ちゃりんこ

端木 子恭

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仲間募集

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 だめだって。

 放課後、しゅんとしぼんで机に突っ伏した。
 つむぎは本当に残念そうに「ちぇ」を繰り返す。

 来週いっぱいまでは部活動の休止期間だそうで、全員下校が早かった。

「亀ちゃん、ドンマイ」

 よりはぽんぽんとつむぎの肩を叩く。

「ひとりひとり声かけて誘うしかないかー。
 縁ちゃん、誰か男子で自転車好きそうな人心当たりある?」

 机と頬をくっつけたままでよりを見た。
 彼女は視線を宙に向けている。

「男子がいいの?」
「何人かは必要じゃない?」

 女の子10人チームでもいいのだが、表彰を目指すなら。

「男子の脚力があればさ、絶対有利でしょ」
「勝たなくても楽しめる方向でいいじゃない」

 よりは苦笑している。
 
 学校外の活動の募集はだめと言われた。
 参加するにあたっては大人の引率を受ける事。
 練習も大人に伝えておくこと。
 自転車は危ない。

 ついでにいっぱい説教された。
 縁まで巻き添えを食らわしてしまって申し訳ない。

「ごめんね、縁ちゃん。
 2人で出ても楽しいもんね」

 顔を見る前はうざかった思い出しか出てこなかったはずの山内琉人。
 実際に会話したら、みんなでリレーに出た時の思い出とか、ぶわあっと頭に浮かんでしまった。

 楽しかったじゃんね。大会。
 知らない子たちに挟まれてさ。
 余計に「自分たちはチームだ」感があって。

 一回帰って、また縁と会うことにした。
 とぼとぼと歩いて帰る。

「亀」

 家の近くで琉人が追いついてきた。

「おまえさっき、何の勧誘してたの」
「律儀か」

 肩はすぼまったままなのに、案外とふてぶてしい返しが飛ぶ。

「聞かなくていいなら、いいけど?」

 ぷん、となって琉人が言った。

「…聞いてほしいです。
 ママチャリレースに出たいのでメンバー募集したいです」
「運動公園でやるやつ?」
「たぶん」

 琉人はちょっと考えている。

「自転車、誰か持ってんの?」
「縁ちゃんのお父さんが整備やるんだって」
「あー。そうか。おじさん今年は腰がって言ってたな」

 あはは。やっぱり筒抜け。
 ここに個人情報なんてない。

 市って名前はついているけれど、人口は2.5万人しかいない。
 面積は広大で、市の端の方の住人は自家用スノーモービルで庭を乗り回したりしている。
 農村地帯で人のつながりが強かった。

「なんで男子誘ってんの?」
「脚力」

 至ってまともな理由である。

「去年のリザルト見たら、キッズチームの優勝は3時間で22周してた」
「速いの?それ」

「ママチャリってさ、普段の時速は10キロそこそこ」

 琉人はうん、と小さく言った。

「重さは25㎏前後。
 3時間で22周はその重たい金属を平均時速25キロで回し続けるってこと。
 スーパーからそんなママチャリ出てくるの見たことなくない?」

 ちょっと想像して笑ってしまっている。

「参加人数は最大10名までだけど、女子10名じゃ無理」

 お分かりいただけただろうか。

「ふーん」

 琉人の声はそっけなかった。
 そっけなくても、6年生の時よりはましか。
 会話が難しくなってくるとすぐ気合とか根性とか。

 また、うざかった思い出がよみがえってきた。

「今何の部活やってんの?山内…」
「は?」
「…くん」
「………」
「‘さん’?」

 琉人の顔は憮然としたままである。

「何て呼んだら納得すんの。琉人?」

 憮然としたまま唸っていた。

「なんか、久しぶりで、分からん」
「…のかいっ」

 思わず突っ込んでしまう。

「俺、水泳やめてフットサルしてんの。
 だけど部活の時間が決まってるから、週2~3回。

 姉ちゃんもフットサルしてておんなじ状況だから、運動不足なんだよ。
 俺より先に姉ちゃんに聞いて見れや」
「お姉さん」

 覚えているような、いないような。
 小さいころからサッカーしてた人だったはず。

「3年3組。そのうち教室に行ってみれば。
 俺、今日夜しゃべっとくから」

 ええと、名前…、名前は。

「山内あかりさん」

 ぴん、と記憶がつながった。

「なんでフルネーム。さん付け」

 琉人はちょっと不満そうである。

「山内琉人さん?」

 それが良いならそう呼ぶけど。

「やめれって」
「参加します?山内さん(弟)」
「俺より、いつも自転車で走ってるやつの方がよくない?
 ひとり強いのいるよ」
「何ていう人?縁ちゃんが良いって言ったらいいよ」
「秋吉さんと二人か、いま」

 秋吉さんだって。
 縁って、呼んでたのに。

 いまいち記憶がつながらず、つむぎは戸惑った。

「それにしても、親切じゃん?」

 いつの間にか家の前で話し込んでいる。

「俺、大学は関東に行きたいから」

 琉人はにやっと笑った。

「情報くれ」
「私利私欲か」

 山内家は保留にしておいて、つむぎは急いでジャージに着替えた。
 小学校の指定ジャージに。
 そして車庫から自転車で発進する。

 縁の部屋に久しぶりにあがった。
 イラストが壁に貼り付けてある。

「これ、縁ちゃんが自分で描いたの?」
「そう」
 
 縁はにこにこして頷いた。

「すごーい。えらいねえ、縁ちゃん。
 プロみたい」

 かわいい女の子のイラストが多い。
 水彩絵の具で色づけられていて、見ていると和んだ。

「琉人がね、山内がね、…さんがね」

 なんて言っていいのか分からず、そこから先に進めない。

「山内くんが一番いいんじゃない?」

 溺れそうなつむぎを縁が助けた。

「ね、で、お姉さんのあかりさんを誘ったらって言うの。
 あと同じ学年のカントくんっていう人、誘ったらって。
 知ってる?よりちゃん」
「大塚寛登くん。1組の子だよ。
 スキーやってる子」

 特にどうという関わりもないような口ぶりで縁は教えてくれる。

「明日声かけてみようか」

 そんなことを言って、その日は解散した。

 帰る道すがら、つむぎはわくわくしていた。
 生活に張りが出てくる。

 祖母は春休みの間じゅう元気に過ごしていて何も心配することはなかった。
 漫然とあの山まで自転車をこぎ、ホトトギスの鳴き声を聞きながら帰って来る。
 それが、明日からは目標をもって進めるのだ。

 練習表作ろう。
 あと、スポーツ傷害保険について調べないと。
 中学生でも申し込めるかなあ。

 10人。
 あと3週間で10人集まるといいなあ。

  
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