54 / 66
第一章
五十三話 ※ある魔物視点
しおりを挟む
『女王』の視線を感じなくなった。
そう双子草は敏感に察する。本体の関心は墓場から移ったのだと。
人間の女の胎に魔樹将軍によって植えられ、時が来れば主導権を奪うつもりだった。
今度の宿主は、手癖の悪いだけの取り柄のない村娘。簡単に乗っ取り簡単に使い捨てる筈だった。
それなのに、盗まれ、奪われていたのは魔物である己の方だった。
リンナを内側から唆し操り最後には養分にするつもりが、能力ごと吸収され肥大したのは向こうの方。
それは大層癪だったが、将軍の望む通りの結果が得られるならと甘んじて枝葉の一部となった。
リンナが亡霊綿毛などの毒草を使って勇者をじわじわと弱らせていった時は感心さえした。
そのまま自殺に追い込むもよし、精神を破壊して戦えなくなった所を殺すのもよし。
勇者との力量差を搦手で縮める良案だと褒めてやりたくなったぐらいだ。そのような権利さえ最早この身に与えられてはいなかったが。
だがリンナは勇者を殺さなかった。ただ弱らせていっただけだった。
けれど双子草は魔樹将軍の命令を思い出した。魔王を倒した勇者への復讐の為自分は今ここにいる。
そして復讐というなら苦しめて殺すべきではないだろうかと。
だからその時が来るまでリンナのどこか煮え切らない凶行を双子草は手伝った。
けれど人間の愚かさを煮詰めた存在である彼女は魔物からしても不快な存在だった。
悪いのは自分以外の全て。自分が罪を犯すのは自分のせいではない。だから許されるべきである。
そのように身勝手さを極めすぎて狂人の域に達していた女は、自らの両親に対しても矛盾した行動を取り続ける。
彼女の父親は魔物と化した娘とともに死のうとした。しかし人間の老いぼれが魔物に勝てる道理はない。
リンナの根であっさりと全身の骨を砕かれた。そのまま殺すのかと双子草は傍観していたがリンナは殺さなかった。
父親の体を双子草の助けを借りて生きながら腑分けしつつ奇妙な植物へと作り変えた。
以降殺してくれとだけたどたどしく繰り返す醜い鉢植えにリンナは笑って言った。
「嫌よ、人殺しなんて大罪じゃない」
だから勝手に弱って死んでいけばいいわ。
そう言いながらも実際に弱れば栄養を与え生かした。
酷薄に笑う女の台詞が本心からのものだと繋がっている双子草だけが知っていた。
そう双子草は敏感に察する。本体の関心は墓場から移ったのだと。
人間の女の胎に魔樹将軍によって植えられ、時が来れば主導権を奪うつもりだった。
今度の宿主は、手癖の悪いだけの取り柄のない村娘。簡単に乗っ取り簡単に使い捨てる筈だった。
それなのに、盗まれ、奪われていたのは魔物である己の方だった。
リンナを内側から唆し操り最後には養分にするつもりが、能力ごと吸収され肥大したのは向こうの方。
それは大層癪だったが、将軍の望む通りの結果が得られるならと甘んじて枝葉の一部となった。
リンナが亡霊綿毛などの毒草を使って勇者をじわじわと弱らせていった時は感心さえした。
そのまま自殺に追い込むもよし、精神を破壊して戦えなくなった所を殺すのもよし。
勇者との力量差を搦手で縮める良案だと褒めてやりたくなったぐらいだ。そのような権利さえ最早この身に与えられてはいなかったが。
だがリンナは勇者を殺さなかった。ただ弱らせていっただけだった。
けれど双子草は魔樹将軍の命令を思い出した。魔王を倒した勇者への復讐の為自分は今ここにいる。
そして復讐というなら苦しめて殺すべきではないだろうかと。
だからその時が来るまでリンナのどこか煮え切らない凶行を双子草は手伝った。
けれど人間の愚かさを煮詰めた存在である彼女は魔物からしても不快な存在だった。
悪いのは自分以外の全て。自分が罪を犯すのは自分のせいではない。だから許されるべきである。
そのように身勝手さを極めすぎて狂人の域に達していた女は、自らの両親に対しても矛盾した行動を取り続ける。
彼女の父親は魔物と化した娘とともに死のうとした。しかし人間の老いぼれが魔物に勝てる道理はない。
リンナの根であっさりと全身の骨を砕かれた。そのまま殺すのかと双子草は傍観していたがリンナは殺さなかった。
父親の体を双子草の助けを借りて生きながら腑分けしつつ奇妙な植物へと作り変えた。
以降殺してくれとだけたどたどしく繰り返す醜い鉢植えにリンナは笑って言った。
「嫌よ、人殺しなんて大罪じゃない」
だから勝手に弱って死んでいけばいいわ。
そう言いながらも実際に弱れば栄養を与え生かした。
酷薄に笑う女の台詞が本心からのものだと繋がっている双子草だけが知っていた。
2
お気に入りに追加
6,090
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女は祖国に未練を持たない。惜しいのは思い出の詰まった家だけです。
彩柚月
ファンタジー
メラニア・アシュリーは聖女。幼少期に両親に先立たれ、伯父夫婦が後見として家に住み着いている。義妹に婚約者の座を奪われ、聖女の任も譲るように迫られるが、断って国を出る。頼った神聖国でアシュリー家の秘密を知る。新たな出会いで前向きになれたので、家はあなたたちに使わせてあげます。
メラニアの価値に気づいた祖国の人達は戻ってきてほしいと懇願するが、お断りします。あ、家も返してください。
※この作品はフィクションです。作者の創造力が足りないため、現実に似た名称等出てきますが、実在の人物や団体や植物等とは関係ありません。
※実在の植物の名前が出てきますが、全く無関係です。別物です。
※しつこいですが、既視感のある設定が出てきますが、実在の全てのものとは名称以外、関連はありません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
叶えられた前世の願い
レクフル
ファンタジー
「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー
隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました
しろねこ。
恋愛
三国から攻め入られ、四面楚歌の絶体絶命の危機だったけど、何とか戦を終わらせられました。
つきましては和平の為の政略結婚に移ります。
冷酷と呼ばれる第一王子。
脳筋マッチョの第二王子。
要領良しな腹黒第三王子。
選ぶのは三人の難ありな王子様方。
宝石と貴金属が有名なパルス国。
騎士と聖女がいるシェスタ国。
緑が多く農業盛んなセラフィム国。
それぞれの国から王女を貰い受けたいと思います。
戦を仕掛けた事を後悔してもらいましょう。
ご都合主義、ハピエン、両片想い大好きな作者による作品です。
現在10万字以上となっています、私の作品で一番長いです。
基本甘々です。
同名キャラにて、様々な作品を書いています。
作品によりキャラの性格、立場が違いますので、それぞれの差分をお楽しみ下さい。
全員ではないですが、イメージイラストあります。
皆様の心に残るような、そして自分の好みを詰め込んだ甘々な作品を書いていきますので、よろしくお願い致します(*´ω`*)
カクヨムさんでも投稿中で、そちらでコンテスト参加している作品となりますm(_ _)m
小説家になろうさん、ネオページさんでも掲載中。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる