ただの魔法使いです

端木 子恭

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貿易島

事件の解決

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「僧侶」


 自分の杖で呼ぶと、大人の背丈と同じ神官服の人影が現れた。
 すぐに仕事を終えて、僧侶は消える。

「ありがとう。助かったよ、フリック」

 グラントはほっとした顔で笑いかけた。
 フリックは地面に倒れこんだグイドを軽蔑するような眼差しで見やる。

「いえ。私はこういう奴が嫌いです。グラントでなくても助けた」
「……どこから話聞いてたの?」

 グラントは首を傾げて聞いた。「魔物は嫌いくらいから」とフリックは答える。結構聞いてた。

「オーディさんの護衛は、少し前まで二人でしていたんです。
 私の親友と。その子は魔物でした。
 ちょっと人間より力が強い程度で、私と同じようにオーディさんを慕っていた。
 けれど、こういった奴に命を奪われてしまったんです」

 それは。

 グラントは地面を見る。

 跡形もなく消えてしまって、やり場ない気持ちだろうな。
 悲しみの拠り所なく、心はいつまでも取り残される。

「魔物は命が尽きれば後には何もない。
 それを、何も残らないものは最初から存在していないと。
 暴論を押し付けるやつがいるんです」

 フリックの声は憤怒の色がにじむ。
 人間とそこまで仲良くなれた魔物は、幸運だ。
 自らの願いは叶えられたのだ。

「寂しいね」

 グラントはゆっくり呟く。

「何もなくはない。わたしはその友だちを尊敬する。
 フリックの確固たる信頼を得た」

 ベンチの下に転がっていた白い石を拾い上げた。

「ちょっと思い出してしまいました。腹が立っちゃった」

 行こう、とフリックはグラントを促した。グイドは捨てておくことにしたらしい。
 グラントは杖で地面を軽く叩いた。


「大鷲」


 呼びかけると、人の頭くらい丸呑みにしそうな大きさの鷲が飛び出す。

「蜘蛛の魔物を探せ。人の胴ほどの大きさがある」

 鷲は頭上に飛び立って何度か旋回した。
 それがついっと倉庫の方へ滑る。また何か盗み出そうとしているようだ。

「追うよ」

 グラントはフリックと鷲の後を走る。
 どこかの国の倉庫に入る、細身の人間の姿が見えた。胴だけは丸い。
 見張りに話しかけた。そのまま倉庫へ入っていく。

「起きて。泥棒だ」

 幻術を解いてグラントが言った。
 まだぼんやりしている見張りの肩を叩いて、フリックは自分の方を向かせる。
 
「私はオーディさんの家の者です。荷主を呼んできてください。
 品物を確かめないと。
 泥棒は私たちが仕留めますから」

 頷いた見張りは仲間を呼びにいく。

「ジャジット」

 倉庫の中に呼びかけた。骨董品が収納されている。硬い品物に声が反響した。
 フリックが横にきて杖を振る。炎が線を描いて飛んだ。

 隅の方に飛び込むと、入れ替えに細身の人間が飛び上がる。

 グラントがその頭に向けて杖を振った。
 鈍い音と共に壁にはりつけられる。ジャジットが足をばたつかせた。
 首のつけ根がめりめりと破れ始める。

「狐、捕獲してこい」

 グラントの杖から大きな白い狐が飛び出した。
 奥にいるジャジットの腹を咥える。
 グラントの足元に持ってくるとぺっと吐き出して消えた。

 蜘蛛はこれだけでもう相当弱っている。

 グラントは人間の服の襟元から見える牙の間に杖を突っ込む。
 毒腺を潰してやった。

 ひどい叫び声に、周囲の人間が集まってきている。

「呪術師」

 杖ではなく、白い石の方に命じる。

「幻術を解き続けろ」

 非常にわずかずつ、呪術師は仕事をした。

 グラントは蜘蛛の目を覗き込む。
 幻術にかかっては解けるのを繰り返した。
 杖を握ってその視線を追いかける。

「ふうん……」

 グラントは納得したように呟いた。
 ジャジットは幻術を繰り出す目玉と周りの情報を入力する目玉を次々変えている。


「……こっちだね」

 ややして、グラントが蜘蛛の視線のひとつをとらえた。




 ジャジットの足元から大きな魔物の手が生えてくる。
 それはジャジットをぎゅっと掴むと高く高く掲げた。
 ついに魔物が顔を出す。
 まるで山の上にいるような高さになっていた。
 

 あたりの地面は赤く溶け出して、火の粉が弾け飛んでいる。
 魔物は川のように流れる溶岩にジャジットを投げ入れようとした。




 蜘蛛の魔物が激しく鳴いた。
 死にたくないと泣き叫ぶ。
 人間の言葉ではないから、わかるのはグラントだけか。

「グラント、私が預かってもいい?」

 フリックが言うので彼に預けた。

 ジャジットのそばに屈んでその手足を引きちぎる。
 ポケットから布を出して体をぐるぐると巻いた。
 巻き終わると、上から帯のようなもので縛る。

「それも封印符だ」

 気づいてグラントが言った。

「そうです。これは私が作ったもの。持っていると便利ですよ」
「手作りキットとか、売っているのかな?」

 冗談で聞いてみたのだが、そうだという。
 島が丸ごと市場のこの島には、売ってない商品はないのか。

「後で紹介します」

 叫ぶジャジットをぶら下げて歩き出した。
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