勇者の帰りを待つだけだった私は居ても居なくても同じですか? ~負けヒロインの筈なのに歪んだ執着をされています~

砂礫レキ

文字の大きさ
上 下
60 / 66
第一章

五十九話※ある魔物視点

しおりを挟む
 勇者の愚かさ、流されやすさはリンナの企てにより知っていた。

 けれど愚か者だけでは魔王討伐など成し遂げられなかっただろう。

 つまり、勇者以外に聡いものが他にいるということだ。

 そう双子草は予想を立てる。

 そしてその上で勇者と組んでいた女戦士二人。

 その内のいずれかか両方、それにリンナの本体をこっそりと知らせる気でいた。

 リンナ自身への攻撃によって、双子草への支配が弱まることを狙っての策謀だ。

 勇者やアデリーンの件でわかるが完全に魔物の姿となった今でもリンナの中身は変わらない。

 村娘の価値観を有している彼女は『殺人』を大罪だと考えているのだ。だからそれだけは避ける。

 しかしそれはあくまで建前であって、襲い掛かられたら抵抗するだろうしその上で殺害もするだろう。

 もしくは猛獣のように相手を殺す気がなくても力の抑えが効かず殺してしまうことも有り得る。

 そしてその時にリンナは全く悪びれないだろう。彼女の道徳観は歪だ。

 父親を生きたまま奇怪な植物にする程度には。

 リンナの許可を得て彼女の父親が植えられた鉢植えを、宅内の目立つところに置く。

 勇者の仲間に家に踏み込まれた時に地下でなく別の場所を誘導させる目的で使うのだ。

 その為の台詞は双子草が考えて奇怪な植物に覚えさせた。

 本当はこの男の妻も娘も地下にいるが、墓場にいるように誤解させなければいけない。

 リンナに頼んで、まるで目印のように長い根を数本都合させて貰った。

 幾つかの鉢植えと組み合わせて分かり易く謎めいた感じを演出する。

 その作業の中でその内の一本を、こっそりと地下を辿れるような形で室内に残す。

 リンナに気付かれた時の為に、対策したと見せかける為の罠用の魔植物も設置した。

 どの道この程度倒せなければリンナ本体に叶うことはないだろう。

 せっせと作業する娘と同じ姿の魔物をリンナの父親は何も言わず虚ろな目で見ていた。

 目が合い、気まぐれに話しかける。

 未婚のリンナの胎が膨らんだことにこの男は激怒し娘を地下に幽閉した。

 そのまま衰弱死させるつもりだったのか、地下で飼殺すつもりだったのかはわからない。

 けれどリンナはあっさりと人間であることを捨てて、力を選んだ。

 結果この男が制裁されたことに同情はしないが、リンナの狂った道徳観が理由で生かされているのは哀れだと思う。  


「……死にたいか?」

「タスケテクレ」

「……それは私の台詞なんだがな」

「タスケテクレ、ツマヲ、タスケ」

「……あれは上手く媚びている。案外最後まで生き残るだろうよ。私たちと違ってな」


 お互いろくな死に方はしないだろうが、お前の方が早く逝けるだろう。

 そう慰めるように双子草は笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

叶えられた前世の願い

レクフル
ファンタジー
 「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー

我が家に子犬がやって来た!

ハチ助
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

ドアマット扱いを黙って受け入れろ?絶対嫌ですけど。

よもぎ
ファンタジー
モニカは思い出した。わたし、ネットで読んだドアマットヒロインが登場する作品のヒロインになってる。このままいくと壮絶な経験することになる…?絶対嫌だ。というわけで、回避するためにも行動することにしたのである。

【完結】婚約者も求愛者もお断り!欲しいのは貴方の音色だけ

一茅苑呼
ファンタジー
【音楽✕身分違い✕現代風ファンタジー】 ── 主な登場人物 ── *猫山 未優 「あたしが“歌姫”としてやっていくなら、 あなた以外の“奏者”は考えられない」 主人公。『山猫族』の“純血種”。 よく言えば素直、悪く言うと単純。 *犬飼 留加 「君のために弾こう。これから先何度でも。 ……弾かせてくれ」 『犬族』の“混血種”でヴァイオリニスト。 生真面目で融通がきかない。 *猫山 慧一 「緊張するなとは言わんが、人前で 不細工なツラをさらすのは、やめろ」 『山猫族』の“純血種”。 未優の婚約者でお目付け役のような存在。 *虎坂 薫 「異なる“種族”の恋愛は、タブーだって? 誰が決めたの? 世間一般の常識ってヤツ?」 『虎族』の“純血種”。物腰は柔らかだが 強引なところがあり、未優を困らせる存在。 *虎坂 響子 「ハッキリ言うよ。あんたはまともなやり方じゃ “歌姫”になれないんだ」 『虎族』の“混血種”。 強かで誰に対しても容赦なし。 *シェリー 「可愛いって言ってもらえて嬉しいわ。私もこの耳、 自分のチャームポイントだと思ってるから」 “異種族間子”の女性。 『王女』の“地位”にある“歌姫”。 ※他サイトでも掲載中。原題『山猫は歌姫をめざす』。 アルファポリスさんのみタイトル変更しました。 ※※※表紙画像はAIイラストです※※※

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

幼馴染を溺愛する旦那様の前から、消えてあげることにします

新野乃花(大舟)
恋愛
「旦那様、幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

今度こそ幸せになります! 小話集

斎木リコ
ファンタジー
『今度こそ幸せになります!』の小話集です。

処理中です...