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強メンバー
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月曜日のスタートは、ばっちりだった。
朝5時半に家を出て、山コースへ向かう。
ギアは2でスタート。回転数は90。
山の手前でギア1にして、回転数は60を下回らないを目指して。
最終目標は120回転と定めた。
これは笑えるほど高速で回している。
しかし真ん中のギアでないと90を保てないつむぎは、現状これで行くしかなかった。
サイクルコンピュータ。
これは楽しい。
いろんな情報が分かる。
買ってきて早速琉人がつけてくれた。
いや、彼に取り上げられたというのが正しい。
つむぎがやろうとして線があまってびろんびろんになったから。
今何%の坂を上っているのか表示されていて、ここは6%。
さっき平地で誰かに抜き去られた。
琉人とは違う人。初日に見たのとも違う自転車である。
ロードバイクはやってんな。
イヤホンで英会話のラジオを聴きながら、つむぎは思った。
小学生ジャージを今日も着ている。
6時過ぎたあたりで家に戻れた。
急成長じゃないか。
満足げにシャワーを浴びた。
春先の泥は顔のあたりまで飛んできている。
筋肉痛が気持ちよかった。
幸せそうな孫の顔を見て、祖母が「ばあちゃんも出ていい?」と聞いた。
快く承諾しておいた。
7時半に縁が迎えに来るまで、向こうの中学校の問題集を開く。
戻らなければいけない場所は、そこだから、ちゃんとやらないと。
学校に着くと、琉人が誰かと玄関で待っていた。
彼より背が低い男子。
小柄だが体は頑丈そうで、朝なのにもはやジャージを着ている。
「大塚寛登。1組のやつ。強いって言ってたのこの人」
琉人が紹介してくれた。
「八亀つむぎです。大塚くん、ママチャリレース出てくれるの?」
すると寛登はにこにこして即答する。
「うん。日曜日午前中自転車乗るだけでしょ?大丈夫だよ」
そんなことくらい、といった体だ。
金棒以上に金棒なのかな。
「琉人も出るの?だったら舷も?」
「いやまだそれは決めてない」
ここには部活物足りない男子がそんなにいる。
つむぎは縁を見た。
縁は小さく何度もうなずいていた。
OKだ。
ホームルーム前の教室で、縁と練習について話していた。
女子の陰口が聞こえ、つむぎはむむ、とそっちを見つめる。
何さ、という顔の数人と目が合った。
男好きって言った?付き合ってるって言った?
とんでもない。
チーム魂をそんな言葉でけがすなんて。
「先生」
朝のホームルームの終わりに、つむぎは手を挙げた。
なんの係でも委員会でもないが。
「1分ください」
はい?と担任が言ったので、黒板の前に行ってママチャリレースの大会要項を貼る。
「私はスピーチ得意じゃないですが、一生懸命話すので聞いてください。
6月30日、日曜日のママチャリレースにキッズチームとして出ます。
メンバーは男女混合で行きたいので、いま個別に話をして募集してます。
だから私が男子に声をかけているのに性的な意味はありません」
じいいっと、今朝目が合った女子を見つめてやった。
言葉の選択に担任が引いている。
「10名、必要なんです。
男子でも女子でも、出てくれるなら大歓迎です。
だから声をかけます。
チームでやってくれる人を探しています。
あと80日しかないんです。チームを作らせてください」
以上です。
礼をして席に戻った。
縁は複雑な顔をしている。
ごめん、もしかしたら失敗かも。
でも、成功かもしれないじゃん?
