勇者の帰りを待つだけだった私は居ても居なくても同じですか? ~負けヒロインの筈なのに歪んだ執着をされています~

砂礫レキ

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第一章

六十話※ある魔物視点

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 墓場に勇者とその幼馴染の男はいた。
 どうやら亡くなった親たちに恥ずかしくないのかという話をしているようだ。
 ただの村人に魔王を倒した勇者が一方的に説教されているのは滑稽だった。
 だがライルのことを笑える立場でない。
 偉大な魔族の将軍に生み出された己は村の小娘に力ごと乗っ取られ走狗と化した。
 そしてリンナの命令で今捨て駒として最期の役目を終えようとしているのだ。
 狂っている。破綻している。これが物語なら完全に駄作だ。
 魔物である自分が勇者を殺すか、勇者が自分を返り討ちにするか。
 そんなシンプルな結末しかない筈なのに、一人の小娘が好き勝手にかき回した。
 その欲望の強さ、ただそれだけで。
 己の主人である魔樹将軍は人選を誤ったのだ。
 人間の心は恐らく自分たち魔族よりも複雑でねじくれている。
 けれど悪あがきはした。最期の希望も捨てない。
 勇者は出来るだけ、痛めつけ、可能なら殺す。
 その為には長く彼らとやり取りを続けなければけない。
 自分の『監視者』であるリンナが飽きて目を離すまで退屈な劇を演出するのだ。
 人形なら用意できている。後は演じるだけだ、リンナにも勇者にも気づかれないように。
 賢く勘のいい一部の人間だけに悟られる程度に。
 狂っていて、悪趣味で、発言がコロコロ変わる精神の破綻したサディスト。
 意味深なことを言い続けて、肝心なことだけはしないで、生かさず殺せず。
 その時が来るのを待った。

「ルーナ姉さん!」

 女の悲痛な声が聞こえる。自分と繋がっているリンナが笑うのを感じた。
 やはりすんなりと家の仕掛けには気づかなかったと失望しながらその顔を見る。
 ライルとリンナに異常な執着をされている村娘アデリーン。
 きっと本人はそのことに気づいてすらいない。
 いつ見ても普通の地味な村娘だ。取り立てて若くも美しくもない。
 だが彼女は、自分を睨みつけていた。ただの村娘の癖に。
 勇者と、その幼馴染の男を捕えている己を前にして逃げ出すこともしない。
 けれど恐怖に逃げ出してもおかしくない立場の人間。彼女に賭けることにした。
 そうだ、そうやって私を見ていろ。私の行動を見て『おかしい』と思え。

「首の先からぁ、すっごく細い糸っぽい根が出てるっしょ?これが家にある人面花と繋がってるのよ。文字通り生命線って奴ぅ?」

 そしてその糸は、一本だけではなかっただろう?そこまでは言葉にしない。
 だが勘づいてくれ。
 これから語る意味深な言葉の数々を決して聞き逃してくれるな。
 リンナの監視下においてリンナそのもののように振舞いながら、私はアデリーンに語り掛け続けた。

 
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