嬢様のお年頃の方は、よくこちらのお守りを買って行かれます」
サラは先ほどジョエルにあげたものと同じタイプのお守りを示した。
家人はその値段を聞いて少し考える。
「戦士がもらって嬉しいのはこっちです」
そこにいる騎士崩れが家人に声をかけた。
「狼は力の象徴ですから。
これを持っているだけで強くなれるような気がします。
それにお守りの力は動物にかけた方が強く長く効力を発揮するのですよ」
しれっと一番高価なものを勧めている。
家人は女の子に相談して、それを買うことに決めた。
店の表で待っている馬車に乗り、二人は帰っていく。
その家紋をジョエルは知っているようだった。
「悪い人ですね、ジョエルさん。
女の子の初めての贈り物にあんな高いものを」
白んだ顔でサラが言う。
ジョエルはとんでもないと首を振った。
「あれはお金持ちの家のお嬢様だからいいんだって。
ここの領主の親戚だよ。
親が仲良くて、向こうからしょっちゅう遊びに来てた。
隊にいたころ小さい子たちをよく見かけたよ」
だいたいさ、と続ける。
「サラさんのお守りの価格全体的におかしいよ?
狼倒すなんて普通の人間ならもう命がけさ。
その労働を考えたら安すぎでしょ」
「…そうですか?」
価格は祖父と話して決めたのだけれど。
「俺なら狼の手を選びそうな客睨む」
新しいの手に入れるのしんどいもん、とジョエルは断言した。
売ったくせに。
調子の戻ったジョエルを送り出し、サラはまた押し花をひとつ手に取った。
数日後、匂い袋の配達の日、サラはあの女の子を再び見かけた。
ヒルの店の前にあの家紋の馬車が停まっている。
きれいな木の箱を抱きしめて女の子が店に入っていった。
「ヒルさんのところにすごい馬車が来てます」
トビアスの背に乗ったダナが口をあんぐり開ける。
昼すぎのこの時間、店は休憩に入っているはずだ。
あの子は食事に来たわけではない。
あの日、ジョエルを見ても女の子は顔色を変えなかった。
ということは、今日、用があるのはヒルの方にだ。
「ダナ、今日は配達延期しよう」
サラはそう言って、そっと店の前を通り過ぎた。
戦に出る騎士に贈ると彼女は言っていた。
ヒルには今そんな話が来ているのだろうか。
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