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第一章
五十話
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「……アタシねェ、盗むのが好きなんだと思ってた」
でも違った。リンナは恍惚とした口調で言う。
魔物になった己を恥じることなく、寧ろ誇らしげに異形の体を晒していた。
ライルに近づいた時は分身体、人間の姿を取っていたのだろう。
私の家で相対した時のように。
「勇者であるライル君の中身をこっそりグチャグチャにしていくのはとても楽しかったの」
だから時間をかけて念入りに中毒にした。そうリンナは語る。
それは親が大切にしている高価な本に泥水をぶちまけたり、貴族の買っている犬に毒餌を与えるような快感だった。
そう、うっとりと語る彼女のたとえ話に私は全く共感が出来ない。
やはりリンナは歪んでいる。盗み癖だけで済んでいたのが幸運だと思える程に。
「アタシが魔物であることにすら気づかず彼はアタシの語る出鱈目を信ジた」
結果、想い人への愛は憎しみに、執着は恨みに変わった。
けれど愛が失せたと強がりながらも、捨てられることを恐れて本人に問いただすことはできない。
恋を奪われた勇者は誘われるがままにリンナを女として求めた。
そう、当事者の魔物は楽し気に私に伝えてきた。
「アンタの悪口を強がりながら言って、自分で自分の恋に爪を立てる彼は愚かで可愛らしかったわ」
アディーにも聞かせてあげたかったぐらい。そうにまにまと笑いながら魔物は言う。
知っていて言っているのだ、私がその会話を立ち聞きしていた事実を。この女は。
「世界で一人しかいない勇者サマを、弱らせて狂わせて駄目にして……お姫様なアンタから奪う」
名誉を捨て村に帰ってきた勇者と、長年帰りを健気に待っていた年上の幼馴染。
戦いで弱っていた青年に献身的に尽くす女。
「……こンなの、台無しにしたら楽しいに決まっているじゃない!」
盗むのが好きなのではなく、奪うのが好きだったのだ。
魔物になってようやくそのことに気付けた。
私は初めて本当の自分を知ったのよ。まるで宗教者のようにリンナは胸の前で指を祈りの形に結んだ。
でも違った。リンナは恍惚とした口調で言う。
魔物になった己を恥じることなく、寧ろ誇らしげに異形の体を晒していた。
ライルに近づいた時は分身体、人間の姿を取っていたのだろう。
私の家で相対した時のように。
「勇者であるライル君の中身をこっそりグチャグチャにしていくのはとても楽しかったの」
だから時間をかけて念入りに中毒にした。そうリンナは語る。
それは親が大切にしている高価な本に泥水をぶちまけたり、貴族の買っている犬に毒餌を与えるような快感だった。
そう、うっとりと語る彼女のたとえ話に私は全く共感が出来ない。
やはりリンナは歪んでいる。盗み癖だけで済んでいたのが幸運だと思える程に。
「アタシが魔物であることにすら気づかず彼はアタシの語る出鱈目を信ジた」
結果、想い人への愛は憎しみに、執着は恨みに変わった。
けれど愛が失せたと強がりながらも、捨てられることを恐れて本人に問いただすことはできない。
恋を奪われた勇者は誘われるがままにリンナを女として求めた。
そう、当事者の魔物は楽し気に私に伝えてきた。
「アンタの悪口を強がりながら言って、自分で自分の恋に爪を立てる彼は愚かで可愛らしかったわ」
アディーにも聞かせてあげたかったぐらい。そうにまにまと笑いながら魔物は言う。
知っていて言っているのだ、私がその会話を立ち聞きしていた事実を。この女は。
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