とにかく一生懸命話した。
昼休みまでに展開があった。
「亀さん」
中休み、新たな呼び方で、寛登が男子を連れてきたのである。
「バスケ部のいっちゃん。宮下一くん。
ママチャリやるって。去年大人と一緒に出てるから」
「経験者だ」
つむぎは両手を広げて歓迎した。
昼休みには、女子が二人きた。
両方とも1組の子みたい。
「阿部三千華です。バスケ部です」
「小林実です。運動はしたことないんだけど…」
友達か。
「ありがとう、ありがとう」
嬉しくて、縁と顔を合わせて飛び上がった。
琉人にも教えてやろうと3組を覗くと、3人で何か話している。
琉人、そして橙だ。
つむぎはぺこりとあいさつした。
3人目は知らない。
別の小学校の子だろう。
琉人と同じくらい日焼けした男子だ。
「亀ちゃん」
橙が久しぶり、と声をかける。
「ママチャリの話、聞いたよー。
私も出たい。…琉人も出るってよ」
それには異論があるらしく、琉人が何か言いかけた。
橙は何やら覇気でそれを封じる。
「日曜にちょっと自転車乗るくらいっしょ。
いい感じの運動しょや。
ね、メンバーもう揃っちゃった?」
最後はつむぎに聞いた。
「まだあと何人かほしいです。
男子の数が少なくて、琉人も参加してくれないかなと。思ってきました」
味方を得たり。
つむぎはぐぐっと言葉に力を入れた。
「あー…。じゃあ、出るわ」
ぼそっと琉人が言って、傍らの友達を見る。
「いいよ。なら俺もやる」
あんまり乗り気じゃなさそうだけど?
「山内橙、琉人。
あと長谷川舷。げんはふな編に玄米の玄ね。
登録お願いー」
そう言い残して橙は自分の教室に帰っていった。
おおお、強力そうなメンバーが一気にそろったぞ。
フットサル部なんて、足が強そう。
つむぎは鼻の穴が広がるのが分かった。
意気揚々と教室へ戻る。
縁と話す、ひょろっこい男子がいた。
「亀ちゃん、新しいメンバー来たよ」
縁はつむぎに気づいて彼を紹介してくれる。
「遠藤林太郎くん。
頭いいんだよ。いっつも定期テスト1番とかとるの」
「ほおお。頭脳か。
よろしくお願いします。練習頑張りましょう」
登録名簿を数えてみると、10名揃っていた。
「わー。揃ったよ、縁ちゃん」
「あとは練習だね、練習」
達成感に飛び上がる。
放課後、帰りがけに縁の家によって父親のレース用ママチャリを撮った。
グループラインの写真にして、みんなを招待する。
土曜日の午後、運動公園にみんなで集まって練習メニューを考えることになった。
いいねいいね。チームだ。
嬉しくて、つむぎはひとり「わはは」と笑った。
夕暮れ、石狩川沿いのサイクリングロードを走っている。
大きなキツネがそんな彼女を見つめていた。
朝5時半に家を出て、山コースへ向かう。
ギアは2でスタート。回転数は90。
山の手前でギア1にして、回転数は60を下回らないを目指して。
最終目標は120回転と定めた。
これは笑えるほど高速で回している。
しかし真ん中のギアでないと90を保てないつむぎは、現状これで行くしかなかった。
サイクルコンピュータ。
これは楽しい。
いろんな情報が分かる。
買ってきて早速琉人がつけてくれた。
いや、彼に取り上げられたというのが正しい。
つむぎがやろうとして線があまってびろんびろんになったから。
今何%の坂を上っているのか表示されていて、ここは6%。
さっき平地で誰かに抜き去られた。
琉人とは違う人。初日に見たのとも違う自転車である。
ロードバイクはやってんな。
イヤホンで英会話のラジオを聴きながら、つむぎは思った。
小学生ジャージを今日も着ている。
6時過ぎたあたりで家に戻れた。
急成長じゃないか。
満足げにシャワーを浴びた。
春先の泥は顔のあたりまで飛んできている。
筋肉痛が気持ちよかった。
幸せそうな孫の顔を見て、祖母が「ばあちゃんも出ていい?」と聞いた。
快く承諾しておいた。
7時半に縁が迎えに来るまで、向こうの中学校の問題集を開く。
戻らなければいけない場所は、そこだから、ちゃんとやらないと。
学校に着くと、琉人が誰かと玄関で待っていた。
彼より背が低い男子。
小柄だが体は頑丈そうで、朝なのにもはやジャージを着ている。
「大塚寛登。1組のやつ。強いって言ってたのこの人」
琉人が紹介してくれた。
「八亀つむぎです。大塚くん、ママチャリレース出てくれるの?」
すると寛登はにこにこして即答する。
「うん。日曜日午前中自転車乗るだけでしょ?大丈夫だよ」
そんなことくらい、といった体だ。
金棒以上に金棒なのかな。
「琉人も出るの?だったら舷も?」
「いやまだそれは決めてない」
ここには部活物足りない男子がそんなにいる。
つむぎは縁を見た。
縁は小さく何度もうなずいていた。
OKだ。
ホームルーム前の教室で、縁と練習について話していた。
女子の陰口が聞こえ、つむぎはむむ、とそっちを見つめる。
何さ、という顔の数人と目が合った。
男好きって言った?付き合ってるって言った?
