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第一章
五十七話 ※ある魔物視点
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アデリーンに奇妙な執着を見せている勇者とリンナ。
こそこそと彼女の部屋に忍び込んでいる両名が鉢合わせするのは自然ななりゆきだったのだろう。
勇者と対面したのは地下で魔植物となったリンナではなく、今や端末として操られている双子草の方だったが。
殺されると、正直思った。勇者を前にした魔物なら当然の恐怖だった。
だが、彼はひたすら狼狽していた。
ふしだらな行為を第三者に見られ狼狽える愚かな若者のように。いや、愚かな凡人そのものだった。
それを確信した双子草は勇者の殺害へと動く。しかしそれをリンナが止めた。
魔植物の宿主は、アデリーンを精神的に痛めつける為にまだ彼に生きていてもらう必要があるのだと告げた。
しかしこの時ばかりは双子草も必死で抵抗した、だが女王であるリンナから支配権を取り戻すことはできなかった。
なぜ、己はこんなにも無力なのだろう。
それは植物である為感情の希薄な双子草が初めて覚えた深刻な悲しみだった。
自分は偉大なる魔樹将軍に直々に創られた存在の筈なのに、どうしてたかが人間の女の走狗と化しているのだろう。
彼の願いである勇者討伐を果たせる絶好の機会だというのに。
魔樹将軍は数千の植物の種をその身に宿し己が望む性能の魔植物を創り出すことが出来る。
その彼に勇者殺害の手段として選ばれた己のこの無力さは何だと言うのだろう。
最早言葉を自らの意思で発する権利すら取り上げられ地中のリンナの端末となり双子草は勇者を仕草と言葉で惑わす。
アデリーンに他の男がいると囁くだけでライルは驚くほど簡単に自暴自棄になった。
愛している筈の女の悪口を、こちらが唆すままに口にして歪んだ笑みで笑う。
「いや恋人とかまじ無理だよ、あいつ地味で居ても居なくても同じだし」
それは、そう思えたら楽になると言う暗示でしかない。
なぜなら勇者は笑いながら涙を流しているのだから。
勇者という存在でありながら相手の男を殺して女を奪う気概もないのか。そこが魔族と人間の違いなのか。
扉の向こうに人間の気配を感じる。アデリーンだろう。
今すぐ扉を蹴破り怒鳴り込めばいいと思うがそれもしない。ただ嗚咽のような微かな声が聞こえた。
扉を隔てて男と女が泣いている。
魔王を討伐した勇者と、故郷で帰りを待っていた女という立場に似合わない惨めさだった。
その事態を招いたリンナだけが双子草にのみ聞こえる声でひたすら醜く哄笑していた。
こそこそと彼女の部屋に忍び込んでいる両名が鉢合わせするのは自然ななりゆきだったのだろう。
勇者と対面したのは地下で魔植物となったリンナではなく、今や端末として操られている双子草の方だったが。
殺されると、正直思った。勇者を前にした魔物なら当然の恐怖だった。
だが、彼はひたすら狼狽していた。
ふしだらな行為を第三者に見られ狼狽える愚かな若者のように。いや、愚かな凡人そのものだった。
それを確信した双子草は勇者の殺害へと動く。しかしそれをリンナが止めた。
魔植物の宿主は、アデリーンを精神的に痛めつける為にまだ彼に生きていてもらう必要があるのだと告げた。
しかしこの時ばかりは双子草も必死で抵抗した、だが女王であるリンナから支配権を取り戻すことはできなかった。
なぜ、己はこんなにも無力なのだろう。
それは植物である為感情の希薄な双子草が初めて覚えた深刻な悲しみだった。
自分は偉大なる魔樹将軍に直々に創られた存在の筈なのに、どうしてたかが人間の女の走狗と化しているのだろう。
彼の願いである勇者討伐を果たせる絶好の機会だというのに。
魔樹将軍は数千の植物の種をその身に宿し己が望む性能の魔植物を創り出すことが出来る。
その彼に勇者殺害の手段として選ばれた己のこの無力さは何だと言うのだろう。
最早言葉を自らの意思で発する権利すら取り上げられ地中のリンナの端末となり双子草は勇者を仕草と言葉で惑わす。
アデリーンに他の男がいると囁くだけでライルは驚くほど簡単に自暴自棄になった。
愛している筈の女の悪口を、こちらが唆すままに口にして歪んだ笑みで笑う。
「いや恋人とかまじ無理だよ、あいつ地味で居ても居なくても同じだし」
それは、そう思えたら楽になると言う暗示でしかない。
なぜなら勇者は笑いながら涙を流しているのだから。
勇者という存在でありながら相手の男を殺して女を奪う気概もないのか。そこが魔族と人間の違いなのか。
扉の向こうに人間の気配を感じる。アデリーンだろう。
今すぐ扉を蹴破り怒鳴り込めばいいと思うがそれもしない。ただ嗚咽のような微かな声が聞こえた。
扉を隔てて男と女が泣いている。
魔王を討伐した勇者と、故郷で帰りを待っていた女という立場に似合わない惨めさだった。
その事態を招いたリンナだけが双子草にのみ聞こえる声でひたすら醜く哄笑していた。
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