勇者の帰りを待つだけだった私は居ても居なくても同じですか? ~負けヒロインの筈なのに歪んだ執着をされています~

砂礫レキ

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第一章

五十五話 ※ある魔物視点

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 勇者を毒草でじわじわと弱らせていくのも、死者の姿に配下の植物を擬態させるのも。

 人間を植物に作り替えるのも。

 全て元は人間であるリンナの発案だった。

 それを彼女が行う度、双子草は期待をした。

 魔樹将軍の願い通りに勇者が苦しんで殺されることを。 

 けれど勇者は苦悩はしても死ぬことはなかった。

 彼もその番になる予定らしき村の女も変わらない日常を送り続けている。


「馬鹿ね、本当はそンなことないのよ」


 双子草の不満を支配者であるリンナはせせら笑った。

 ライルとアディー、二人の男女の関係は確実に悪化していると。

 双子草が望むのはそんな曖昧なものではなく確実な勇者の死だ。

 そう強く主張すれば鬱陶しいとばかりに思考力と伝達力を制限された。

 リンナが望んだ時以外は双子草からの疎通を持ち掛けることは許されない。

 更に拠点である地下も追い出され墓場に追いやられた。

 そこの遺体を利用しアディーと呼ばれる村娘の姉の姿を再現する練習をしろと。

 その頃には双子草の人間時の外見はリンナの姿に戻っていた。

 皮肉にもリンナ本体は人間の姿から完全にかけ離れたものになっていた。

 死者の姿でライルを追い詰めるのなら彼の父母を擬態した方が適しているのではないか。

 予想以上に長期間リンナと接続されていた為、双子草も若干人間の倫理観に寄った考えが出来るようになっていた。

 だが、だからこそ宿主であるこの女の考えはいつまで経っても理解できない。


「わかってないわね。アディーがライルを捨ててレンさんに逃げた時に、それを責める為に使うのよ』


 レンの元恋人であるルーナに裏切り者呼ばわりさせたら、アデリーンは死人のように真っ青になって怯えるだろう。

 そのまま自らの罪深さを恥じて死んでしまうかもしれない。

 ライルのものにもレンのものにもなることなく独りで。

 そう説明されても双子草は納得できない。


「リンナ、死に追いやるのなら勇者の方では」

「馬鹿ね、アディーを苦しめれば苦しめる程、勇者も不幸になるのよ」


 アンタは黙ってアタシの命令を聞いていなさい。

 そう不愉快そうに言われ会話のリンクを断たれる。

 まるで愚かな女王の奴隷になったようだと大分人間らしくなった思考で双子草は憤った。
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