とんでもない。
チーム魂をそんな言葉でけがすなんて。
「先生」
朝のホームルームの終わりに、つむぎは手を挙げた。
なんの係でも委員会でもないが。
「1分ください」
はい?と担任が言ったので、黒板の前に行ってママチャリレースの大会要項を貼る。
「私はスピーチ得意じゃないですが、一生懸命話すので聞いてください。
6月30日、日曜日のママチャリレースにキッズチームとして出ます。
メンバーは男女混合で行きたいので、いま個別に話をして募集してます。
だから私が男子に声をかけているのに性的な意味はありません」
じいいっと、今朝目が合った女子を見つめてやった。
言葉の選択に担任が引いている。
「10名、必要なんです。
男子でも女子でも、出てくれるなら大歓迎です。
だから声をかけます。
チームでやってくれる人を探しています。
あと80日しかないんです。チームを作らせてください」
以上です。
礼をして席に戻った。
縁は複雑な顔をしている。
ごめん、もしかしたら失敗かも。
でも、成功かもしれないじゃん?
とにかく一生懸命話した。
昼休みまでに展開があった。
「亀さん」
中休み、新たな呼び方で、寛登が男子を連れてきたのである。
「バスケ部のいっちゃん。宮下一くん。
ママチャリやるって。去年大人と一緒に出てるから」
「経験者だ」
つむぎは両手を広げて歓迎した。
昼休みには、女子が二人きた。
両方とも1組の子みたい。
「阿部三千華です。バスケ部です」
「小林実です。運動はしたことないんだけど…」
友達か。
「ありがとう、ありがとう」
嬉しくて、縁と顔を合わせて飛び上がった。
琉人にも教えてやろうと3組を覗くと、3人で何か話している。
琉人、そして橙だ。
つむぎはぺこりとあいさつした。
3人目は知らない。
別の小学校の子だろう。
琉人と同じくらい日焼けした男子だ。
「亀ちゃん」
橙が久しぶり、と声をかける。
「ママチャリの話、聞いたよー。
私も出たい。…琉人も出るってよ」
それには異論があるらしく、琉人が何か言いかけた。
橙は何やら覇気でそれを封じる。
「日曜にちょっと自転車乗るくらいっしょ。
いい感じの運動しょや。
ね、メンバーもう揃っちゃった?」
最後はつむぎに聞いた。
「まだあと何人かほしいです。
男子の数が少なくて、琉人も参加してくれないかなと。思ってきました」
味方を得たり。
つむぎはぐぐっと言葉に力を入れた。
「あー…。じゃあ、出るわ」
ぼそっと琉人が言って、傍らの友達を見る。
「いいよ。なら俺もやる」
あんまり乗り気じゃなさそうだけど?
「山内橙、琉人。
あと長谷川舷。げんはふな編に玄米の玄ね。
登録お願いー」
そう言い残して橙は自分の教室に帰っていった。
おおお、強力そうなメンバーが一気にそろったぞ。
フットサル部なんて、足が強そう。
つむぎは鼻の穴が広がるのが分かった。
意気揚々と教室へ戻る。
縁と話す、ひょろっこい男子がいた。
「亀ちゃん、新しいメンバー来たよ」
縁はつむぎに気づいて彼を紹介してくれる。
「遠藤林太郎くん。
頭いいんだよ。いっつも定期テスト1番とかとるの」
「ほおお。頭脳か。
よろしくお願いします。練習頑張りましょう」
登録名簿を数えてみると、10名揃っていた。
「わー。揃ったよ、縁ちゃん」
「あとは練習だね、練習」
達成感に飛び上がる。
放課後、帰りがけに縁の家によって父親のレース用ママチャリを撮った。
グループラインの写真にして、みんなを招待する。
土曜日の午後、運動公園にみんなで集まって練習メニューを考えることになった。
いいねいいね。チームだ。
嬉しくて、つむぎはひとり「わはは」と笑った。
夕暮れ、石狩川沿いのサイクリングロードを走っている。
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