勇者の帰りを待つだけだった私は居ても居なくても同じですか? ~負けヒロインの筈なのに歪んだ執着をされています~

砂礫レキ

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第一章

五十三話 ※ある魔物視点

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『女王』の視線を感じなくなった。

 そう双子草は敏感に察する。本体の関心は墓場から移ったのだと。

 人間の女の胎に魔樹将軍によって植えられ、時が来れば主導権を奪うつもりだった。

 今度の宿主は、手癖の悪いだけの取り柄のない村娘。簡単に乗っ取り簡単に使い捨てる筈だった。

 それなのに、盗まれ、奪われていたのは魔物である己の方だった。

 リンナを内側から唆し操り最後には養分にするつもりが、能力ごと吸収され肥大したのは向こうの方。

 それは大層癪だったが、将軍の望む通りの結果が得られるならと甘んじて枝葉の一部となった。

 リンナが亡霊綿毛などの毒草を使って勇者をじわじわと弱らせていった時は感心さえした。 

 そのまま自殺に追い込むもよし、精神を破壊して戦えなくなった所を殺すのもよし。

 勇者との力量差を搦手で縮める良案だと褒めてやりたくなったぐらいだ。そのような権利さえ最早この身に与えられてはいなかったが。

 だがリンナは勇者を殺さなかった。ただ弱らせていっただけだった。

 けれど双子草は魔樹将軍の命令を思い出した。魔王を倒した勇者への復讐の為自分は今ここにいる。

 そして復讐というなら苦しめて殺すべきではないだろうかと。

 だからその時が来るまでリンナのどこか煮え切らない凶行を双子草は手伝った。

 けれど人間の愚かさを煮詰めた存在である彼女は魔物からしても不快な存在だった。

 悪いのは自分以外の全て。自分が罪を犯すのは自分のせいではない。だから許されるべきである。

 そのように身勝手さを極めすぎて狂人の域に達していた女は、自らの両親に対しても矛盾した行動を取り続ける。

 彼女の父親は魔物と化した娘とともに死のうとした。しかし人間の老いぼれが魔物に勝てる道理はない。

 リンナの根であっさりと全身の骨を砕かれた。そのまま殺すのかと双子草は傍観していたがリンナは殺さなかった。

 父親の体を双子草の助けを借りて生きながら腑分けしつつ奇妙な植物へと作り変えた。

 以降殺してくれとだけたどたどしく繰り返す醜い鉢植えにリンナは笑って言った。


「嫌よ、人殺しなんて大罪じゃない」


 だから勝手に弱って死んでいけばいいわ。

 そう言いながらも実際に弱れば栄養を与え生かした。

 酷薄に笑う女の台詞が本心からのものだと繋がっている双子草だけが知っていた。
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