【百合】転生聖女にやたら懐かれて苦労している悪役令嬢ですがそのことを知らない婚約者に「聖女様を虐めている」と糾弾されました、死刑だそうです

砂礫レキ

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4.悪役令嬢、恐ろしい陰謀を糾弾する

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「私欲の為に聖女を攫い無理やり邪法をかけ魔力と命を奪おうとするとは……王族といえど許されない行為ですよ、殿下」
「ち、違う……」

 私は怒りを抑えながら婚約者の青年に言う。いやもう元をつけていいだろう。
 彼は少し前までの傲慢さが嘘のように冷や汗をかき後退った。
 そんな王子と私の間を掻い潜るようにカラスが飛んできて私の肩に止まった。
 当然ただの鳥ではない。父の使い魔だ。壁など容易に擦り抜ける。
 闇のカラスは私たち一族にしか解読出来ない鳴き声で私に父からの伝言を告げた。
 
「そうですね……どう違うのかは国王陛下の前で仰ってください、殿下の恋人はもう捕らえられたようですので」
「な、アンジーに何かしたらお前ら全員死刑だぞ!」

 そう立場も弁えず王子が叫んだ瞬間、パキリと乾いた音がする。
 視線を動かすとサクラの首に蛇のように巻き付いていた呪いの黒紐がボロボロになって地面に落ちていくところだった。
 きっと彼女の魔力量が予想より多くパンクしてしまったのだろう。呪具もそして術者の方も。
 流石聖女と言うべきだろうか。
 サクラは自由になった声で思い切り叫んだ。

「ちょっと! そんなバカ王子構うより私を助けてよね、リリーナ!」
「……流石聖女様、自力で呪法を打ち破るとは流石ですわ」
「ほんっと、いじわるなんだから!そういうの嫌いじゃないけど!!」

 三年かけたけれどこの口調と性格はとうとう矯正できなかったわね。

 私は苦笑いを浮かべながら悪友に近づく。
 彼女は待ちきれないように自分から私の腕にしがみついてきた。

「な、リリーナ、お前、そいつと……」
「ええ、わたくしと彼女は一年生の頃からとても親しくしております。命を狙うどころか、身を挺して御守りする覚悟ですわ」

 ご存じなかったのですか?仮にも私の婚約者でしたのに。
 彼が私に全く興味がないことを承知の上で冷たく告げる。

「そうだよ、私とリリーナは転生仲間で、いやそれよりもカス王子、よくも私を騙してくれたわね!」

 二人だけで秘密の話があるとか言われたから愛の告白かと思ったじゃない!王子エンドかと思ったのに!
 そう見物人たちの目も弁えず叫ぶ聖女を私は抱きしめ、こっそりとその腹を闇の魔力を込めた拳で殴った。

「ぐふっ!」
「皆様、聖女様はどうやら一時的に錯乱されているようです、誘拐され酷い目にあったのだから仕方ありませんね……?」

 私の言葉に成り行きを見守っている生徒たちがこくこくと頷く。
 それを確認してから私は抱き寄せてたサクラにこっそり囁いた。

「全く、乙女ゲー脳とやらは卒業するって言うのは嘘だったの?」 
「い、いや私は、アホ王子の告白を断ろうと思って……王妃とか絶対無理だし」

 同じく小声で返してきた彼女の言葉を一応は信じてみることにして、私は呆然としている王子に視線を移した。

「リアム殿下、貴男は恋人と共謀し聖女サクラを攫い冤罪という形でわたくしの処刑を企んだ。重罪は覚悟されることです」 
「そうだそうだ、私を後ろから殴って気絶させたこともジューザイなんだから!!」
「うるさい、それよりもアンジーはどうなったんだっ!!彼女に何かしたら許さんぞ!!」

 子供のように怒るサクラを無視して私は王子の発言内容を考える。
 この期に及んでまだ許さないなどと口に出来るのかと呆れながら私は答えを返した。

「……聖女に呪いをかけた術者が彼女なら、強大過ぎる光の魔力に焼かれ激痛の渦中にいるかと思います」

 命あるならばですが。私の言葉に王子は半泣きになる。
 サクラは先程毒蛇のチョーカーを破壊する為に意図して自身の魔力を注ぎ込んだ。
 結果チョーカーは破壊されたが、その直前まで凄まじい魔力が術者にも届いていた筈だ。
 水を入れすぎた風船の末路を私は想像した。

「う、嘘だっ!」
「嘘ではありません、魔力吸収とはかける側にもリスクの高い術。だからこそあの呪具も王室が厳重に管理していたのです」
「だがっ、アンジーは優秀な自分なら使いこなせると……」
「アロウズ伯爵令嬢がこの場にいないのは呪具を発動させるだけで、かなり消耗されたからでは?」
「それは……」

 私の予想は当たっていたらしく王子の声が目に見えて勢いを無くす。よく見れば青い瞳には大粒の涙が浮かんでいた。
 哀れに見える姿だが、同情する余地は全くない。
 彼らの企みが成功していれば私たちは間違いなく悲惨な死を迎えたのだ。
 きっと私の処刑後サクラも始末されていたに違いない。
 アロウズ伯爵令嬢に王子が渡した呪具で魔力を根こそぎ吸い取られて。

「光と闇は反発しあうもの。闇魔力の保有者が自分よりも強い光の魔力を吸収しようとすれば破滅以外の運命はございません」
「嘘だ……俺のアンジーが、彼女が死ぬ筈ないんだ……」

 意気消沈し大人しくなった王子を観察魔法を使い診る。洗脳や魅了の魔力は感じられない。
 酷く落ち込んだ様子の彼は今の恋人を本当に愛しているのだと思う。
 だがその愛が真実だからと言って他人の命を犠牲にする行為が許される筈がないのだ。

「たとえ命があったとしても聖女に危害を加え公爵家の人間を死罪に陥れようとした、伯爵家の人間だろうと極刑は免れないでしょう」
「黙れっ!黙れよ……アンジー、アンジーっ!」

 そう恋人の名を呼び続ける殿下に溜息を吐く。
 私はパーティー会場にいた警備兵を呼びつけ念の為王子を拘束させた。取り押さえられた彼の声が嗚咽が場に流れる。

「ねえリリーナ、卒業パーティーってやり直しだよね?私まだ御馳走食べてないんだけど」

 サクラの空気を全く読まない能天気発言が清涼剤に感じられるほどパーティ―会場の空気は重苦しかった。
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